社会構造の変化と中小企業に期待される取組
昨年5月に約30年間続いた「平成」が終わり、新しい「令和」の時代が始まりました。平成の約30年間を振り返ると経済・社会の構造は大きく変化し、今後も中小企業においては、柔軟な環境変化への対応(自己変革)が求められていくことになるでしょう。
今回は、2019年版白書で取り上げた三つの経済・社会の構造変化※1のうち、「デジタル化」に関するデータや事例について解説していきます。
※1:2019年白書では、三つの経済・社会の構造変化として、「人口減少」「デジタル化」「グローバル化」を取り上げている。
インターネットの利用状況
1990年代に民間でのインターネット利用が可能になってから、その世帯普及率は2010年以降ではおおむね80%の水準で推移しています※2。このような中、インターネット利用の媒体として、パソコンやスマートフォンが思い浮かぶかと思いますが、前者は2010年から17年にかけて、全世代を通じて保有率が低下している一方、後者は全世代を通じて保有率が大幅に上昇しています( 図1 ①②)。また、図1 ③を見ると、インターネットで利用したサービスのうち、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)については、10年から17年にかけて利用率が大幅に高まっています。
※2:平成30年版情報通信白書より。
こうした中、中小企業におけるインターネットの活用状況はどのようになっているでしょうか。ホームページは、17年で87%とすでに大半が開設しており、大企業(同96%)と大差はありません。一方、ソーシャルメディアサービスの活用は、17年で大企業の37%に対し、中小企業は25%と、11年から差が拡大しています( 図2 )。
ここでいうソーシャルメディアサービスとは、ブログやSNS、動画共有サイトを指していますが、いずれも無料・安価で利用できるサービスが多く、中小企業にとっては比較的導入しやすいマーケティングツールであると考えられます。また、これらを活用した情報発信は、テレビCMや広告チラシといった一方的な情報発信と異なり、双方向でターゲットに合わせた情報発信が可能という特徴を有しており、「顧客との関係性」の強化を目指す場合には、積極的に取り込むことも重要といえるでしょう。
中小企業のIoT・AI導入状況
ICT技術の急速な発達を背景にした経済社会のデジタル化は、産業構造を大きく変化させる可能性があり、これらの新技術を基盤とした新たな製品やサービスも生み出されつつあります。こうしたICT技術を活用した商品やサービスは、「大企業と中小企業における規模の格差」を解消する可能性を秘めていると考えられます。
IoTやAIが注目される理由としては、大量のデータを収集・分析することで様々な課題解決に活用できることなどが挙げられます。こうした中、中小企業においては、大企業と比較してIoTやAIの導入に総じて消極的という状況が見てとれます( 図3 )。
IoTを導入しない理由としては、中小企業のみならず大企業でも、「導入後のビジネスモデルが不明確」が最も多くなっています( 図4 )。たしかに、IoTやAIはあくまで自社の経営課題を解決するためのツールの一つであるため、これらの活用可能性を検討する前に、まずは解決すべき経営課題が何かを明確にすることが重要といえるでしょう。
一方、IoTを導入している企業における、収集・蓄積したデータの活用方法について見てみると、大きく「既存業務の改善」と「商品・サービスの開発や展開」に大別されます( 図5 )。前者は中小企業・大企業ともに活用が一定程度進んでいることが見てとれますが、後者は、いずれにおいても活用が進んでいないことが顕著であるといえます。中小企業にとっては、これまで暗黙知として扱ってきたデータや注視してこなかったデータを収集・分析することで、新たな事業展開や成長機会につなげることもできるのではないでしょうか。
最後に
白書では、サポイン補助金※3を活用して、AIの導入に取り組んだ㈱ヒバラコーポレーション(茨城県)の事例を紹介しています。具体的には、塗装現場における熟練技術者不足という課題解決を目的として、塗装現場での熟練技術者の操作をデータベース化し、AI等を利用することで、データ化された熟練技術者の技術をロボットアームに再現させるといった内容です。
ほかにも、IoTの導入により拠点間での連携の改善に取り組む建設用仮設資材リースの杉崎リース工業㈱(新潟県)や、AIによるデータ分析で業績改善や売上拡大を実現した飲食店の㈲ゑびや(三重県)を取り上げています。多様な事例から、IoT・AI等を活用することで何を得られるかなどをイメージしてもらうきっかけになれば幸いです。
※3:戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)は、中小企業が担うものづくり基盤技術の高度化に向けた研究開発およびその成果の利用を支援する事業で、3年間で最大9750万円の補助金が受けられる制度。
中小企業庁 事業環境部
企画課調査室 調査係長
江場教智
(えばたかのり)
(2018年4月より当社から出向中)
機関誌そだとう202号記事から転載