アンケート調査から見る事業承継の実態
事業承継を含む経営資源の引き継ぎはますます重要に
中小企業・小規模事業者数は減少傾向にある中、企業が培ってきた経営資源を引き継ぎ、有効活用し企業成長に活かす事業承継の取り組みは、我が国経済の持続的な成長には引き続き重要なものといえます。今回は、経営資源の引き継ぎ※1のうち、事業承継に関するデータについて解説していきます。
事業承継と企業パフォーマンスの関係
一般的に、経営者の年齢が低くなるほど、長期的な視野に立った経営を行い、事業を拡大しようとする意向が強くなる※2といわれていますが、事業承継における経営者交代は、業績にどのような影響を与えるのでしょうか。
2.グラフ上のアスタリスクは統計上の有意水準を示しており
*…10%有意 **…5%有意 ***…1%有意 となっている。
図1 は、事業承継をした企業と、していない企業の売上高・総資産のそれぞれの成長率を、事業承継後の経営者の年齢別に比較したものです(数値が大きいと効果が大きい)。新しい経営者の年齢が30代以下の場合は、事業承継の翌年から5年後までの間、していない企業と比較して売上高成長率を押し上げる効果が見てとれ、総資産の成長率については40、50代と比べて差が顕著に出ていることがわかります。
他方、後継者の事業拡大に対する意識について確認してみましょう。
図2は、事業を承継することが決まった者(以下、後継決定者)の事業規模に対する意向について、事業を継ぎたい年齢別にみたものです。事業を継ぎたい年齢が低い者ほど、事業拡大の意欲が強い(拡大型)傾向が見てとれます。
これら図1 、図2 は、二つの異なる分析ではありますが、事業承継後の経営者の年齢が若いほど、その後の事業拡大にプラスの影響をもたらすという仮説を証明するような興味深い結果といえます。
事業承継時の先代経営者の悩みは多岐にわたる
次は、事業承継をした元経営者(以下、先代経営者)が事業承継に際して感じた苦労について見ていきましょう。
図3 は、先代経営者が事業承継の際に苦労した点を、事業承継の形態別に見たものです。特徴的な回答としては、社外承継では「後継者を探すこと」という、事業承継の入り口の苦労が挙げられ、役員・従業員承継では「後継者の了解を得ること」という、後継者候補が見つかった後に生じる苦労が挙げられます。いずれも親族外への承継ではありますが、社内と社外の違いだけでも苦労した点が大きく異なることがわかります。
また、全体について見ると、「取引先との関係維持」や「後継者を補佐する人材の確保」という回答が多くなっています。事業承継においては、どの承継形態を選択するにしても、後継者本人のみならず、広く企業を取り巻くステークホルダーに対する配慮が必要となり、先代経営者が抱える苦労は多岐にわたるものと推察されます。
後継者には十分な準備期間が必要
次に、図4 ①は後継決定者が事業を継ぐに当たって懸念することについて、承継後の事業規模の意向別に見たものです。
いずれの類型の後継者においても、「自分の経営者としての資質不足」「実務経験の不足」を懸念する者が多いことがわかります。また、同②は後継決定者が事業を継ぐために取り組んでいるものと、その中で最も有効だと思うものについて見たものです。取り組んでいるもの、最も有効だと思うものともに、「事業内での勤務(経営)」や「事業内での勤務(技術・ノウハウ)」が上位に挙げられています。
①と②の結果を合わせると、後継決定者は、社内外から経営者として自身の資質面が認められるのかなど、少なからず不安を感じており、円滑な事業承継のためには、社内で経験を積むための期間など、十分な準備期間を設けることが大切といえるでしょう。
なお、シービージャパン(東京投資育成の投資先企業)の事例では、親族外承継を果たした樋口現社長が自身の経験も踏まえて、事業承継時における「周囲のサポート」の大切さや「早期かつ計画的な事前準備」の大切さについて語っています。
まとめ
事業承継はどの企業においても避けては通れない道です。経営者として有終の美を飾り、これまで作り上げてきたことを未来の価値につなげていくには、引退が視野に入る早い段階から、事業や経営の引き継ぎに向けた準備をすることが重要といえるでしょう。本稿が少しでも皆様の経営の参考になれば幸いです。
機関誌そだとう201号記事から転載