中小企業の景況と企業数の変化
2019年版白書が刊行
中小企業基本法に基づき、中小企業庁が毎年発行する『中小企業白書』および『小規模企業白書』の2019年版が、4月26日の閣議決定を経て、6月末日に刊行されました。
今年の白書は、新元号「令和」のスタートにあたり、「経営者の世代交代」と「自己変革」をテーマに据えています。昨年と同様に、本文の内容に即した事例を豊富に掲載(中小企業白書だけでも83事例)し、経営課題の解決のヒントとなるように制作されています。
しかしながら、本白書はA4サイズ500ページを超える分量であり、多忙な経営者の方などが仕事の合間を縫って読み解くには少しハードルの高いものといえます。そこで、全4回にわたり、本白書について経営のヒントになる部分を中心に解説をしていきます。今回は、導入として中小企業の景況や企業数の推移等について概観をお伝えします。
中小企業の景況は上昇、経済の好循環が浸透
まずは、企業の規模別に売上高の推移を見てみましょう( 図1 )。
リーマン・ショックの直後は、中小企業も大企業と同様に大きく落ち込み、その後2010年にかけて持ち直しつつありましたが、東日本大震災発生後から2012年末まで再び減少傾向に転じました。その後、2013年第1四半期を底に横ばいが続きましたが、2016年の第3四半期に上昇傾向に転じてからは、2018年の相次ぐ自然災害の影響がありつつも、10期連続で上昇しており、全体としては経済の好循環が浸透しつつあることが見て取れます。
では、業種別の傾向はどうなっているでしょうか。2017年から2018年の売上高の変化を規模別、業種別に見てみましょう( 図2 )。
大企業では卸売業、製造業を中心に、小売業以外の全ての業種が押し上げ要因となっている一方、中小企業ではサービス業や建設業が、大企業と比較しても大きな押し上げ要因となっています。また、押し下げ要因を大企業と比較すると、その他の業種が大きな押し下げ要因となっており、規模間で業種ごとの景況の様相が異なっています。
続いて、経常利益の推移について見ていきましょう( 図3 )。
中小企業では、売上高と同様に、リーマン・ショック直後の大きな落ち込みからは、緩やかな回復基調が続いています。また、2018年の第1から第4四半期の動きに着目すると、過去最高水準となった2017年とほぼ同水準で推移している一方、横ばい傾向に転じた様子であり、大企業との差が拡大しています。
企業数全体は減少、小規模の廃業が主因
次に、我が国の企業数の推移を見ていきましょう( 図4 )。
1999年に485万者であった企業数は年々減少し、2016年の企業数(359万者)と比較すると、この20年弱の間に126万者減少しています。また、2012年から2014年の間では小幅に留まっていた減少幅(4万者、約1%)が、2014年から2016年の間では拡大(23万者、約6%)しています。
企業の規模別に見ると、大企業は横ばい、中規模企業※が3万者減少、小規模企業が20万者減少しており、特に小規模企業の減少の影響が大きいといえます。
さらに、2012年から2016年の間の企業数の減少(27万者)を詳しく見てみましょう( 図5 )。
2012年から2014年、2014年から2016年のそれぞれの期間の廃業企業数の合計は83万者、同じく開業企業数は46万者であり、2012年から2016年の間の開業企業の倍近い数の企業が廃業しており、全体の企業数の減少の主な要因となっています。
付加価値額の増加は存続企業の貢献度が大きい
最後に、付加価値額の変化を開廃業企業・存続企業別に見ていきましょう( 図6 )。
全体で見ると、2011年から2015年の間での付加価値額は増加しており、存続企業が付加価値額を伸ばしていることが全体の押し上げ要因となっています。他方、廃業により失われた付加価値額があり、開業により新たに生み出される付加価値額を上回っていることも見て取れます。今後、我が国全体の稼ぐ力をより強化するためには、開業企業による付加価値額の創出もさることながら、存続企業による稼ぐ力のさらなる強化も重要といえるでしょう。
経営者の高齢化が進み、小規模企業を主体に企業数は減少傾向にありますが、我が国経済の持続的な成長には、廃業する企業が培ってきた経営資源を次世代に引き継いでいくことが重要といえます。具体的には、株式や事業の譲受けをはじめ、設備や土地、従業員等といった貴重な経営資源を散逸させることなく引き継ぎ、有効活用することで企業成長につなげる取り組みが挙げられます。
機関誌そだとう200号記事から転載