投資先企業レポート

24時間365日、顧客と地域を守る防災設備管理のエキスパート

サンコー防災株式会社

サンコー防災は1961年の消防法施行規則改正による火災報知設備や消火器などの設置義務化を受け、翌62年創業した。
消防設備の保守点検と施工設置専業会社として、消防設備士など静岡県内最多の有資格者を抱える地域最大手に成長。
地元の自治体や企業・学校の防災訓練を支援するなど、地域社会の防災・危機管理意識向上にも大きく貢献している。

鈴木文三社長

鈴木文三 社長
1964年生まれ。86年に東海大学卒業後、サンコー防災に入社。
直後にニッタンへ出向。89年にサンコー防災に戻り、2001年に社長就任。
趣味はバイクで、900ccの大型二輪を乗りこなす。

サンコー防災株式会社
主な事業内容:
火災警報設備、消火設備、危険物消火設備、消防用設備の設計・施工・保守および付帯する業務
所在地:
静岡県富士市
創業:
1962年
従業員数:
101名(うち正社員97名)

契約防火対象物件7400 消火器1本から点検対応

1960年代から70年代にかけて、わが国ではデパートやホテルなどで多くの犠牲者を出す火災が頻発した。被害が拡大した原因の多くは、設置されていたスプリンクラーや自動火災報知設備などの消防用設備のメンテナンスの不備であった。

「これらの火災を契機に、74年に消防用設備等点検報告制度が導入され、対象物に応じて年1回または3年に1回、消防署への防火・防災設備の点検・報告義務が建物所有者に課せられたのです。しかし、静岡県内ではいまだに実施率が全国平均を下回る48%程度です。点検・報告義務を知らない所有者が多く、なんとかしなければと思っています」

静岡県富士市に本社を置くサンコー防災の鈴木文三社長(55歳)は、そう語る。同社は、1962年の創業以来、火災警報・消火設備の設計・施工・保守・点検を専門に行う会社として成長してきた。

富士市は製紙の町であり、大手製紙会社との取引も多い。製紙工場としては消防設備の故障や不良で製造ラインを極力停止したくない。生産効率に大きく関わるからだ。

サンコー防災はこうしたニーズに応えて、ライン停止を限りなくゼロに近づける努力を続けて顧客から高い評価と信頼を得ている。言いかえれば、同社は紙の町、富士市を陰で支える役割を果たし、事業そのものが地域社会の防災・防火に役立っている。

売上及び社員数の推移

サンコー防災「平成31年度安全大会」資料より作成

消防設備の点検を実施するには消防設備点検資格者や防火対象物点検資格者(以下、点検資格者)、加えて施工も実施するには消防設備士(以下、設備士)などの国家資格が必要だが、同社の有資格者は、点検資格者が153人、設備士が238人(4月1日現在、資格者区分別の延べ人数)もいる。その他、電気工事士、危険物取扱者など、社員1人当たり平均6資格を保有する。

防災設備の施工・保守専門企業としては県内最大手で、これだけの有資格者を擁する企業は県内には他にない。

県内に本支店・営業所を9拠点持ち、静岡のみならず山梨県南部、神奈川県西部までカバー。契約している防火対象物件数は7400件ほどで、取引先の社数は約5000社にのぼる。企業、工場、商業施設、旅館・ホテル、マンション、倉庫、および学校など、公共施設から小規模なアパートまで業種は幅広い。

消防設備施工後の消防検査合格実績は2018年で年間486件あり、そのうち新築が114件ある。

「小さなアパートの消火器1本から対応しており、最近はビルのメンテナンス会社から数十棟単位で契約いただいています」と鈴木社長。

17年度の売上は18億円台半ばだが、そのうち7割近くが消防設備工事であり、保守が3割弱を占める。防災器具の販売も行っており、まだ比率は少ないものの、近年では防犯カメラの販売・設置が増えている。

また、危機管理全般に関する問い合わせも多く、地震など災害発生時に避難者の人数を迅速かつ正確に数える仕組み作りをどうしたらいいか、といった相談を受けて、現在検討中だという。

万が一の事故に備え最大10億円の保険に加入

サンコー防災のサービスで特徴的なものが「シーエス24」である。

シーエス24では24時間365日、緊急事態に対応する。従業員が当番制で24時間通報を受け付け、単独で対応できない場合は、応援を呼ぶ体制を整えている。

「県内で24時間対応を始めたのは当社が一番早く、導入してすでに20年ほど経ちます。当初から比べると緊急連絡はだいぶ減ってきましたが、それでも月に20件ほど出動しています」

消防法で消防設備の保守・点検 が義務付けられる以前から専業 として消防設備の安全性に着目 してきた同社

消防法で消防設備の保守・点検が義務
付けられる以前から専業として消防設備
の安全性に着目してきた同社。
地元の大手製紙会社をはじめ、
保守契約先における設備の故障や
誤作動に、県内9拠点の営業所から
24時間迅速に対応する。
積み上げてきた工事実績と地域防災
への貢献から、所轄の消防署との
信頼関係も厚い。

緊急通報の多くは煙感知器などの誤作動や、大雨、落雷などによる故障で、梅雨など多雨の季節に出動が増えるという。しかし、火災などの深刻な事態に急行するケースも年に数件ある。

すべての業務上で最も神経を使うのは消防設備の点検だ。取引先の業務中での作業となるので、業務に支障をきたすようなことがあってはならない。

「点検箇所の中には、研究施設の無菌室であったり、重要な機密情報を取り扱うサーバールームなど、特殊な室内環境を備えている場所もあるので、特に気を遣います。点検では建物内をくまなく回りますから、お客様の身になって対応しないと信用されません」

その信用を担保する上で、同社は賠償責任保険に加入し、万が一の事故が発生した場合には最大10億円まで補償する体制を整えている。

「もしもの話ですが、点検中に作業者が誤って施設を傷つけてしまったり、あるいは、万が一、メンテナンスの不良で火災発生時に火災報知機が鳴らなかったり、スプリンクラーが作動しなかったりすれば、犠牲者を出してしまう恐れもあります。もちろん、お金ですべて補償できるものではありませんが、保険があれば少なくとも安心感を持っていただくことはできます。同業でこのような規模の保険に加入している例はあまり聞きません」と鈴木社長は語る。

「当社の強みは、メンテナンスを通じたお客様との信頼関係があることです。そのため、スタッフへのマナー教育や迅速な対応指導などを心がけてきました。こうした信頼関係から新しい仕事を頂戴することが多いですね」

同社では17年に55周年を迎え、記念行事として企業紹介ムービーを作成し、顧客にインタビューを行った。その中で、長年にわたり取引が続く会社の担当者たちは「(サンコー防災の)皆さん、礼儀正しくて頼れる存在です。難しい仕事もすぐに対応してもらえる」「総合防災訓練を手伝ってもらって助かった」「点検中に気づいたことを提案してくれる」と、賛辞を寄せている。

「当社の社員もインタビューに登場するのですが、防災活動へのやりがいや意気込みを熱く語ってくれていて、気持ちが奮い立ちましたよ」と鈴木社長は眼を細める。

防災訓練の支援活動を通じ所轄消防署と信頼関係築く

富士市内の区公会堂での防災訓練

富士市内の区公会堂での防災訓練で、消火器
の取り扱い方を説明する社員。企業や学校、
自治体などからの要請を受けて開催する
防災訓練のほか、各消防署と連携した
合同訓練、防災展共催などを通じて、地域の
防災意識向上に貢献している。

サンコー防災では、企業や学校、地域からの要請を受けて、防災訓練の支援も行っている。

「防災の日がある9月や空気の乾燥する12月前後は特に引っ張りだこで、防火のプロとしてお手伝いしています」と鈴木社長は語る。

社員たちが現地におもむき、消火器を使って火を消したり、放水訓練などを行い、安全確保の仕方や防災への備えについてアドバイスもする。

こうした地域貢献活動などを通じて地元の消防署との信頼関係を育み、緊急に防災設備などの修理や交換を行う場合には、特別に消防署への着工届出を事後にしてもらっている。

「消防法では、設備の補修工事は着工日の10日前に届け出る必要があります。ただ、災害や経年劣化による突然の機器交換が生じたときは危険もあり、所轄の消防署にお願いをして、こうした緊急事態に限り現場作業を優先させてもらっています。同業ではあまりこうした例は見ないので、消防署との信頼関係があればこそと思っています」と語る鈴木社長は、静岡県消防設備協会の理事長を17年より兼ねており、サンコー防災と、公職の立場の両面から地域や業界に貢献している。

鈴木社長が理事長に就任してから特に力を入れて取り組んでいる活動の一つは、消防用設備点検済表示制度の普及と点検・報告率の向上だ。点検が完了すると、点検済票という丸い緑色のラベルを貼付する。鈴木社長は、このラベルの存在をもっと知らしめて、制度の普及を図りたいと考えている。

出前講座を県立掛川工業高校で開催

消防設備士の仕事をPRする活動の一環として、
出前講座を県立掛川工業高校で開催。若手が
少ない消防設備士の後進育成にも力を入れる。

もう一つの課題が設備士の高齢化対策だ。

「静岡県は消防設備士全体で30歳未満が2.6%しかいません。若い人が設備士の仕事と資格に振り向いてくれるように協会としてPR活動を行っています」

今年2月には県内で唯一設備に関する科(環境設備科/衛生・防災設備)を持つ、県立掛川工業高校で協会による出前講座を実施した。

「設備士の資格について生徒に聞くと、ほとんど存在を知らないので驚きました。今後は協会として出前講座を続け、チラシの作成・配布も考えています。また、設備士試験の前に準備講習を開いていますが、生徒には無料で受講してもらおうと検討しています」

協会で行った出前講座受講者へのアンケート調査では、「興味が湧いた」という生徒が87%もおり、着実に成果が上がっている。「ぜひ、受験したい」はまだ3%弱だが、「もう少し、消防設備士について勉強し考えたい」生徒が50%にのぼった。

社員の士気が一番!人材教育と親睦深耕に注力

社内勉強会

社員の消防関連資格取得を奨励し、合格に
向けた社内勉強会を定期的に開催。
講師は自社の先輩社員が務め、技術力の
向上意識を醸成している。

このように、業界全体では設備士の高齢化が進んでいるが、サンコー防災では順調に新人を採用できている。

エンジニア、営業・管理、メンテナンス職にある82名のうち、30歳未満は約2割を占めており、毎年、新卒1〜2名、中途数名の採用を続けて地域の雇用を支える。同社の社風について、鈴木社長はこう語る。

「資格取得をバックアップするスキルアップ研修、サービス教育などを含めた人材の育成、親睦を目的としたサークル活動にも力を入れてきた結果、定着率は高く、離職はほとんどありません。先代社長時代から家族的な雰囲気があり、風通しがいい会社です」

本社オフィスのデスクが1人1席ではなく、フラットな島タイプであるのも、社員同士の風通しとチームワークを醸成するためで、先代の発案だ。

毎年4〜5月に鈴木社長は全社員と面談を行うが、社員のやる気を感じてエネルギーをもらえると笑顔で語る。

「いろいろな業界から入社してきます。経験がなくても当社で教育して設備士の資格取得が可能です。元調理師や、貨物運転手をしていた人もいますが、いまやうちの主力選手ですよ。面談で、『この会社に入って本当によかった』と言ってもらえると本当にうれしいですね。それだけお客さんに役立ち、やりがいが持てる職業なんです」

島型デスクが特徴的な本社オフィス

1人ずつの仕切りがない島型
デスクが特徴的な
本社オフィス。
ちなみに創業時の商号「三恒」
は「恒久・恒人・恒産」を
意味して付けられたという。

同社は、鈴木社長の父であり、先代社長である恒男氏が三恒さんこうの社名で富士市において1962年に創業した。ちょうど前年の61年に消防法施行規則の改正があり、消火器やスプリンクラー、自動火災報知設備などの設置が義務化された。

こうした防災機器のメーカーが、全国に施工・管理のできる会社を求めていることを恒男氏が知り、前職から独立して起業した。

「当初は母を含めて3人で会社を始め、その後は2ケタ成長で拡大しました」

鈴木社長は大学を卒業後、86年に入社し、直後に同社と長い提携関係にあるニッタンというメーカーへ3年間出向、武者修行を経験して2001年、社長に就任した。

「社長になる前から、お客様との信頼関係作りや技術力の向上などのために人材教育の必要性を感じていたので、専属の教育担当スタッフを置き、接客マナーも含めて技術教育などを進めてきました」

同社では管理職、中堅社員、若手社員の階層別に教育を行い、安全衛生会議、防災レベルアップ・プロジェクト会議なども頻繁に開催している。資格取得奨励のための社内勉強会では、外部講師を招かず自社の先輩従業員が講師役を務めるのもユニークだ。

また、業務の品質向上を目的として、社員が対応した防火対象物の点検履歴は社内ネットで情報共有し、誰もが内容を把握できる。交換した名刺も全員で見ることができ、経営内容も同じくガラス張りである。

このほか、会社の補助を受けられる社内サークルが17年から発足、フットサルやスキー&スノボ、ゴルフ、食とワインの会など、部門を超えた交流活動も盛んだ。

こうした社員を支援する枠組みを作る一方で、鈴木社長は「先代から引き継ぐとき、『社員の士気が一番大事』と教えられ、士気を下げないよう自らの公私混同を強く戒めてきました」と言う。地域的に同社の周辺はクルマ社会だが、やむなく社有車を自家用に使うときはガソリン代を会社へ支払うことを徹底しているという。

そんな鈴木社長は「仕事」という言葉が好きではない。

「『仕事』にはやらされるという意味合いを感じます。働くことは、自発的に社会的使命を果たす貢献活動であるべきです」

今回、地域社会貢献者賞を受賞し、「これから少しずつ、いただいた賞に見合うような会社に近づきたい」と謙虚に微笑むが、鈴木社長の生き方そのものが社会貢献とも言える。

その思いを共にした社員たちだからこそ、防災という活動に大きなやりがいを感じているのだろう。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

鈴木文三社長

心強い経営のアドバイザーであり、当社の経営方針を理解してくれている強い味方です。これからも経営のパートナーであり続けてほしい。

投資育成担当者が紹介!この会社の魅力

業務第四部 主任 鈴木 崚さん

業務第四部
主任 鈴木 崚

メンテナンスの取引が年々増加しているのは、地域企業からの厚い信頼の証左です。鈴木社長はその関係をとても大切にしています。今後も安全・安心を第一に、防災レベルの向上に尽力されていくサンコー防災さんを微力ながら応援していきたいです。

機関誌そだとう200号記事から転載

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