医療・健康のニッチ分野に特化し
革新的な製品開発で異彩を放つ
体の一部に代用できる人工物の素材として早期にシリコーンを採用するなど、未開分野の材料研究からスタートした高研。
培った合成高分子技術を武器に、医療行為訓練用の人型モデル開発やコラーゲン応用といった領域で事業を拡大した。
創業時から病院や大学などと共同研究に取り組み、そのネットワークづくりには研究、開発、営業部門全員で当たっている。
1949年生まれ。75年、大阪大学大学院理学研究科理学部修士課程修了後、
大手製薬会社の研究員などを経て、2005年、高研へ常務取締役として入社。
08年より現職。理学博士。
- 主な事業内容:
- 医療機器、教育用医療モデル、化粧品・医療用コラーゲンの研究開発および製造販売
- 所在地:
- 東京都文京区
- 創立:
- 1959年
- 従業員数:
- 269名
先端医療から臨床現場までオリジナルな事業を展開
「当社の特徴を一言で表すと、『ニッチである』ということになります。共同研究のパートナーである大学の先生をはじめ、外部の皆さまから『ニッチな変わった会社ですね』というご感想もよくいただきます」
こう語るのは、「医療機器」「教育用医療モデル」「化粧品・試薬」を事業の3本の柱とする高研の
「DNAとともに遺伝情報をつかさどる、siRNAという核酸の一種があります。これを制がん剤として、アテロジーンによって前立腺がんの悪性度に関わる遺伝子を標的に送り込んだところ、良好に機能し、腫瘍の増殖を長期間にわたって顕著に抑制できることがマウスでの実験で確認されました。これ一つ見ただけでも、同業他社が手掛けないニッチな分野に特化していることが、おわかりいただけるのではないでしょうか」
さらに、現場のニーズに合わせたきめ細かな展開をしているのも特徴の一つである。医療機器のメーンの製品が、気管を切開した際に、気道を確保するために使われるチューブの「カニューレ」だ。人間の気管は指紋と同じように、人によって太さも長さも違う。国内市場には海外メーカーのものも多く出回っているが、もともと体の大きい外国人向けのもので、日本人に合わないことが多い。
「当社は日本人に合うカニューレに特化してきました。しかし、それでも合わないときには、患者さんの気管の形状に合わせた特注品の製作をお引き受けすることもあります。それができるのも、ニッチな分野に特化した、従業員270名程の小回りの利く会社だからなのです」と垂水社長は話す。
実は高研の創業自体が、ニッチな分野での事業の確立を目指すものだったのだ。1948年に東京大学で医学博士の学位を取得し、53年から日本歯科大学理工学科教授として教鞭をとっていた創業者の秋山太一郎氏は、東京・白金にある自宅の隣の自前の研究所で、鼻や耳などを欠損した人の社会復帰に役立てようと、体の一部を補う人工物「プロテーゼ」の材料研究に心血を注ぎ始める。当時はほとんど未開の分野だった。
そして、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂など、様々な材料を試すなかで出合ったのが、珪石や珪砂を原料とする高分子の合成樹脂の一種であるシリコーンだった。石油化学系の合成樹脂に比べて化学的・物理的な変化が少ない分、安全性が高まり、人体の外側だけでなく、内側への埋め込みにも使えた。また、生体に近いやわらかみがあり、外観上もそっくりに仕上がることで、「人工肉体」として大きな反響を集めた。
そうしたなか、59年10月に東京・下落合で産声をあげたのが高研の前身となる「高研工業(69年に現社名へ変更)」。この分野で第一人者となった秋山氏は、さらに心臓マッサージなどの医療行為を訓練するための教育用医療モデルといった、新しい領域の事業を立ち上げていった。
人体に使えるコラーゲンの精製に国内で初めて成功
「アテロコラーゲン」を世界で
初めて化粧品に応用するなど、
コラーゲン研究開発のパイオニア
として医療やヘルスケア分野を
リードする同社の主な製品。
研究用核酸導入試薬
「アテロジーン」(上)、
ドライアイを治療する
医療機器「キープティア」(下)
「生前の秋山氏に、直接お会いしたのは1回だけです。77年に秋山氏が故郷の山形・鶴岡に土地を取得し、同年工場設立後、91年に完成した鶴岡工場新社屋のお披露目の式に、私が当時勤めていた製薬会社の代表として参加したときのことでした。私が高研とつながりを深めるようになったのは、96年に2代目の社長に就任された宮田暉夫氏との共同研究がスタートでした」と垂水社長はいう。
その宮田氏は、もともと天然の生体高分子であるコラーゲンの研究に長年携わっていた人物。そして、コラーゲンがシリコーンと相互に補完し合える可能性を秘めていることに着目した秋山氏が、米国コーネル大学で研究を行っていた宮田氏を77年に高研へ招聘する。その後、宮田氏はコラーゲンを体内で使用できるよう、生体の拒否反応を取り除く精製方法の開発に、国内で初めて成功する。これが後の医療機器である止血材や化粧品・試薬の事業の母体となる。
また、85年から高研は、C型肝炎の特効薬として関心を集めていたインターフェロンというウイルス薬を患部へ効果的に投与するのに、コラーゲンを応用する研究を始める。その共同研究のパートナーは、垂水社長が当時勤めていた大手製薬会社だった。同社の研究開発管理部門に所属していた垂水社長は、宮田氏と一緒に研究を進めた。そうした縁があって、垂水社長は宮田氏から誘いを受け入社し、2008年に現職に就いたのだ。
秋山氏、宮田氏、そして垂水社長という研究畑出身の社長が3代続く高研。創業時から取り組んできたのが、大学や病院などとの共同によるニッチな分野でのイノベーションであり、それが今回の「産学官イノベーション創出賞」の受賞につながった。
受賞の理由として「大学や公的機関との共同研究を多数持つ」こともあげられているが、高研が取得した特許は133件に上る。
共同研究の最近の成功事例として垂水社長は、コラーゲンを使った涙点プラグの「キープティア」と、主力製品の一つである赤ちゃん型教育用医療モデル「コーケンベビー」を、母乳育児を体験するために改良した「コーケンベビーラッチオンマスク」の二つをあげる。
された教育用医療モデル「セーブマンプロ」。
「キープティアは、大阪の眼科医の『コラーゲンを涙点に入れたら、涙をためることができて、ドライアイの不快感の解消につながるのではないか』というアイデアから生まれました。実際に患者さんの涙点に入れると、液体のコラーゲンが体温でゲル状になり、涙点を適度に閉じるプラグとして機能することがわかったのです」
その後、医師主導の下で73の症例が検討され、08年にキープティアは上市された。パソコンの普及でドライアイに悩む人が増えるなか、画期的な治療手段としてますます期待が寄せられている。
一方のコーケンベビーラッチオンマスクは、母性看護の専門家との共同研究で生まれた。
「赤ちゃんは口を大きく“ガバッ”と開けてお乳を吸います。従来そうした赤ちゃんのモデルがなく、適切な授乳の体験ができませんでした。そこで『もっと口を大きく開けさせて』『リアル感に欠ける』などのアドバイスを受けながら、試作を何度も繰り返しました。『かわいくないわ』との指摘を受けて、当社の担当者が頭を抱えたこともあります」と、楽しげに垂水社長は振り返る。
外部研究者と対等の立場で意見を戦わせ信頼を得る
の教育用医療モデル
「コーケンベビー」(上)は、新生児
ケアに関する各種の演習を行える。
口の部分を改良した
「コーケンベビーラッチオンマスク」
(下右)を装着することで母乳育児
支援の体験が可能に。空気で乳房
の張りを調整し、より赤ちゃんの
吸着感を再現できる「コーケン産褥
(さんじょく)乳房モデル」(下左)
との体験セットとして販売。
そうした外部の医療機関や大学とのネットワークを、どのように築き上げるのか。もちろん、一朝一夕にはいかない。東京・浮間にある研究所にいる研究職の10人のスタッフ、そのほか「医療機器」「教育用医療モデル」「化粧品・試薬」の3つの開発部門にいる合計30人のスタッフが、各自の研究や開発対象となる領域の学会に出向き、「これは」と思う発表を行った医師や研究者がいたらすぐに訪ね、そして教えを請うことで構築されてきたものなのだ。
「教育用医療モデル一つ取ってみても、適用法令などの変更が頻繁に行われます。欧米で変更があった場合、日本もそれに倣うことが多く、情報に精通したキーマンとなる研究者とのネットワークづくりが大切なのです。だから、常に学会での情報収集が欠かせません。また、学会では当社の研究員が発表を行うこともあり、それをきっかけに新しいネットワークが構築されることもあります」
ネットワークのなかで共同研究を進めるにあたり、具体的な成果を導き出していくために重要となるポイントは、「高研サイドの研究者のスタンス」なのだという。それについて垂水社長は、自らの研究者としての経験を踏まえながら次のように語る。
「漠然と『わからないので教えてください』と教えを請うようでは、多忙な外部の研究者は対等なパートナーとして認めてくれません。日々の研究のなかで浮かんだ疑問やアイデア、発生した問題に対する解決策などを相手にぶつけていくことで、初めて自分の存在感が高まります。そうやって双方のアイデアや考えを戦わせることで、画期的な新製品の創出や既存製品の改良といった、具体的な成果につながっていくのです」
これを実現するため、垂水社長が日々の仕事に対する考え方としてスタッフに説いているのが、①自分の仕事の内容をきちんと理解すること、②自分に与えられた仕事のテーマ性が何かを考えること、③次の行動を自ら積極的に起こしていくこと──の3つだ。
「そうすれば、毎日の仕事が楽しくなります。人間は一生の間で仕事をしている時間が一番長い。それなら楽しいほうがいいでしょう」
また、高研では営業や管理部門の社員だけでなく、研究員も目標管理制度の対象だ。期初に自分の研究目標を設定し、その進捗度合いや成果に応じたクリアな評価が行われる。上司からのフィードバックは、個々の研究員の仕事に対するスタンスの改善につながる貴重なアドバイスとなり、外部との共同研究に対するモチベーションアップにもつながっている。
顧客の声を吸い上げ営業と研究が一体で開発
スタッフと、コラーゲンプラント。
生産と品質管理の拠点である山形
県の鶴岡工場では、医療機器製品、
コラーゲン製品の製造は自動化され、
効率的に生産されている。
実はもう一つ、垂水社長が重視する外部とのネットワークがある。それは、営業担当を介した外部の医師や研究者とのつながりだ。
医療機器や教育用医療モデル、試薬の売り先は現場の医師であったり、大学などの研究者たち。営業に出向くと、「こんな医療機器があったらいいのに」「試薬をこのように改良できないか」などの意見や相談を受けることが多い。当然、そこには新たな事業を生み出す大きなヒントが潜んでいる。それを掬い上げるわけだ。
営業担当は、毎日必ず書く日報に、そういった意見や相談を「顧客の声」として記す。その情報を、営業企画部のスタッフが3本の事業領域ごとに分類し、週に1回、社内の各担当研究員たちと「次のネタ」として情報交換するミーティングを行っている。
「情報をきちんと分類するようになったのは、ここ数年の話です。しかし、営業企画部の担当者が自主的に、貴重な情報をフルに活用しようと工夫し始めたことの意義は大きく、新たなプロジェクトが続々と生まれています。そして、顧客の声から発案されたプロジェクトを製品化するかどうかを決めるのが、毎月1回、鶴岡工場で開く『新製品開発会議』なのです」と垂水社長。
会議の場ではプロジェクトの進捗度合いが報告され、製品化のフェーズに進めていいかどうかの判断が下される。その過程では、成果がよりアップするように、垂水社長をはじめとする幹部からのアドバイスも行われる。こうしてみると、高研のイノベーションは研究と営業が一体となって推進されていることがわかる。
ハード面では昨年、医療機器を生産する鶴岡工場に隣接する4000平方メートルの土地を取得。3年以内に新工場を建てて、分散している工場の生産機能を移転し、教育用医療モデルを生産する鶴岡東工場も合わせた“三位一体”の形をとり、効率的な生産体制を整備する予定だ。また、東京・浮間の研究所も各事業の開発スタッフがいる鶴岡工場内に移して、研究体制の強化を図る。
「売上高に対する研究開発費の比率は現在7%弱ですが、これも徐々に高めていくつもりです」と垂水社長はいう。つまり、鶴岡というエリア全体のイノベーション力アップにつながっていくわけだ。
高研は今年1月に経済産業省から山形の中核企業として「地域未来牽引企業」にも選定されている。今後の高研の動きから目が離せそうにない。
東京中小企業投資育成へのメッセージ
投資を受けたのは1986年12月でした。まだ売上高が10億円に届かず、コラーゲンや教育用医療モデルの事業がようやく立ち上がる時期で、大変助かりました。成長を目指す企業にとって欠くことのできない存在だと考えております。
投資育成担当者が紹介!この会社の魅力
次長 チームリーダー
桑本淳子
シリコーンとコラーゲン、今でこそ誰もが知る基本的な医用材料ですが、その将来可能性をいち早く探求して自社の中核技術となし、ぶれずに応用展開に取り組むことで強みを発揮する姿勢は、研究開発志向の企業として模範的です。地域との連携を活かしながら、これからも社会のニーズを満たしていってもらいたいと感じます。
機関誌そだとう200号記事から転載