AI搭載廃棄物自動選別ロボットでリサイクル業界の苦境を救え!
特許取得の1軸破砕機で国内トップシェアを誇る
最新AIを搭載した廃棄物自動選別機「ウラノス」(右)。
複数のカメラ・センサー、垂直多関節ロボットなどを実装
し、廃棄物の材質や形状を瞬時に判断する。
スタイリッシュなウラノスの外観(中下)。
廃棄物の形状に合わせ、凸凹や球面状の物をつかむ独
自開発のメカニカルハンド(左上)と、平たい物を吸着す
るサクションパッド(中上)。
AIを開発したリタテクノロジーのプログラマーを挟み、
学習させる廃棄物を検分する
技術開発室のスタッフたち(左下)。
ウエノテックスは、2017年に創業80周年を迎えた産業用機器メーカーだ。大型クレーンやFA(ファクトリーオートメーション)機器の製造、大型機械の部品加工など、手がける分野は幅広いが、その柱は売上の約60%を占める環境関連機器。中でも、主力となっているのが破砕機である。
同社の破砕機は、主に産業廃棄物のリサイクル処理現場で活用されている。がれきや建築廃材といった大型廃棄物、家電や家具のような粗大ごみなどを焼却したり、埋め立て、あるいは再資源化する前に、それらを分断・小型化する工程で欠かせない。刃の回転方式に応じて「1軸破砕機*1」と「2軸破砕機*2」があり、同社は1軸破砕機で現在、国内トップシェアを占めている。
同社が破砕機事業に参入したのは1997年。先代の上野秀正会長が、廃棄物処理システムメーカーから高性能の1軸破砕機を作ってほしいという要望を受けたのが、開発のきっかけだったという。
従来に比べて刃の切れ味がよく、約半分のパワーで廃棄物を破砕できる1軸破砕機を考案し特許を取得。
ユーザーから好評を博し、顧客からの紹介もあって販路は順調に拡大。さらに各種リサイクル法が次々に施行された時期とも重なり、破砕機の需要は加速する。
以来、破砕機に力を入れてきたのは、そうした成長可能性だけが理由ではない。2011年に就任した上野光陽社長は、こう説明する。
「リサイクル業界とのお付き合いが深くなるにつれ、その大切さを痛感するようになりました。リサイクル産業は、資源を社会に循環させる“静脈産業*3”して、なくてはならないもの。環境を守り、持続可能な社会を構築するために今後、ますます重要になるでしょう。一方で、リサイクル業界はほかの産業に比べて、経営革新がなかなか進んでいません。そうした中、環境関連機器によってリサイクル産業の業務効率化をサポートする私達の仕事は、社会的意義が大きいと考えています。当社の破砕機を導入したお客さまから、『仕事がスピードアップして、とても助かっている』という声をいただいたときは、メーカー冥利に尽きると、感慨もひとしおでしたね」
* 1.1軸破砕機=1つの回転刃を固定刃とかみ合わせる破砕機。廃棄物を分断する力は弱いが、細かく砕くのには適していて、木材やプラスチック、繊維製品などの粉砕・分別・再資源化の工程で使われる。
* 2.2軸破砕機=2つの回転刃をお互いにかみ合わせる破砕機。分断する力は強いが、細かく砕くのは不得手で、大型廃棄物の一次破砕の工程などで使われる。
* 3.静脈産業=資源を加工生産する産業が「動脈産業」と呼ばれるのに対し、排出された不要物や製品を社会に循環させる産業の総称。
日本海に面した本社工場で、完成間近の破砕機を検査するスタッフ。
そのリサイクル業界が今、窮地に立たされている。廃棄物処理業界は、危険・汚い・きつい・暗い・くさいという「5K産業」の典型として若者が集まりにくく、人材の奪い合いが激化している産業界の中でも特に人手不足が深刻化しているのだ。そこで同社では、これまでに培ったFAと、AI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)といった技術を融合させた、廃棄物処理の自動化システム開発にも乗り出した。
「廃棄物処理は、ごみの選別作業を人海戦術でこなしているのですが、それを自動化すれば、人手不足の解消に役立つと考えたわけです」
回転刃の削り出し作業風景(右写真)。
同社の1軸破砕機は、従来型では回転刃とかみ合う固定刃を地面と水平に設置していたのに対し、斜めに設置して刃に曲線加工を施した。
これにより切れ味がよくなり、約半分の出力で廃棄物を破砕できるようになった(左図)。
資源を社会に循環させる「静脈産業」を環境関連機器の開発で支えている
上野光陽(みつはる) 代表取締役社長。
東日本大震災時には、同社が開発した
破砕機が被災地のがれき処理に貢献し
た。その経営2011年から引き継ぎ、商
社勤務経験を生かし海外展開に注力、
廃タイヤ事業を承継してシナジー効果
を狙うなど、さらなる事業の拡充を目
指す。
上野社長は18年、大学時代の後輩とともに埼玉県さいたま市でリタテクノロジーを立ち上げた。廃棄物処理の自動化システムを開発するための、いわばグループ内ベンチャーだ。現在は東京都新宿区へ移転し、19年3月には、製品第1号として、AIを搭載した廃棄物自動選別ロボット「URANOS(ウラノス)」を発売した。上野社長は、「リサイクル業界においては、画期的なシステムのはず」と自信をのぞかせる。
ユニット内に搬入される様々な廃棄物の色や材質などを、カメラやセンサーで識別。複数のロボットアームが瞬時にピックアップして、種類別の処理ラインへ振り分ける。従来は人手で行っていた分別作業だが、ほぼ無人稼働で済むようになり、当然、24時間稼働も可能となった。さらに、AIが学習したデータを生かして、ごみの種類別に最適な破砕機の種類や刃の回転数、圧力、処理ラインの温度などを割り出し、省エネにつなげる計画もある。
すでに数社から引き合いが来ているといい、将来は、中国市場など海外への進出も視野に入れている。
若手社員のデザイン起用で処理機械のイメージを一新
若者を中心とした人材の確保に悩んでいるのは、「当社とてリサイクル業界と同じです」と、上野社長はこぼす。当面の課題は、高度なITを使いこなし、企業の将来を担う若手エンジニアの採用だ。実は、リタ社を首都圏に設立したのも、IT人材の受け皿とする“第二の目的”があったという。
「最先端のITスキルやノウハウを身につけた人材は首都圏に集中しており、獲得しやすいのです。別会社としたのも、裁量労働制を取り入れ、若手社員の自由な発想を業務に生かすという、新しい働き方の“実験”をしたかったから。成功事例は当社にも水平展開し、今後はグループ間の人事交流などを通じて、情報の共有化も図っていきたいですね」
実はウラノスも人材獲得に一役買っている。外観は黒を基調とした近未来的なデザインで、“ごみ処理機械”というイメージを一新した。
「ウエノテックスの若手社員のアイデアなのですが、デザインのよさも若者を引き付ける重要なポイントということで採用しました」
実際に、社内の若手社員からもきわめて好評で、新卒の採用活動でも“目玉”の宣伝材料にしたい考えだ。
同社は、04年に「中小企業センター賞」、08年に「新潟県技術賞」、13年には「新潟県経済振興賞」を受賞するなど、開発姿勢や技術力が高く評価され、地元を担う中核企業としても期待が大きい。「自社の事業を発展させること。そうすれば、雇用の創出・維持ができ、地域経済を活性化できます」(上野社長)
リサイクル産業を支え、循環型社会の構築に貢献する挑戦は続く。
- 主な事業内容:
- 環境設備機械・産業用自動省力機械・クレーン製造、機械・製缶加工など
- 所在地:
- 新潟県上越市
- 社長:
- 上野光陽
- 従業員数:
- 116名
機関誌そだとう200号記事から転載