遅刻上等、茶髪の若者をリーダーに成長させた出会い
- 主な事業内容:
- 自動化・省力化機械の設計・製作・販売など
- 本社所在地:
- 栃木県宇都宮市
- 社長:
- 石川英明
- 資本金:
- 7500万円
- 創立:
- 1970年
- 従業員数:
- 36人(嘱託含む)
- URL:
- http://www.utsunomiyaseiki.co.jp/
無理な値引きには応じない プロ職人の技で完全一品受注
「どの経営者もそうだと思いますが、会社と共に最後までやり抜く覚悟がないと、社長はやれないと思います。社員とその家族を抱えているので、中途半端な気持ちでは務まらない」
2018年8月、宇都宮市に本社を置く宇都宮精機の3代目社長に就任した石川英明社長(35歳)は、そう力強く言い切った。宇都宮精機は、石川社長の祖父、一郎氏が部品加工会社として1970年に創業し、父の英一会長が自動化・省力化機械の専門メーカーとして育て上げてきた。
標準品や市販品の生産は一切せず、顧客の依頼を受け、その目的を達成する特殊専用機を設計・製作する完全一品物のメーカーである。
自動車、医療、光学、農業機械関連の装置が中心だが、業種にかかわらず、他で作れなかった依頼を引き受ける駆け込み寺的な存在でもある。部品加工も自社で行い、恒温室も備え、多様なニーズに対応する。一番の強みは設計から据付工事まで一貫生産できるため顧客のかゆいところまで手が届く。
「長年蓄積したノウハウがあり、ベテラン職人も多いので、これまで注文を受けた機械で作れなかったものはありません。要望を伺い、頭の中で機械が動くイメージができれば作れます。それに応じて構想図、見積仕様書、見積書の3点セットを作成します。その後見積検討会実施により、適正金額を算出します。このシステムにより見積精度が高く妥当な金額が算出可能です。そのため無理な値引きには応じず、予算が足りない場合には、他の仕様を提案させていただくことはあります。残念ながら、納得いただけない場合はご辞退させていただいています」と石川社長は明快だ。
もちろん、簡単にできるわけではなく、ときには細かいすりあわせを行いながら調整して、求める性能に対して精度を上げていくこともある。経験豊富な職人ならではの技だ。
定年は60歳だが、66歳までは嘱託で勤務できる。それ以降もアルバイトとして働けるので、69歳のベテランも健在だ。
「勤続年数が長いのは居心地がよくて、やりがいがあるからです。毎回、違う機械を作るのは楽しいし、完成すると達成感があります。ただ、従業員の平均年齢が45歳で、もっと若手を採用したいのですが、今は難しいですね」
仕事の楽しさと厳しさを教えてくれた大人の存在
石川社長(左手前)。
右から2人目がファンキーな元課長。
現在も69歳の最年長アルバイトとして働く。
石川社長は、2003年に20歳で宇都宮精機に入社し、組立課に配属された。当時社長だった英一会長に言われて入社したものの、頭は茶髪で、仕事にも熱心ではなく、ましてや会社を継ぐ気などなかった。
「中学から専門学校にかけては遊びまくっていました。小さい頃から勉強嫌いで、成績もよくないし、どうしようもない子供だったと思います。夢も無く、とにかく楽しいことだけをする毎日。だんだん、そんな自分に嫌気がさしてきていました。父は仕事で忙しいので別段私にかまわず、母からも特に小言を言われませんでしたが、精神的には苦しい時代でした」
入社後、英一会長に茶髪をやめろと言われたが、反発心が起きるばかり。遅刻することも度々だった。ところが、組立課の課長が石川社長の生き方を変えた。
「すごいファンキーなオヤジさんで、後ろで髪を束ね、ガラの悪い眼鏡、耳にピアスなんかしているんですが、腕前がすごいんですよ。『遊びで仕事を休むのは許してやるが、病気なんかで休むなよ』と言われて、仕事の楽しさと厳しさを教わりました。つまらない説教する大人ばかりと思っていたら、こんな大人もいるのかと衝撃を受けました」
この課長は職人として一流の仕事をすると共に、遊ぶときは遊ぶ人で、一緒に飲みに行ったり、バーベキューなどをしたりして楽しむうちに石川社長は彼を尊敬するようになった。毎日が楽しくなり、仕事にも力を入れ始めた。その元課長は、前述した69歳のアルバイトとして今も働いている。
リーダー育成塾で仕事と経営の意味に気づく
送った質問への考えがびっしり
と書き込まれていた。
趣味はトラウトフィッシング。
「ボートから糸を垂れて無心に
なれる時間がうれしいですね」
と微笑む。尊敬する経営者から
勧められた本
『会社を絶対ダメにしない
社長の“超”鉄則』
(小山昇著・大和書房)を手に。
「まさに継ぐ者の知りたいことが
書いてありました」
2011年に営業課に転属されたが、茶髪は相変わらずで、成績も上がらなかった。そのまま2年を過ごすが、13年に栃木県の主催する経営リーダー育成塾に8期生として入塾する。そのときの講師にも石川社長は影響を受けた。
「講師の先生から経営者として必要な行動や資質を学び、仕事とは何か、経営とは何か気づかされました。それまで考えもしませんでしたが、経営の責任の重さや、私たちの仕事は誰のためにあるのかを知りました。我々は、お客様はもちろんですが、そのお客様が作り出した製品を使う一般の人たちのことまで考えて機械を作らなければならないのだと、遅まきながらわかったのです」
石川社長のこうした率直さと素直さが、きっと人を惹きつけるのだろう。8期生の仲間は20人ほどいたが、皆に推されて8期生会の会長になった。
そのときの講師は石川社長へのアドバイスをこう記している。
「憎まれない性格、ほっとする性格で、会社のリーダーとしての資質があると思います。後は、さらなるチャレンジをし、(中略)経営者としての厳しさを身につけてください」
石川社長は塾仲間に迷惑をかけられないと、とりまとめに励み、人間的な成長を遂げた。1~8期生100人ほどが集まるOB会があり、その副会長にも就く。多くの経営者たちをまとめる必要から、さらに責任感を強くした。同時に会社経営にもだんだん興味がわくようになった。
この8期生の仲間から、その頃ズバリと言われたことがある。
「石川さんはせっかくいいものをたくさん持っているんだから、茶髪もったいないよ! 第一印象を良くし、皆からもっと愛されたほうが得だよ!」
言いにくいことをちゃんと言ってくれる人がいる。そのことに石川社長は心を打たれて、即座に黒髪に戻した。その後、面白いように営業成績が上がった。新規の契約も取れ、受注は以前の倍以上になった。
「自分の欲望を捨てて、相手を思いやることがどれほど大切かようやくわかりました。それまでは、お客様のことなど真剣に考えていなかったのです」
2014年に取締役に就任。東京中小企業投資育成の社長会で出会った、あるベテラン社長に惚れた。その社長から「継ぐ気になったんだね」と言われて、もう逃げられないと石川社長は覚悟を決めたという。こうして、常務を経て、2018年に代表に就任した。
「これまで培われた技術や信頼を大切にし、更に愛されるパートナーとして精進していきたい。規模の拡大は求めませんが、お客様に必要とされれば自然に成長するはずです」
石川社長のチャレンジが始まった。
機関誌そだとう198号記事から転載