「100億の壁」を超える、躍進の成功方程式

自社の核でニーズに応え、可能性を広げる

~手間や時間がかかる仕事こそ、中堅・中小企業の出番だ……~

CASE③株式会社アセラ

 

「100億円を目指そうと思ったことはなく、達成できたのはコツコツと積み上げてきた結果に過ぎません」

そう語るのは、アセラの三枝徹也社長だ。同社は1946年に創業し、山梨県の地場産業である水晶の研磨材料や工業薬品の商社として事業をスタートさせた。

そこから派生して、農薬や食品添加物の取り扱いも開始。その後、顧客から「売るだけでなく、撒いてほしい」と要望を受けて農薬散布を請け負い始めると、「撒くだけではなく、庭もつくってほしい」との声から造園土木事業や園芸用資材の販売も事業化。顧客のニーズに応えて、次々と業容を拡大していった。

「先代の頃から地場の小さな経済圏で、顧客からの多様な要望を一手に引き受けていたら、いつの間にかいろいろなビジネスが生まれていました。創業当初から、新規事業へ抵抗なく手を伸ばす社風が醸成されていたと感じます」

 

三枝徹也社長

株式会社アセラ
主な事業内容:
化学工業薬品、食品原材料・添加物、農薬、園芸用資材、緑化関連資材の販売など
本社所在地:
山梨県甲府市
創業:
1946年
従業員数:
154人

現在は、無機・有機化学品をはじめとした各種薬品の販売などを手がける化成品部と、食料品や食品添加物などの仕入れ・販売、自社製品開発などを行う食品部に加え、創業初期から続く農薬や園芸資材の販売も引き続き展開。さらに近年は三枝社長がトップ就任後に事業部として立ち上がった、緑化部とアクア事業部が売上を伸ばしている。

高速道路や幹線道路の新設・拡大にともなって、長野県や群馬県、埼玉県などへ支社や営業所を設立。商圏を少しずつ広げながら、ここ5年の間には、北海道、宮城県、静岡県、兵庫県にも新たに営業所を開設した。造園土木事業を手がけるアセラ技建や、食品添加物製造のエフディ食品、取引先だった企業を譲り受けた業務用洗剤製造のエコクリーンシステムなど、関連会社も複数展開している。

こうした業容や商圏の拡大は、顧客ニーズや時代の流れに対応し続けてきたからこそだ。同氏が語るように、地道な積み重ねの結果である。ただ、ずっと右肩上がりで成長してきたわけでもない。三枝社長が入社した2001年の売上は約65億円。その後、長く横ばいが続き、一時は約77億円まで伸びたものの、リーマンショックで10億円以上も減収した。社会の変化を身に受けながら、踏ん張り続けてきたのである。

そんな同社がなぜ、2023年期に売上100億円を達成できたのか。「コツコツとみんなががんばってくれただけ」「たまたまうまくいった」と謙虚に語る三枝社長がトップに就任したのは2013年。ここから10年間の伸び率が高いことは、過去と比較すればよくわかる。本人は表に出さないが、「コツコツ」を加速させ、「たまたま」を引き寄せた秘訣があるに違いない。

 

(写真左)化成品部で小分け製造する、無機化学薬品のタンク
(写真中央)農薬部ではドローンによる農薬散布など、スマート農業への取り組みも進む
(写真右)仕入れ商品の多くを自社で在庫保管し、自社便で配送を行うことで、
顧客の細かいニーズに対応できる体制を整えている

分析・研究の長所を伸ばし主体性のあるビジネスを

トップに立ち、三枝社長が取り組んだことの1つに、分析・研究や自社製品開発への注力が挙げられる。そのきっかけは、数億円規模の大きな取引がなくなったことだった。

「ある顧客へ、メーカーから仕入れた商品を卸していました。それがあるとき、当社を飛ばして直接、メーカーが顧客へ売り始めてしまった。それを受けて、仕入れて売るだけのビジネスではいけないと痛感しました。価格競争に巻き込まれると、そうした事態が起きる。だから、主体性のあるビジネスをやらなくてはならないと考えたのです。もともと当社は、化学品や食品添加物の分野で分析センターや食品理化センターを持っていて、分析や研究に携わっていましたが、これまで以上にそこへ力を入れることを決断しました」

アセラの分析センターでは、
排水分析や食品分析、農薬残留分析などを行う

そうして大学との共同研究や特許技術の開発などへ、熱心に取り組んだ。その成果が現在、人気を博している商品の「コクキングP20」である。研究で生み出した低臭化メカニズムによって、独特のにおいを抑えつつ、後味に強い旨味やコクを付与できるニンニクパウダーで、県内外の食品工場へ多く出荷され、さまざまな食品加工に使用されている。

そんな研究熱心な同社の知見を借りたいと声がかかるようになり、メーカーとの共同開発も増えてきた。
「当社は技術力を提供し、メーカーからはリソースの提供を受ける。単独で取り組むのが難しい開発も、相互にメリットがある形で進められます。共同開発によって特許を取った技術もいくつかあり、こうした仕事は今後増えていくでしょう。当社としても、増やしていきたい」

メーカーが数ある企業の中から、アセラを指名して開発に取り組む理由について、三枝社長は「当社の強みである“現場技術力”を買ってくれているのではないか」と微笑む。製品が使われる現場に近いところで、手間と時間をかけ試行錯誤して開発を進める。それが同社のやり方だ。

「例えば、排水処理に用いる薬剤でも、処理設備が違えば適する薬剤も異なります。同じものを使えば、どこでも一律で同じ効果が出るわけではない。だからこそ、現場に張りついて何度も試さなくてはなりません。ゴルフ場に撒く農薬も、ただ撒いて終わりではない。芝に病気が発生したら、その原因を突き止めるために検体を採取して調べるなど、細かな対応が必要です。こうした現場合わせの動きは、大企業はやりたがりません。中堅・中小企業だからこそできることですし、ずっとやってきたこと。そこが、当社と組みたいと思ってもらえる要因だと思います」

 

(写真左)園芸資材部で設計・施工を行う果樹棚資材。
そのほか、温暖化対策に寄与するオリジナル商品の開発にも力を入れている
(写真右)農薬試験センターでは農薬の薬効薬害試験などを行い、農薬メーカーの研究・開発をサポートする

自社の強みを発揮すべく、縮小市場でも飛び込む

同氏が着手した緑化部とアクア事業部の新設も、売上100億円達成のキーファクターとなった。

緑化部は、もともと農薬部で行っていたゴルフ場などへの緑化資材販売業務を、分離させてできた部門だ。ゴルフ場は近年減少傾向にあり、市場も縮小している。部門設立の際には、同業者から「なぜ今さら、このビジネスに力をいれるの?」と驚かれたほどだ。それにもかかわらず、専用の農薬散布車を購入するなどして市場に打って出たのは、「アセラの現場技術力がダイレクトに活かせるビジネス」であると考えたからだと三枝社長は強調する。縮小している市場だからこそ、同業者はどんどん減り、顧客ニーズに応えられる企業が少なくなる。そこへ自社の強みである、丁寧で細やかなサービスと確かな技術力を売りに入っていけば、シェアをとれると見込んだのだ。手間がかかる仕事こそ、自社の出番。そうして取り組んだことで、狙い通り顧客から非常に重宝され、売上は伸び続けている。

アクア事業部も、もともとは化成品部で担っていた排水処理業務の将来性に期待して事業部化。昨今、環境保全に対する意識の高まりにともない、排水処理の重要性が高まっている。そこに商機を見出した。この部門に薬品メーカーで開発に携わっていた人材が入社し、顧客ごとに適した排水処理薬品の設計を迅速に行えるようになったことも、売上拡大を後押しした要因だ。現在は代理店を活用し、全国へと商圏を広げている。アクア事業部が開発・販売を手がけるメーカーとして機能するようになったことで、他事業部にも好影響が出てきたという。

アクア事業部の水処理R&Dセンターでは、
排水処理薬品の開発や薬品選定を行っている

「これまで当社では、既存顧客に既存商品を売るのが定石でした。しかし、アクア事業部の成功によって、良いものを開発すれば全国どこにでも売れる、既存の流通にこだわる必要はないと、社員の多くが気づいたようです。商売の自由度を感じ、各事業部が今までとは違った動きを見せるようになりました」

もとから分析・研究の土台を持ってはいるが、そこをもっと活用して良いものを広く売る。そうした意識が社内全体に広がって、営業所や支社のない九州エリアなどへも、営業先を拡大し始めているという。営業力向上には、数年前に導入した営業日報の全社共有も一役買っている。営業担当者は日々の営業活動をクラウド上で入力して報告、それを全社員が見られるという仕組みだ。

「日報は情報共有のほか、結果だけではなくプロセスを重視する意味もあります。かつては御用聞きのような営業スタイルが多かったのですが、それでは今後、成長していくことが難しい。提案型の営業に変えていくために、プロセスを見て評価することが重要だと考えました。この取り組みは、営業担当者のモチベーション向上にもつながっています」

他の社員の日報を見て、営業ノウハウを知る機会にもなり、相互に切磋琢磨する良い雰囲気が醸成され始めているそうだ。さらに事業部を越えて、協力して製品やサービスを提案するといった連動性も見られるようになった。多事業展開するアセラならではの、良い成果が出ている。

「農薬部で接点がある農家へ食品部がアプローチして、食品加工の仕事へつなげた例もあります。食品添加物を卸している食品工場から排水処理の依頼を受ける、工場敷地の除草や緑地の管理を依頼される。当社だからこそ実現できる、シナジーを生み出しています」

社員が自走する組織で、のびのびと能力を発揮

同社は各部門の責任者が持つ裁量が大きく、取り組みたい案件に対する投資申請が三枝社長に絶えず上がってくるという。それに対して、同氏は笑顔を見せながらこう話す。

「社長をうまく説得できれば、会社のお金でチャレンジができる。自分で事業を始めるのはリスクが高いけれど、社内でやれば失敗しても社長が責任を取ってくれる。部門長は、そんな風に思っているのかもしれません。でも、私はそういう人間を部門長に引き上げているわけですし、それぐらいの勢いでやってほしいと考えています。私が気づくことなんてほんの少しですから、現場から取り組みたいことを挙げてもらうほうがいい。社員のほうが現場をよく見ているし、業界の動向も肌で感じているはずです。そうすることで私と社員、互いの視点から、良いバランスで事業を進められます」

やりたいことへ積極的に取り組める。この社風は、大企業からアセラに移ってきた社員からも魅力に映る。「何歳でも活躍できる」というスタンスの同社には、大手メーカーを定年退職した人材が複数人、入社している。彼らからは「前職では顧客から要望があっても、採算やロット数などの理由でつくれないものも多かった。でもアセラは、小ロットに対応する工場もあるし、自由にのびのびやらせてくれる。大企業ではできない仕事ができて、楽しい」との声が届いているという。

「コストと収益性のバランスが課題ですが、それを考えるのは私だけでいいのです。ブレーキを踏みながら仕事をしていたら、成果は出ません。現場にはアクセル全開で走り続けてもらい、引くべきところの見極めを私がしっかりやっていく。当社のような企業は、急激に売上が伸びることはないので、とにかく毎年少しずつ成長していくだけです」

ペースを保ちながら、しかるべきところで勝負に出る。長距離走ランナーのような戦い方こそ、中堅・中小企業に欠かせない成長戦略なのだ。

 

機関誌そだとう221号記事から転載

経営に関するお役立ち資料を
お届けいたします

© Tokyo Small and Medium Business Investment & Consultation Co.,Ltd. All Rights Reserved.