未来を変えるSDGs経営

五方よしの「超・地域密着型」でつむぐ社会

ジェクト株式会社
ジェクト株式会社
主な事業内容:
資産コンサルティング、建築工事の企画・設計・施工、不動産の管理・賃貸および売買仲介、建物メンテナンス・リニューアル、学童保育所の運営、カフェの経営など
本社所在地:
神奈川県川崎市
創業:
1920年
従業員数:
101人

 

神奈川県に本社を置くジェクトは、建物の設計施工から不動産管理・仲介までをワンストップサービスで行う会社で、創業104年を迎える老舗である。

「私は持続可能な経営を目指すうえで、お客様や地域の方々、取引先、社員とのつながりを、より深めることが必要だと考えました。それが結果的に、SDGsの目標達成に寄与する活動だったのです。SDGsというと、国際的な社会問題の解決に貢献しないといけないから中堅・中小企業には関係ない、と思う経営者もいるかもしれません。しかし、そんな大それたことである必要はないのです。企業が成長し続けるために、目の前にいるステークホルダーを大切に思う。これこそが中堅・中小企業が担うべきSDGsでしょう」

確信をもってそう語るのは、同社の市川功一社長。実際、ジェクトは2021年、川崎市による「かわさきSDGsゴールドパートナー」に登録・認証され、市内でも有数の社会・地域貢献に注力している企業として知られるようになった。

同社の前身は、1920年に市川社長の祖父である重太郎氏が創業した市川組。市川家は江戸時代から新城(現・中原区)を地場とする大工を代々の家業としており、重太郎氏も宮大工の棟梁として活躍したのち、市川組を立ち上げた。西五反田にある氷川神社社殿も、1940年に市川組が建造したものだという。1944年には政府の統合令によって法人化し、「株式会社川崎組」を設立。官公庁の公共工事を中心に発展した。川崎の人口増加を受け、1972年には不動産部門を新設し、住宅の分譲事業を開始。1994年に現在の社名へ変更した後は、賃貸の仲介ならびに管理事業にも力を入れてきた。

今やJR南武線の武蔵中原駅を中心に、半径5キロ圏内で1000件を超える施工実績を持ち、賃貸管理戸数は4000室にのぼるまでに成長している。
「当社の賃貸管理戸数のうち、97%が武蔵中原駅5キロ圏内を占めるほど地域密着型。さらに人口が急増した武蔵小杉は、マンションが増えた割には地場の建築・不動産会社が少なく、隣駅ですが管理体制を評価いただいて、当社にご依頼いただくケースが多いようです。それでもシェアは中原区の全賃貸の約5%ですから、まだ伸び代はあります」

徹底した“顧客主義”を、会社全体で実現する

2015年に開設した「中原工房」では、建築会社ならではの
本格的な機材や工具・材料を使った家具や小物制作など
さまざまなDIYをたのしめる。

1976年に2代目を継いだ、市川社長の父である清氏が、ジェクトの発展を大きく導いたわけだが、その後、1998年に3代目社長に就任した市川社長も、先代の意思をしっかりと継承している。

「父は顧客第一を掲げて、お客様に指摘されたことをどんどん取り入れて改善してきました。そんな父の考え方を受け継ぎ、2001年にISO9001(品質マネジメントの国際規格)認証を取得したことをきっかけに、顧客主義を社員にも浸透させようと、企業理念やミッションを作成したのです」

同社のミッションは「お客様の笑顔、よろこびを作る会社」、そして企業理念は「私たちは、常にお客様の立場でものを考え、お客様の満足する住環境を創造し、いつまでも地域社会に必要とされる企業であり続けます(以下略)」である。さらにジェクトでは「五方よし」を目指すべき姿勢としており、「お客様、入居者様、お取引先様、地域の皆様、社員」の五方にとってより良い未来を目指して活動している。この顧客満足と地域社会を大切にするミッションと企業理念、そして五方よしが、後のSDGs活動につながったのだろう。

こうした理念や方針は、絵に描いた餅で終わってしまう会社も少なくない。しかし、同社はトップの強い意思のもと、途切れることなく地域の伴走者として活動を続けている。これは特筆すべき点だ。

「お客様は大切な建物を私たちに任せているわけです。だから『常にお客様の立場でものを考える』ことを、社員全員が徹底して身につけることが大切。そして地域から離れられないからこそ、ここでやっていくという覚悟をもち、長期的な目線で最善の提案を行う誠実さや、様々な問題にも逃げずに立ち向かい、やりとげる力をもった人材の育成に努めています」

 

中原工房の施設内に昨年オープンした「工房カフェ」。地域の方々の
憩いの場や、コワーキングスペースとして活用されている。

 

また、ジェクトは施工や資材を納入してくれる取引先に対しても、イコールパートナーとしての立場を明確にし、下請けや業者という言葉を使わず協力会社と呼ぶようにしている。同社は協力会社150社の他、100~200社もの取引先と関係をもっており、社員が定期的に直接訪ねるようにしているそうだ。

加えて社員同士で感謝を示し合う“サンキューカード”の取り組みを、社内のみならず協力会社にも活用し、現場の職人や作業員に感謝するべきところがあれば、工事部長がとりまとめて手紙つきで感謝の思いを伝えるようにしている徹底ぶりだ。

4つの観点で取り組む、さまざまな活動への思い

ジェクトでは現在、「地域交流」「防災」「教育」「ECO」という4つの観点からSDGs活動に取り組んでいる。なかでも特に注力しているのは「地域交流」だ。2003年から「親子夏休み工作教室」を開催し、小学生を対象に建築材料を使ってものづくりを楽しむイベントを社員の手で運営している。多いときには100人もの親子が参加するそうだ。

「準備には数カ月ほどかかりますが、社員が『先生役』となり子どもたちにものづくりの楽しさを教えることで、自分の仕事に対する肯定感も増すと考えています」

そして今年で10回目を迎える「コンクリートまつり」は、毎年4月に川崎市教育委員会後援で開催され、コンクリートミキサー車に乗って写真撮影したり、コンクリートを使用した手形づくりを体験したりすることができる。地域の子どもたちが楽しみながら建築を学ぶ場になっているのだ。さらに、2015年には誰でも木工製作を楽しめる「中原工房」を新設した。会員制のDIY工房で、材木や加工機材・工具を自由に使い、自分好みの家具を製作できる。

「お客様や地域の皆さんにものづくりの楽しさを知ってもらおうと開きました。賃貸オーナーはじめ多くの方にご利用いただいており、遠方からいらっしゃる方も。また、この近くに憩いの場所がないというお客様のお声を受け、2023年4月中原工房内の中に『工房カフェ』をオープンしました。社員がスタッフとして接客や配膳をしていることもあり、地元のお客様が来店された際には自然と会話も弾みます。日頃の喧騒から少し離れ、店内でゆったりと過ごされる様子を見ると嬉しくなりますね」

「防災」の観点では、川崎市防災協力事業者に登録し、災害時にタオル、軍手などの日用品、電動カッターや発電機、消火器などの提供・貸し出しを行っている。近年の防災意識の高まりを受け、地域社会と密接に関わる企業として、災害時には所有する自社の管理物件だけではなく、地域全体に対して迅速な一時対応を行う責任があると感じているという。

 

ジェクトが開催している地域交流イベント。コンクリートまつり(左)や親子
夏休み工作教室(中央)、過去には小学生向けに建築現場の見学会も実施(右)。

 

さらに「教育」の分野では、2020年に「学童クラブAYUMI武蔵中原」も新設し、武蔵中原の小学校2校を対象として、放課後にスポーツや英語、書道などのカリキュラムを提供。より地域社会とのつながりを深め、教育にも注力する構えだ。

「学童クラブは、創業100周年の感謝を込めて、さらなる地域貢献事業をしたいとの思いで始めました。『自ら考え、自ら行動する』ことの大切さを子どもたちに伝えられるよう、自主性を引き出すようなサポートやプログラムの提供を心がけています」

加えて、地元の小中学生に対し建築現場の見学会や職場体験の受け入れも実施している。近年はNPO法人「キーパーソン21」と協働して、子どもたちが自ら動き出す原動力となる「わくわくエンジン」を引き出すためのワークショップに参加。冒頭では必ず、市川社長が「仕事とは何か」というテーマで講話を行っているという。
「社員も楽しんでいるし、子どもたちの感想文では、地域での取り組みを聞き“ジェクトに入社したい”と書いてくれた子もいて、うれしい限りです」

また、社内での電気三輪車利用やリユース活動のほか、建築現場から出た端材・建築資材を安く販売するイベント「建築資材おとく市」を不定期に開催し、その収益を寄付している。地域の「ECO」に大きく貢献する活動だ。

このほか、障がい者による芸術活動「パラアート」への協賛や、知的障がい者の就労支援を行うNPO法人「アシスト」の支援も行う。現在アシストには、ジェクトが管理する100棟以上の賃貸建物の清掃業務を担当してもらっているという。

 

2020年に新設した「学童クラブAYUMI武蔵中原」。子どもたちの“自立”を目的に、
スポーツや英語、美術・造形、将棋など多彩なカリキュラムを放課後に開講している。

まず理念達成が目的で、その手段に事業活動がある

「いつまでも地域社会に必要とされる企業で
あり続けたい」というジェクトの企業理念と、
地域社会とかかわることの大切さを語る市川
功一社長。

驚くことに、こうした活動の副産物として、事業にも好影響が表れているという。例えば、小田急バスが暮らしの「町あい所」を目指して武蔵野市に開発した「hocco(ホッコ)」では、施工業者として指名発注を受けた。ホッコは店舗と住居から成る複合施設で、入居者同士や地域とのつながりを重視している。ジェクトの地域貢献が事業選定の要素の1つでもあったようだ。

「地域に根差した活動が認識されたことで、良いご縁をいただきました。しかし当社にとって、目的は理念の達成であり、そのための手段として建築や他の事業があります。目的と手段を取り違えてはいけません。従って社内で事業における数値目標はあるものの、強引な達成は不要ですし、人事評価も行動面の配分が高い。社員にとって、自ら考え自ら行動することが一番大事です。当社では、新入社員でも気軽に意見できるような環境づくりを目指しています」

2024年3月には1年前に廃業した武蔵中原駅前のスポーツクラブを買い取り、来春に再開予定だ。
「スポーツはお客様や地域にとって必要なものです。地域に必要とされる企業として、再建は当然のことです」と話す市川社長には、揺るぎない自信があふれていた。

 

機関誌そだとう220号記事から転載

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