SBIC’s Column

今こそ知っておきたい「ハラール」の世界

株式会社二宮

グローバル化によって日本国内のイスラーム人口が増え、「ハラール」への関心が高まってきている。
わが国ではどのような点に留意して対応すべきか、日本で初めて加工食品のハラール認証を受け、「NINOハラール」ブランドを展開する株式会社二宮の二宮伸介社長に話を聞いた。

 

株式会社二宮
代表取締役社長 二宮伸介
東京都生まれ。
2003年にハラール食品の輸入を始める。
翌年、加工食品として日本初となる
ハラール認証をパン製造で取得し、
ハラール専門企業として本格的に営業を開始。
2007年に株式会社二宮の代表取締役社長に就任した。

「ムスリム(イスラーム教徒)のもっとも重要な聖典・クルアーンにおいて、“ハラール”は『許されたもの』または『合法的なもの』を意味し、反対に禁じられている行為や食品などは“ハラーム”と言われます」

そう説明するのは、ハラール食品の輸入と加工を手がける株式会社二宮の二宮伸介社長だ。ムスリムは、豚肉やアルコールを飲食してはいけない。これは日本でも広く一般的に知られているが、実はクルアーンでは「死肉、血、豚肉、アッラー以外(の名)で唱えられて殺されたもの」を食べることを禁止している。つまり豚肉でなくとも、決められた処理方法にのっとって処理されていない肉は、食べてはならないのである。

また、食品だけではなく化粧品などの身につけるものも同様であるほか、日常生活においてもハラールやハラームといった言葉は多用される。例えば、子どもが良いことをすると「ハラールだね」、悪いことをすると「それはハラームだ」と伝えるのだ。

二宮社長によると、現在、世界のムスリム人口は約20億4千万人で、全人口の28%に相当する。これが2070年には35%まで増え、イスラーム教徒が世界一多い宗教になると予測されているという。
「そうした中で、日本ほどムスリムがマイノリティの国はありません。外国人の流入が長く制限されていたためですが、特にムスリムにとっては、お祈りする場所もなければ、ハラール食品を扱うレストランも少なく、生活しづらい国なんです」

飲食店を営んでいた同社が、初めてハラール加工食品で認証を受けたのは2004年。「日本で食べられるパンがない」という親しいインドネシア人の声を聞いて、当時の日本ではほぼ認知されていなかったが、ハラール認証機関の勧めにより、ジャカルタで開催されたハラールセミナーに日本人として初参加。そこから勉強を始め、2年かけてパン製造でハラール認証を受けた。ハラール加工食品をつくるには原材料がすべてハラールでなくてはならない。そのため、仕入れ先にも原材料の証明書を書いてもらう必要があった。

 

NINOハラールフードとしてハラール調味料や冷凍食品、
ハラール&ヴィーガン&ベジタリアン食品などを全国の展示会で出展している

ムスリムのルールを理解し配慮することが大切

その約10年後から、インバウンド増加をめざす政府の後押しもあって東南アジアからの観光客が増え、ハラール対応が注目されるようになる。二宮社長はコロナ禍前まで、毎月のようにハラール対応のセミナーを行うまでに、需要は高まっていった。

「ハラールへの注目度が上がっているのは、インバウンドの増加もありますが、人手不足により海外からの技能実習生や特定技能人材が増えていることも大きいでしょう。これまではベトナム人や中国人が多かったのですが、最近はムスリムの人材も多くなってきています。一部のハラール商品は、従来コンテナ1台分がなくなるのに1カ月ほどかかっていましたが、今では1週間もちません」

加えて2025年には大阪・関西万博が控えており、関西エリアでは会場周辺のホテルやレストランを中心にハラール食品の需要が高まっている。「ハラール食品」とはハラール認証を受けた食品を指すが、現在、日本ではハラール認証機関が乱立していると二宮社長は指摘する。
「短期間で簡単に認証を取得できる機関は、ハラール性に疑義が生じる可能性もあり要注意です」

一方で、食品メーカーでなければ、無理に認証取得を目指す必要もないとも語る。
「ハラール食品を利用する側のレストランやホテルでは、そこまで厳しく考えなくてもいいでしょう。むしろ、正式な認証をとった食品を使っている、あるいは、自分たちのハラール対応内容をしっかりとアナウンスすることのほうが肝要です。当社では、飲食店内でハラールに対する方針を掲示することを勧めています」

 

JICAの食堂で掲示されているハラールの方針。
まずは、ハラールの対応内容をアナウンスすることが大切だ。

 

ハラール食品というと、食品関連業界が対応するものだと捉えられがちだ。しかし二宮社長は「業種にかかわらず、中堅・中小企業の経営者は、ハラールを含めてムスリムについての認識をある程度持っていたほうがいい」と強調する。具体的には、1日5回お祈りをすることやイスラーム暦は太陽暦ではなく太陰暦であること、日の出から日没まで一切飲み食いできない1カ月間の「ラマダーン」があることなどだ。

 

(写真左)東京の時刻に合わせて、5回のお祈り時間を掲載したラマダーンのタイムテーブル

 

「人手不足でムスリムを採用する企業が増えてきています。そうなると、日常生活に対する理解も欠かせません。例えば、社内で飲み会を行う場合は無理に飲ませないなどの配慮をする必要があります。ラマダーンの月は、私も出社してから日没までは何も飲食しないようにしていますが、これが非常にきつい。ムスリムの社員が水を一滴も飲まずに仕事をしている前で、堂々と飲食することはマナーとして推奨できません。最低限のルールは、会社として把握し、周知する必要があるでしょう」

広く優秀な人材を獲得していくには、異文化を受け入れ、その体制をいかに整えるかが、鍵になるだろう。

 

機関誌そだとう220号記事から転載

経営に関するお役立ち資料を
お届けいたします

© Tokyo Small and Medium Business Investment & Consultation Co.,Ltd. All Rights Reserved.