「省人化」こそ、持続的成長への道しるべ

業界の最先端は、ついに“無人運転”へ

~産業の血流だからこそ、それを支える「人」を守りたい……~

CASE①株式会社ボルテックスセイグン

 

ドライバーのいない無人4tトラック2台が、広い敷地内に点在する倉庫を順番に回って走る。荷物の積み込みや荷下ろしは有人のフォークリフトで行い、荷役作業が終わるとフォークリフトの作業者がタブレット端末で次の動作を指示。それに従い、無人トラックは次の場所へと移動する。これを繰り返し、距離にして約1キロメートルを完走した──。

完全無人トラックが実際に倉庫敷地内を走行している様子

これは2022年、総合物流業のボルテックスセイグン本社物流センターの敷地内で実施された、日本初となる「完全無人トラックによる場内自動搬送システム」実証実験の様子で、見事な成功を収めたもの。この自動搬送システムは、同社と群馬大学、同大学発のスタートアップが共同開発した。

実証実験では、高性能の衛星測位やレーザーでの障害物検知の機能を駆使して、走行路や速度、停止位置が設定通りになるかなどを確認。現在は、搬送ルート上に障害物があった場合に車両が停止してしまうなど、実証実験で浮かび上がった課題の解決に取り組んでいるという。また、もう一歩進んだ公道横断実証実験も行っており、こちらも早期実用化を目指している。

「工場など場内での自動搬送車両は以前からありますが、通路地面に磁気誘導棒を埋設し、その上を車両が走るものが主流です。今回のシステムが実用化されれば、トラックを使った搬送車両の大型化や、走るルートを自由に変えられるフリーロケーション化が可能となるでしょう。人口減少で人手不足が深刻化する中、製造業の工場敷地内に複数の製造棟や倉庫を持つ企業において、大幅な省人化や省力化、効率化に加え、労働災害の減少による安全性の向上につながることは間違いありません」

「完全無人トラックによる場内自動搬送システム」の意義をこう説明するのは、ボルテックスセイグンの武井宏社長だ。

 

武井 宏社長

株式会社ボルテックスセイグン
主な事業内容:
運輸業、倉庫業、通関業、労働者派遣事業、業務請負業など
本社所在地:
群馬県安中市
創業:
1951年
従業員数:
529人

同社は「安全第一主義」を基本理念に掲げ、トラックドライバーをはじめ、社員の安全確保を長年にわたって追求してきた。その一環として早くからデジタル化に注力。労働安全とともに、省人化、省力化による生産性向上を推進してきた。まさに「物流DX」の先進企業である。

「物流は産業の『血流』であり、社会になくてはならない仕事です。しかし、トラックの交通事故は後を絶ちません。その中には不可抗力の事故もあるものの、どうしてもトラック側の責任が重くなってしまう。それは非常に残念なこと。ドライバーをケガだけでなく、本当の意味で事故から守るにはどうすべきかというのが、私たちのデジタル技術開発、導入の根底にあります」

 

(写真左)ボルテックスセイグンの本社物流センターには、同社のロゴが入った車両がずらりと並ぶ。
(写真右)上空写真を見ると、本社物流センターの規模がうかがえる。

業界に先駆けた、省人化と安全への取り組み

ボルテックスセイグンは武井社長の父が1951年に創業した西群運送が前身で、1988年に武井社長が後を継ぎ、積極的な事業拡大を図ってきた。国内輸送に加え、倉庫保管、梱包、人材派遣、国際物流も手がける。

業績は右肩上がりで伸び、2022年には「100億円企業」の仲間入りを果たした。一方で武井社長は、1991年の創業40周年を機に社名変更を決断。加えて「安全はすべてに優先」するという「安全第一主義」を基本理念に掲げた。
「物流を支える根本は『人』です。創業者である父も、社員を家族のように大切にしていました。その精神を受け継ぎ、さらに推し進めるために『安全第一主義』を基本理念にしたのです」

実際の取り組みとして、例えば1995年には事故防止に向けた「危険予知トレーニング(KYT)活動」を開始した。2000年からは全トラックにデジタル・タコメーターを装備し、制限速度を設定。2008年には全車にドライブレコーダーを導入している。

これらすべてが業界に先駆けた取り組みであることからも、武井社長の“安全”に対する強い思いがうかがえるだろう。

そのうえで、システムの独自開発にも力を入れてきた。その1つが2005年に開発した「IT遠隔点呼システム」だ。従来の点呼は対面が基本だったが、本社と各営業所を遠隔で結んで点呼を実施できるシステムは画期的だった。カメラと各測定機器を使い、運転前にドライバーの血圧や脈拍、体温、アルコール濃度をチェック。運行内容を確認しながら業務への支障、健康状態に問題がないか確認する。静脈認証による本人確認で、なりすまし運転も防ぐ。同システムは点呼記録がシステム上で一元管理され、点呼をとる側、とられる側の記録がすべて残る。データの改ざんはできない仕様だ。営業所で測定された各データはオンラインで送受信され、ドライバーの健康状態は本社でも確認できる。

ここまでやってはじめて、ドライバーを「事故から守る」ことができるわけだ。

 

(写真左)「IT遠隔点呼システム」を使用した点呼の様子。
(写真右)飛沫感染防止フィルムや体温計により、コロナ禍にも対応。

 

さらに2020年には「自動荷役システム」を開発した。レーザーで誘導する無人の自動フォークリフト(AGF)と移動式ラック、在庫管理システムを連携し、倉庫内の無人エリアでパレットの入出庫作業を自動で行う。ボルテックスセイグンでは2台のAGFが稼働し、トラックから降ろした積み荷を指定の場所に置くと、AGFが無人エリアのラックへ運び、荷物を収納する。もちろん、出庫の際もAGFがラックから荷物を運び出すため、倉庫内の業務を省人化でき、夜間人員の削減などにも大きく貢献している。このシステムの導入によって、最大約4割の省人化が見込めるという。

加えて安全面でも、大きな効果が出ている。フォークリフトの積み降ろしは、荷物の落下など事故の懸念があるが、自動荷役システムが導入されたエリアでは、社員のケガを含めた事故はゼロになっているのだ。

 

現在、市内物流センターの一部に「自動荷役システム」が導入され、省人化を実現。

広く、安全に対する意識を高めたい

省人化や省力化による生産性向上を高いレベルで実現している同社だが、「発想のベースにあるのは、事故をなくしたいという安全確保の思いです」と武井社長は語る。

実際、本来の事業とは別で取り組むシステム開発には非常に大きなコストがかかるが、武井社長は独自の哲学を持っている。
「国の補助金などを最大限に活用していますが、そもそも自分たち、ひいては業界の安全を守るためのシステム開発なので、これをコストとは考えていません。未来に向けての『投資』なのです。社員を守るために何ができるかを常に考え、必要と思うものには投資を惜しまない。日本は安全に対する意識がまだ高まっておらず、世界に後れをとっていると思っています」

コストの問題とは別に、そもそも物流企業が独自にシステム開発をするのは容易ではない。そこで重要になるのが、連携だと同氏は語る。
「私たちはモノづくりの会社ではないので、機械やシステムそのものをつくることはできません。しかし、仕組みを考えることはできます。その実現に必要な技術は、常に情報発信して自ら探し回ります。そうして協力を得られる企業や大学、行政、公的機関などと協定を結び、開発に取り組んできました」

一方で、これらのシステム開発によって、新しいビジネスも生まれた。自社で成功した取り組みを、広く外販する方針だ。すでに「IT遠隔点呼システム」は、約230社の導入実績がある。

武井社長は「国内の運送業者は約6万社ありますが、中堅・中小、零細企業が多く、導入コストの問題もあり、まだまだ普及はこれからです。ただ、当社のシステムである必要はなく、安全を高める取り組みの必要性を広く理解してほしいと願っています」と話す。

「自動荷役システム」と「完全無人トラックによる場内自動搬送システム」は、まだ開発段階のため導入実績はないが、いずれも物流業界に限らず、広く製造業の市場で大きな可能性があるだろう。今や、人手不足や生産性向上は、業種にかかわらず共通課題となっているからだ。「自動荷役システム」は既存倉庫にも導入可能であり、今後、「既存倉庫内物流の自動化・省人化ソリューション」としてパッケージ化し、積極的に提案していく考えだ。

「完全無人トラックによる場内自動搬送システム」についても、従来型の小型自動搬送機より導入コストを抑えられる。さらに期待されるのが、自動運転を含む次世代交通サービス「MaaS」だ。国内の同市場は急成長しており、現在は認められていない公道の無人輸送が可能になれば、自動トラックによるビジネスチャンスが大きく広がるだろう。

 

本社物流センター敷地内の公道を完全無人トラックで横断する実証実験。

未来をつくるのは、「今ある課題」への対応

近年、「物流・運送業界の2024年問題」がクローズアップされてきた。2024年4月からドライバーの労働時間に上限が設定され、人手不足が一段と深刻化している。ボルテックスセイグンの取り組みは、結果的にこの問題を先取りする形で進められてきた。

「人口減少による人手不足の問題は早くから指摘されていたことで、簡単には対応できない課題であることはわかっていました。2024年問題に限らず、何ごとも先を見越して早め早めに対応するのが肝要で、それは『今ある課題』にどう対応するかということです。それが必ずや、未来へとつながっていくでしょう。安全対策も前もって取り組むことが大事で、重大な事故が起きてはじめて対応するのでは遅いのです」

前述したように、同社の業績は好調だ。ただ、武井社長は単なる規模の拡大は目指さないと話す。
「大手物流企業とは異なり、当社が持続的に成長していくためには中堅・中小としての特色、生き方を考えなければなりません。そこで大事になるのが、オンリーワンとして仕事の質を追求していくことです。人口減少で人手不足が深刻化する中、社内の人材育成を図りながら、お客様のニーズに応えられるよう、物流の仕組み自体を改善するなど、持続可能なサービスを提供していくことが重要なのです」

まさしくそれは、ここまで見てきたさまざまな独自システムの開発にほかならない。

それらを単体で販売することもできれば、複数のシステムを組み合わせることも可能だ。実際に「完全無人トラックによる場内自動搬送システム」と「自動荷役システム」を統合して、自律型自動搬送システムを実用化することも視野にあると武井社長は微笑む。

「当社としてはこれからも物流の未来を見つめながら、『安全第一主義』の基本理念のもと物流DXを推進し、自動化・省人化による生産性向上に力を入れていきます。そして、より付加価値の高い物流システムの構築に、挑戦し続けていく考えです」

「100億円企業」を実現し、次は「100年企業」へ。ボルテックスセイグンは、さらなる高みを目指す。

 

 

機関誌そだとう220号記事から転載

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