投資先受賞企業レポート

“研ぎ師”となり、社員の強みを磨き上げる

サステナブルな組織づくりのため、若手を積極採用!

ダンレックス株式会社

八木橋 拓也社長
理工系の大学院を修了後、大手機械メーカー
で4年ほど営業を経験。結婚を機に、2014年
ダンレックスへ入社した。2019年に代表取締
役社長に就任。

ダンレックス株式会社
主な事業内容:
保安用品の企画、設計、製造、販売
本社所在地:
東京都中央区
設立:
1979年
従業員数:
18名

 

道路工事の現場でよく見かける、回転灯や矢印板、安全ベスト。これらの製品は“保安用品”と呼ばれている。
ダンレックスは、ソニー出身の黒田正夫氏が1979年に設立した保安用品の企画、設計、製造、販売を行う会社だ。独自性のある製品開発に力を入れ、事業を拡大していった。

オーナー経営者であった黒田氏は息子がおらず、跡継ぎの問題を抱えていた。黒田氏の亡き後は、何人か社長に就いていたという。2019年5月に代表取締役に就任した八木橋拓也社長は、黒田氏の孫娘の夫にあたる。同氏は創業者の黒田氏とは会ったことがないものの、理念や精神を受け継ぎ、社長就任後、事業を発展させてきた。

「義母の代から跡継ぎが課題だったそうです。妻の実家が会社をやっていて、一族に後継者がいないことを知ったのは、交際してから2、3年後のこと。義母に『娘と結婚して、会社を継いでくれたらうれしい』といわれ、これは外堀を埋められているぞと思いました」

そう笑いながら話す八木橋社長は当時、ポンプやボイラーを扱う大手機械メーカーで営業職に就いていた。もともと興味がある分野だったため仕事には満足していたが、結婚を機に決意を固め、14年に同社へ入社。
「10 人ちょっとの小さな会社で、若い人は殆どいませんでした。みんな個別に仕事をしていて情報共有はなく、技術の蓄積も個人にしかない状態。約15年営業を担当していた社員が急に退社したので、僕が後任として業務へあたることになりました」

前任者からの引き継ぎもないまま、「営業に行ってきて」といわれた、当時の八木橋社長。顧客名簿はあるか他の社員に聞いたところ、渡されたのは電話帳だったと振り返る。
「これはまず、自分で勉強するしかないと思いました。自社製品のことはもちろん、業界や顧客についても深夜まで徹底的に研究しました」

 

夜間でも三角コーンの上で光を放つ保安灯があれば、安心して作業ができる(写真左)。
八木橋社長が初めて企画開発した矢印板の「2WAYアロー」(写真右)。

知識を蓄えた社長就任までの期間

当時保安用品を扱う会社は5社ほどあり、業界内でのダンレックスの位置付けは決して高くなかった。「昔はいいものをつくっていたけど、今は弱い」というのが周囲の評価だったという。彼らのいう「昔のいいもの」とは、約20年前に黒田氏が開発した業界初のLED搭載保安灯。それ以来、起爆剤となるような新製品が出せずにいたのだ。

「いずれ社長に就任することはわかっていたので、その前に準備しなくてはと思っていました。長年この会社で働いてきた人に、いきなり『改革しよう』といっても誰もついてきてくれない。だから、商品理解や業界研究をはじめとした基礎固めは徹底的に行いました」

入社から約半年後のこと、義母と当時の社長から「投資育成が開催している次世代ビジネススクール(以下、BS)に参加するように」といわれる。八木橋社長の実家は栃木県にある兼業農家で、父は農協職員。同氏も理工系の大学院を経てメーカーで勤務していたため、経営者としての心構えや知識などとは無縁だった。

「全10回にわたるBSを通して、経営戦略やマーケティング、財務、組織づくりなど、経営者として身につけておくべき知識や理論を体系的に理解しました。一番学びになったのは、メンタルや考え方など精神的な部分。BSの同期には2代目や3代目などの後継者がいたのですが、彼らは小さい頃から『大きくなったら社長になるよ』といわれて育ち、会社をどう良くしていくかを常に考えています。サラリーマンのマインドだった僕が、そういう人たちと一緒にいることで、変わることができたのです。BSがなければ、僕はいま社長になれていません」

同社が手がける保安製品の数々。知的財産権の取得にも力を入れ
ており、現在までに特許権を3件、実用新案権を1件取得している。

大企業に在籍していた八木橋社長は、歯車の一部となって会社に尽力する意識が捨てきれていなかったという。彼らと関わりを持つ中で、中小企業の経営者になる以上、自らの考え方を根本的に変える必要があることを痛感した。

「大企業には数の強さがあります。一方で、中小企業には別の強みがある。それはスピード感と、少人数ならではの意思疎通のしやすさです。この2つは意識的に強化していこうと考えました」

同氏は勉強を重ねるうちに、他にはない強みが同社にはあることに気づいた。それは黒田氏が大切にしていた「人に役立つモノづくり」「高い品質」「アフターサービス」だ。
「保安用品メーカーとして社会的に評価されるためには、人の役に立つモノづくりと品質追求は欠かせません。安ければ購入時に感謝はされるものの、それで終わりです。少々値が張っていたとしても長く壊れない品質であれば、お客さんの役に立つはず。そして購入後も継続してお客さんの心を掴むためには、アフターサービスが非常に重要です。この3つをどう強化していくかは、常に考えています」

意見やアイデアが出しやすい環境づくり

自社理解や業界研究の次に着手したのは、製品開発の土台づくりだ。八木橋社長は、工業高校時代の担任教師に依頼し、社員向けに毎月勉強会を開催。従業員の基礎知識を着実に増やし、新製品の意見やアイデアが出しやすい環境を整えていった。

「恩師から『モノの理屈も分からずにつくっていて、工場の人たちがかわいそう』といわれたのです。それからは、社員にモノづくりの基礎となるロジックを理解してもらうようにしました。そこがしっかりしていないと、新しいものは出てこないですよね」

こうしてつくった新製品の1つが、社長就任前に発売した矢印板の「2WAYアロー」。従来は乾電池式とソーラーパネル式の2種類があったが、その機能をひとまとめに乾電池とソーラーのハイブリッド仕様とすることで、自動で電源が切り替えられるようにした。

「営業時代、顧客の顕在ニーズに訴えるだけでは限界があると感じていました。潜在ニーズに着目して、お客さんに“サプライズ”を提供しないと、選ばれる企業にならないと思ったのです」

しかし潜在ニーズの掘り起こしといっても、説得力のある裏打ちが必要だ。そこで八木橋社長は、法律の改正や自動車業界の動向など、保安用品に関連する動きに着目。そうして生まれたのが、社長就任後に発表した「トワイライトシリーズ」だ。

「夕方から夜にかけての薄暮時は視認性が低下し、事故が多発することが問題となっていました。そこで夕暮れ時は高輝度で発光し、暗くなると通常発光に切り替わる“薄暮モード”を開発。暗くなったら自動で発光する機能は以前からあったものの、どれくらいの暗さで発光するかはメーカーによってまちまちでした。当社は、20年に搭載が義務化された自動車のオートライトに着目。照度が1000ルクス未満になると2秒以内に自動点灯するという国際基準があり、これに水準を合わせたのです」

事故が多発する薄暮時の対策や、国際基準という確固たる根拠があることで、製品の説得力は確実に増す。同氏はこのようにして、新たな商品の開発に取り組んでいった。また、知的財産権の取得にも力を入れ、年に1回は特許出願を行い、他社製品との差別化やブランドイメージの向上を狙っている。

一人ひとりと本気で向き合い、評価する

八木橋社長が、新たな製品開発と並行して行っていることがある。それは、若手の積極採用だ。背景には、企業の成長のためには若い世代の力が欠かせないとの考えがある。
「経験豊富な中堅世代の人を採用するという選択肢もありました。でも、若い人たちは自分に近い世代がいない会社に入りたいとは思わない。僕は、時代は若い人がつくるものだと思っていますし、これからも若い人を積極的に採用していくつもりです」

とはいえ、従業員十数人の中小企業に興味を持つ若手は少ないのが現状だ。そこでダンレックスでは、年間休日数130日を確保し、単身者向けの家賃補助は32歳まで出すなど福利厚生を充実させることにした。
「もう1つ、1カ月5000円の『習い事手当』も支給しています。会社員は家と会社の往復になりがちなので、仕事以外でも広がりを持ってほしいからです」

また、BSの同期が営む衣料メーカーに依頼し、デニム製のオリジナル作業着を製作。機能性とデザイン性を兼ねたもので、楽しい気分で仕事に取り組んでもらいたいという気持ちが込められており、工場勤務のイメージアップにも貢献している。もちろん、入社後のケアや育成にも全力で向き合う。

 

社員との集合写真。八木橋社長の入社時と比べて、平均年齢は10歳ほど若返った。

 

「採用するだけではなく、育てなくてはいけない。今後の経営者は“研ぎ師”になることが求められると思っています。モチベーションが低い社員だとしても、強みを研いで名刀に変えていくことが僕の使命。そのために社員一人ひとりと向き合って向き不向きを見極め、いいところを言葉で伝えるようにしています」

製造部門で入社した従業員でも設計のセンスがあると感じれば、きちんと評価しチャンスを惜しみなく与えるという。もちろん設計の勉強にかかる費用は、会社が負担する。一人ひとりと本気で向き合い、手厚い支援を行う八木橋社長の取り組みが、社員の個性を発掘し磨き上げているに違いない。

若手の積極採用と地道なフォローを続けた結果、全社員の平均年齢は33歳に。同氏の入社時と比べて10歳ほど若返ったことになる。30歳未満の社員には、キャンプをしながらチームビルディングを学んだり、将来の自分と会社をどうしたいか語り合ってもらう研修も行う。会社を自分事として捉えてもらうことで、離職は少ない。

 

フォレストアドベンチャーで行われた若手研修(写真左)。新たな製品の開発に向け、日々打ち合わせを行う。

 

こうした取り組みの数々は着実に実を結び、同社の業績は上向きになった。社長就任の19年以降売上高は増加傾向にあり、21年には初めて10億円を突破。20年から世界的に広がった新型コロナウイルス感染拡大による影響はほとんどなく、むしろ業績は伸びた。
「社長就任前から準備していた新製品をいくつも出せたということもありますが、屋外で行われる道路工事は“密”になりづらく、中止になることがなかったのです」

2022年9月に増設した富山工場。近隣大学から
インターンシップ生も受け入れているという。

業務のテレワーク化も追い風になったという。これまでは営業や開発など、業務担当別に行っていた会議を、全社員がオンラインで集まって行うことにした。
「これも社員数が少ないから実現できたことだと思います。東京本社と富山工場の全社員がオンラインで集まり情報共有したことで、会社の方向性を再確認し、意識の共有化も図れました」

創業者から受け継ぎ、新たなアイデアを詰め込んだ自社製品。今後は道路工事現場だけでなく、農業や漁業をはじめとした“安全”が求められるあらゆる場所で役立つはずだ、と八木橋社長は語る。志を同じくする若手社員の活躍を追い風にして、将来的には他業種への進出も視野に入れているという。社長就任前から準備を積み重ね、結果を出してきた同氏の原動力は何なのだろうか。

「この業界や製品を研究し、関連する法律などを勉強するなど、事業にどれだけ情熱を持てるか、ということも大きいのですが、ひとえに責任感だと思っています。僕は結婚を機にぽっと入ってきた人間ですが、従業員たちを路頭に迷わせるわけにはいかない。何より、妻の祖父である創業者にカッコ悪い姿を見せたくはない。それに青臭く聞こえるかもしれませんが、僕は自分と知り合った人たちには幸せになってほしいと本気で思っています。僕自身も多くの人に助けられてここまで来ることができた。だからこそ頑張れるのです」

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

「第41回優秀経営者顕彰」で「青年経営者賞」を受賞できたことをうれしく思っています。小さな会社が評価されたことは、従業員にとっても大きな励みです。投資育成さんには、経営者マインドを教えてくれたBSをはじめ、業務では関われないような方々との出会いをご提供いただきました。今後も、投資育成さんのお力を借りながら、事業を発展させていきたいです。

 

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

この度はご受賞、誠におめでとうございます! 会社への熱い思いを語る社長にお会いするたびに、私のダンレックスさまに対する気持ちはますます強くなっております。貴社は業界初のLED搭載保安灯や赤色の工事灯に青・緑を導入するなど、常に「新しいこと」にチャレンジする企業です。今後も農業や漁業等をはじめとした安全が求められる場所で、新しい市場に挑戦するダンレックスさまを応援していきたいと思います。

業務第一部 主任
峰村裕大

 

機関誌そだとう219号記事から転載

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