未来を変えるSDGs経営

「食の花束」で地域発展と持続可能な未来へ

株式会社タケショー
株式会社タケショー
主な事業内容:
食品開発に関するサポート、ブレンド調味料の製造・販売、食品加工用副原料・包装資材・副資材の販売、包装機材・理化学機器の販売・メンテナンス
本社所在地:
新潟県新潟市
設立:
1960年
従業員数:
215人(グループ計)

 

コンビニエンスストアなどでよく目にするスナック菓子。季節限定フレーバーを目にしたり、旅行や出張先で地域限定の味に出会ったりすると、思わず手が伸びる。こうしたバラエティーに富んだ味をメーカーに代わって開発しているのが、新潟県新潟市に本社を構えるタケショーだ。

現在、同社では、スナックをはじめとした菓子類の味付けに使用する粉末調味料やプロテインパウダーなどを手がける、ブレンド事業が伸びている。他方、もともとは卸売業からスタートした会社で、直近の売上構成比を見ても、食品加工メーカー向けの原料やパッケージ、大学など研究機関向けの理化学機器、食品工場に導入する機械類の仕入れ・販売が依然として多くを占めている。

2019年、さらにここへ3つ目の柱となる素材事業が加わった。ベトナム第5の都市、カントー市で現地法人TAKESHO FOOD VIETNAM CO. LTD.を設立。メコンデルタ地域の豊富な食資源を活かして粉末調味料などの研究開発を開始し、すでにいくつかの製品を上市しているという。

これらすべての事業を支えるのが、タケショーの強みである「おいしさを科学する」取り組みだ。その中心となるのは研究開発部である。味を科学的に評価し、データとして見える化することで、明確な根拠のある食品開発を実現。顧客の商品開発をバックアップし、自社製品の開発においても大いに役立てている。

「創業者である父は薬剤師でした。卸売業者として右から左へ物を動かして販売するだけでは、他社に勝てません。そこに調剤薬局的な発想を取り入れることで、明確な差別化を図ろうとしたのでしょう。“この調味料を使えば、これだけおいしくなる”、“バラバラに仕入れていた3種の調味料をあらかじめ配合すれば、管理が楽になる”といった提案ができる研究開発機能と製造機能を持つことを、創業当初から志向していたようです」と、同社の田中利直社長は話す。そうしてタケショーは、他社とは一線を画す卸売企業として、顧客から支持されるようになった。

 

開発室では「おいしさを科学する」を活用し、日々試作が行われている。

 

近年、同社の特徴がより一層、輝きを増している。その背景には顧客ニーズの変化があるという。

「数年ほど前までは、季節限定や地域限定といった、いわばプレーン味のまわりにある衛星のようなポジションのフレーバーを数多く手がけていました。しかし昨今はメーカーにおいて、次々と新しい味を展開するよりも、中心にあるベーシックな味をより強く打ち出す方向へ変わってきています。その基本となる味もさらによいものを目指して、社会のニーズ、特に嗜好の変化に対応するなど、常に磨き続ける必要があるでしょう。そこで、当社が科学的な知見をもとに味を提案するのです」

もちろんメーカーも自社で味の開発をしているため、「タケショーに任せたほうがいいね」と思ってもらわなければならない。その根拠となるのが「おいしさを科学する」だ。顧客の商品と他社製品を比較するポジショニングマップを作成し、さらなる開発の方向性も定められる。

 

分析室では食品を構成するさまざまな要素を、クロマトグラフ(図左)や
特性比較チャート(図右)にして視覚化し、顧客へと提供している。

 

また、フードロス削減の観点から、賞味期限を延長できないかという相談も数多く舞い込む。タケショーでは、対象となる食品を官能検査などで科学的に評価し、経時変化に耐性のある処方設計や保存性の高い包材を提案することで、賞味期限の延長にまで貢献しているのだ。卸売業で培ったパッケージの知見やノウハウを活用し、エンジニアリングの知識と技術によって、製法から見直す提案も可能だという。

「近年、日本のお菓子が国際競争力を高め、海外にたくさん輸出されています。しかし、添加物の基準が国によって異なるため、苦労するメーカーは少なくありません。私たちは国際的な添加物基準にも詳しいため、その対応を求められることも多くあります。各国の基準に合わせた的確な提案をできることで、効率よくグローバル展開したいメーカーからも、重宝されています」

まさに、困ったら相談する“食の駆け込み薬局”のような存在として、顧客に安心感を与えているのだ。

資源の高付加価値化でベトナム経済に潤いを!

メーカーのグローバル展開を支えてきた同社が、その知見を後ろ盾に海外進出するのは自然な流れだが、なぜベトナムだったのか。

「非常に個人的な理由です。私は1970年代の終わりから1980年代にかけて大学時代を過ごしました。当時、西洋史や国際関係学を学びながら、東西冷戦構造の中で揺れ動く国々に興味を抱いており、なかでもベトナムには特に関心があったのです。大学卒業後、コンサルティング会社を経て金融機関に勤めましたが、ベトナムで仕事をする同僚を横目で見ながら、同地への思いを募らせていました。いつかはベトナムで事業をやりたいと考え続けていたのです」

 

タケショーの企業理念について力強く語り
ながら、人材優先と微笑む田中利直社長。

そんな田中社長の念願を叶える足がかりとなったのは、ベトナムの理科系大学でトップクラスに名を馳せるカントー大学との共同研究だった。同大学の農学部は、ベトナムナンバーワンとの呼び声高い名門だ。カントー市を中心とするメコンデルタ地域は、九州の1.1倍くらいの面積で、中国から豊富な養分を運んで流れ込んだメコン川が9つの支流に分かれて南シナ海へと注がれる。多様な生物が暮らし、養殖や農産物の育成に適した豊かな土地だ。しかしながら昨今、温暖化による海面上昇で塩害が発生し、これまで行われてきた稲作ができないエリアが出てきているという。雨季になると道路が冠水するなど、人々の暮らしにも大きな影響がおよび始めている。

「イタリアのベネツィアやオランダもメコンデルタと同じような水の街ですが、経済的に豊かだからこそ、有効な水害対策が可能です。私たちがメコンデルタの食資源を高付加価値化することによって、この地域の経済水準を向上させ、水とうまく共存できる地域づくりを可能にしたい」

同氏はメコンデルタ地域に対し、新潟との共通点も感じるという。
「新潟の豊かな海の幸、山の幸は、地元に多くの食品加工業を誕生させました。当社はそうした加工メーカーのおかげで今日があることを感謝すると同時に、その発展に貢献してきたという自負もあります。それと同じことが、メコンデルタでもできるのではないか。そう考えています」

食資源を高付加価値化する第一歩として、カントー大学とともに手がけているのが、エビの頭や殻を有効活用した調味料の開発だ。塩害によって稲作ができなくなった土地では、エビの養殖が盛んに行われ始めており、世界一ともいわれるエビの加工会社も誕生している。そこから大量に出るエビの頭や殻を、全量買い取ってビジネスを展開していた現地の起業家と知り合い、調味料への展開の後押しを提案したという。ベトナム現地の食品加工メーカーはもちろんのこと、「日本向けには、エビ味噌の風味を強調した調味料、焼きエビのロースト感を強調した調味料など、当社の科学的な知見によって、さらに付加価値を高めた商品を展開しています」と語る田中社長。日本、ベトナムにとどまらないグローバル展開も見据えているようだ。

 

特徴的なタケショーのオフィス。開発室や分析室は別であるものの、基本的にはワンフロアで社長を含む全社員が
働く。フリーアドレスで仕切りがないため、オフィスのいたるところで社員同士が活発に意見を交わている。

SDGsを意識せずとも、人々の幸福を願えばこそ

フードロス削減につながる賞味期限の延長技術や、メコンデルタ地域を守るためのビジネス創出、未利用資源の活用・アップサイクルなど、同社が行う事業活動の多くがSDGsの目標達成に寄与するものである。しかしながら、田中社長は「SDGsは大切な理念ですが、それを意識したというよりは、結果としてSDGsに紐づけられるような事業展開になったのです」と語る。

その言葉を裏づけるのが、2014年に打ち出した企業理念「食の花束」だ。この理念は、次の3項目からなっている。「1.社会から必要とされ、人々から共感され、そして世の中をよりよくする会社をめざします」「2.一人ひとりがかけがえのない“花の一輪”となり、互いに尊重し協力し合って、“食の花束”を創る会社をめざします」「3.お客様に、最高の“食の花束”をお届けすることを通じて、全ての社員が明るく豊かで幸せになる会社をめざします」。

SDGsとは「すべての人々にとってより良い、より持続可能な未来を築くための青写真」であるが、「食の花束」の考え方はSDGsを一企業に落とし込んだ理念だといえるだろう。特筆すべきは、国連でSDGsの目標が採択された2015年よりも前に、「食の花束」が制定されていること。SDGsが世の中に広まる前から同社では、サステナブルな社会実現に向けた持続可能な事業運営を目指していたのだ。

社員一人ひとりを花の一輪と考えるタケショーでは、社員を会社の発展に必要な「手段」だとは考えない。
「私たちのような中堅・中小企業こそ、人材を取り換え可能な手段だと捉えてはいけません。事業目的はあくまで、社員の成長と幸せ。何か迷ったら必ず人材優先で選択します」

近年は、こうした理念やスタンスに共感し、入社を希望する優秀な若手が増えているという。ベトナムで事業展開する上でも、この理念が大きな架け橋となった。カントー大学や現地政府機関、協業する多くの企業が賛同し、非常に積極的に力を貸してくれている。田中社長は「ベトナム事業を通じ、理念の持つ力を実感しているところです」と微笑む。

 

タケショーの社屋とオフィスには、「食の花束」のロゴが掲げられている。

自立した個が集まって生まれる全体の調和

田中社長は「自分が引退するまでに、人材の成長を目的とした経営を突き詰めたい。私は、禅やギリシャ哲学などで語られるような、“万物はすべて1つである”という考え方がSDGsの本質にあると思います。社員一人ひとりを尊重した上で、より意識したいのは、各社員が自分自身という一輪の花を隣にいる人に差し出して、助け合いながら1つの花束をつくり上げること。自立した個人から成る全体の調和こそが、すべての人たちの幸福につながると考えています」

SDGsを流行の1つと位置付けて上辺をなぞる企業が少なくない中で、タケショーはSDGs以前からその本質と合致する思想を経営に落とし込んでいた。社会に必要とされ、長く存続する企業とは……。その答えを、同社に見た気がする。

 

機関誌そだとう219号記事から転載

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