トレカン
~Treasure Company~

崩壊寸前の逆境を跳ね返した「温かさ」とは?

株式会社スリーハイ
株式会社スリーハイ
主な事業内容:
産業用・工業用ヒーターの製造、販売
本社所在地:
神奈川県横浜市
設立:
1990年
従業員数:
43名

2004年に川崎市から現在の横浜市に移動した本社社屋。

 

“情熱的な男”と名刺の裏にある。
「ご挨拶するときは、裏側から差し出すんですよ」と、代表取締役を務める男澤(おざわ)誠社長は快活に笑う。
スリーハイは、タンクや缶、排水管に巻いて使うことができる“シリコンラバーヒーター”を主力製品とするヒーター専門メーカーだ。薄くて曲げることができるシリコンラバーは応用範囲が広く、国内外問わずなんと7000社の顧客から高い支持を得ている。

追求した“非効率”で、真摯に向き合う

 

売上の9割は受注生産。顧客の要望に応じて、一つひとつオーダーメイドで製造している。温める用途は幅広く、工場ではポンプや配管などの凍結防止、飲食店では食品の保温用、さらに結露防止や治具・金型などの予熱と挙げればきりがない。

ヒーターのニーズは寒い場所に留まらず、暑い地域でも必要とする企業が多く存在する。今後は商社を通じて、タイやインドネシアに取引先を拡大する狙いだ。同社ではグローバル人材の育成を目的に、2019年からさまざまな国籍の留学生をインターンシップとして受け入れている。展示会では、海外からの問い合わせにインターンシップ生が英語で対応し、高い支持を得た。

 

同社の主力製品。ヒーターをはじめとする“熱”に関わるあらゆる商品の製造販売を行う。

オリジナル商品の「monoOne(モノワン)」シリーズ
(写真左)。保温・断熱性に優れたシリコンスポンジは、
シートやチューブなどさまざまなタイプがあり、用途に
合わせた加工が可能だ。

売上の3割を占めるのはECサイト経由。顧客の担当者も若い世代に変わっており、ネットで完結するやり方を好む。スリーハイも時代の流れに合わせ、2020年にECサイトを開設した。

「ただし、EC経由の問い合わせでも、企画設計段階から入り込み、一緒につくっていくのが当社のスタイル。オンラインで買っていただいたお客様には必ずヒアリングを行い、購入理由や不満がないかなどを聞くようにしています。場合によってはお客様を訪問し、実際に現場を見て製品提案をします。そこから取引拡大につながったことも多くあります。

私は“非効率”にこそ価値があると思っています。自動化を進めず手仕事を大切にして、お客様をこまめに回るのもそのためです。これは先代である父(利藏氏)から続く差別化戦略で、そのために必要なのは人材育成だと考えています。お客様と向き合う“人”こそが価値なのです」

もの・ひと・社会に思いを込めた3つのHigh

社名にもその思いが詰まっている。スリーハイとは「High-Technology」「High-Touch」「High-Fashion」の3つのHighに由来している。「High-Technology」は世界に通用する日本ならではの品質と技術、「High-Touch」は物・人を温めることのできる人間味あふれるスタッフ、「High-Fashion」は枠にとらわれない新しい製造業として地域・社会を豊かにすること。創業者の利藏氏が定め、男澤社長はそれを継承してきた。

その後、同氏はリブランディングを実施。ロゴを一新するとともに、「ものを想う。ひとを想う。」というミッションを新たに策定した。これほど父の思いを受け継いできた男澤社長だが、当初は事業承継する気などまるでなかったという。
「大学生の頃、父が疲れ切って帰宅し、風呂から出た裸のままで寝ている姿を見て、自分は安定した大企業のサラリーマンになりたい、継ぐのはごめんだと強く思いました」

1992年には希望通り通信設備工事大手の日本コムシスに入社、システムエンジニアとして働き始めた。当時は携帯電話の草創期で、同氏はネットワーク管理者として活躍したという。
「毎日サーバルームに籠もって、パソコン相手に仕事しているのが楽しくてたまらなかった。当時は人と話すのが苦手でした」

ところが、あるとき利藏氏の主治医から電話があり、「状態が悪く、すぐにでも入院し、治療を行う必要がある」と告げられた。
「医者の前で『仕事に戻る』とごねる父を説き伏せ、社員を呼んで状況を説明し入院させました。その時つくづく自分はサラリーマンでよかった、経営者は地獄だと感じました」

その後、入退院を繰り返した利藏氏は徐々に快復し、男澤社長に「後を任せたい」と何度も迫った。同氏は悩んだ末に2000年、31歳で同社に入社を決意した。当時の社員数は3名で、皆ベテラン揃い。電気部品や小型モーターを主に製造しており、ヒーターはその一部だった。

「給料は下がるし、一番年齢が近い社員は55歳で話も合わない。嫌々仕事しながら、やることもないので、パソコンを買い込み、帳票類のデジタル化やネットワーク環境づくりをしていたんです。そうしたら、父が『余計なことをするんじゃない』と怒るので、ますますやる気がなくなっちゃいました」

社員と仕入れ先を大切にする先代の教え

ある日、男澤社長は新聞報道で主要顧客が倒産したことを知る。当時は取引先も少なく、その会社に売上の7割~8割近くを依存していた。手形も1000万円近くあり、倒産の2文字がよぎった。
「父は驚いてあたふたと対応していました。私は父からクレジットカードのキャッシングでカネをつくれと言われる始末で、倒産を考えました」

1年以上自分の給料も入ってこない日々が続き、ここまでして継がないといけないのかと何度も考えたという。そうした思いが、態度や姿勢に出てしまっていた。
「ものづくりも苦手でダラダラ仕事をやっている私に父はしびれを切らして『いい加減、大企業の看板を降ろせ』と言ったのです。前職に環境を近づけようとしている私にあきれたのだと思います。そこでハッと目が覚めました」

幸い、銀行の融資と仕入れ先の協力もあり、乗り切ることができた。ただ先代の利藏氏は、経営危機の中でも決して社員の給料を減らすことはしなかった。
「どんなことがあっても一緒に働く仲間の給料は決して減らしてはいけない、それが父の考えでした。今思うと父の対応がなければ、社員はみんな辞めていたと思います」

こうした先代の“温かさ”も、経営を立て直した大きい要因となったに違いない。さらに利藏氏は、仕入れ先への感謝を欠かさなかった。
「『私たちはただヒーターを売っているのではない。仕入れ先の思いや技術が重なり、お客様は評価してくれているのだ』、父は私によくそう話していました」
顧客に留まらず、社員と仕入れ先を大切にする利藏氏の思いが受け継がれ、“人を価値と思う”男澤社長の経営哲学につながっているのだろう。

倒産の危機に直面していた当時、何か自分ができることはないかと考えた男澤社長がまず手がけたのは、ホームページづくりだ。すると開設してまもなく「ヒーターがほしい」という問い合わせが急増。ヒーターに特化し、取引先を増やそうと親子で話し合い、同氏は客先を回った。父から見よう見まねで営業法を覚え、引き合いのあった大日本印刷に1人で訪れたところ、ベテランの担当者があれこれと教えてくれたのだ。

「『まず、プレゼンしてみろ』といわれたのですが、当時の私は自社の強みも商品の特長も知らず、顧客にどんな価値を提供できるかほとんど話せませんでした。『また出直してこい』というので、改めて強みや特長を箇条書きにして持って行くと、『ただ紙を読み上げるだけじゃダメだ。もっと情熱を持って話せ。人の心を動かすのは情熱だ。プレゼンは相手へのプレゼントだ』と言われて、目からウロコが落ちました」

結局、3カ月で7回ほど通い、最後に提案書を出すと、「よし買おう」と担当者は購入を決意。10万円ほどの契約だったが、男澤社長にとっては彼が初めての自分の顧客であり、営業のイロハを教えてくれた師となった。この出会いをきっかけに、同氏は自分の営業スタイルを確立していったのである。

2009年に社長に就任したが、運悪くリーマン・ショックで売上の1割が飛んだ。従業員の一部を解雇、残りの社員にはワークシェアリング導入を勧めたが、不安に思った数人が辞めていった。
「このとき本気で従業員満足を考え、新たにミッション(前述)を策定しました。従業員だけでなく顧客、取引先、地域の人たちに温まってもらう会社になろうと決めたのです」

現在、43人まで拡大した社員やパートの定着率は高く、社員からは「社内の雰囲気がよく、社長との距離も近いので居心地がいい」という声が上がる。2013年からは近隣小学校の児童たちが地域の町工場を訪ね、話を聞く「こどもまち探検」の取り組みを開始。
「大企業ばかりが会社じゃない。子どもたちには、中小企業の熱意を知ってほしい」
取り組みをはじめた理由を尋ねると、男澤社長はこう答えた。

 

昨年10周年を迎えた「こどもまち探検」の様子。2013年から毎年、
近隣の小学生を招いて工場見学や職場体験を実施している。

このほか、ダイバーシティ経営の推進で女性の採用にも力を入れ(従業員の7割が女性)、障がい者雇用も行っている。こうした取り組みが評価され、今年3月に「日本でいちばん大切にしたい会社」審査委員会特別賞を受賞した。父と師に教えられた情熱の大切さが、男澤社長とスリーハイを育て上げたのだろう。

 

同社が2017年にオープンした工場カフェ「DEN」
にて。
地域の人たちにとっても、ものづくりを
間近に見られる
交流の場になっているという。

 

機関誌そだとう219号記事から転載

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