SBIC’s Column

メンタルヘルス対策は、会社で抱え込まない

昨今、社員の“心の健康”は見過ごせない課題になっている。企業としてどう向き合っていくべきか、
「人々の心を助けたい」という思いを掲げ産業カウンセリング事業を行う、株式会社Eパートナーの佐久間万夫社長に話を聞いた。

 

株式会社Eパートナー
代表取締役社長 佐久間万夫
1949年愛知県生まれ。
東京大学卒業後、東海銀行、
JPモルガン等を経て、
2000年にEAP会社を起業。発展的な形で、
2008年に株式会社Eパートナーを創業した。

「中堅・中小企業は大手企業に比べると、限られた社員数で事業の継続・発展を実現していかなければなりません。だからこそ、一人ひとりのメンタルヘルス不調対策にしっかり取り組む時代ですね」
こう語るのは“EAPサービス”を提供しているEパートナーの佐久間万夫社長だ。EAPとは、メンタルヘルス不調の社員を支援するプログラムのことで、同社は大手から中堅・中小まで730社超の企業にサービスを提供している。

「ケガや育休とは異なり、メンタルヘルス不調はいつ治るか見通しを立てづらいため、新たに人を雇うべきか判断しにくいという難しさがある。他方、採用を先延ばしにしていると他の社員に負担が増えて、モチベーション低下や新たなメンタルヘルス不調へつながる危険性もあります」

昨今は深刻な人手不足で、採用の難易度が上がっている。特に中堅・中小企業の場合、1人の社員が休職、退職することは組織に与える影響が非常に大きいわけだ。加えて、「健康経営」や「人的資本経営」が注目を集めており、メンタルヘルス不調対策を講じているかどうかは、求職者が会社を選ぶ材料にもなっている。

また、内閣府の調査によると、年収約600万円の社員が6カ月休職した場合、企業が負担するコストは周囲の社員に支払う残業代なども含めると、422万円にものぼるという。メンタルヘルス不調への対策は、リテンションや経営面からも早急に取り組むべきテーマといえるわけだ。

そのことはデータでも裏づけられている。厚生労働省が実施した「令和4年 労働安全衛生調査」によると、過去1年間にメンタルヘルスの不調により、連続1カ月以上休業、または退職した労働者がいた事業所の割合が、前年の10.1%から13.3%に増加。仕事や職業生活に関することで強い不安、悩み、ストレスを感じている労働者の割合は前年53.3%から82.2%に急増している。

「ビジネスの多様化にともない、仕事がどんどん複雑化しています。特に、中間管理職はプレイングマネジャーとして自ら責任ある業務を担当しつつ、部下の指導もしなければなりません。しかし、上司と部下の関係は年々希薄化しており、ハラスメント問題もあって気軽に声をかけづらい雰囲気も生まれています」

さらに、「家庭でも生活に余裕のない人が少なくない」と佐久間社長は指摘する。晩婚化が進んで50代になっても子どもの教育費から解放されず、親の介護問題までもが重なってしまう。まさに、あらゆる場面でメンタルヘルス不調の原因にさらされているのが、現代の労働者なのだ。

安心できる環境で、カウンセリングを行う

オフィスにある面談室は、芝公園が一望でき落ち着いて話ができる

では、どのようにメンタルヘルス不調に対策を講じればいいのだろうか。同氏は、「対象者が安心して話せる空間づくり」が重要だという。

「社内のカウンセリングルームを訪れることは、メンタルに不調を抱えている人にとっては思っている以上にハードルが高いものです。休職している人なら、なおさらです。メンタル不調の原因が会社にある人が、電車に乗って会社まで足を運ぶことはストレス以外の何物でもありません。最寄り駅から社屋を見ただけで気持ちが乱れて帰宅した、という方もいらっしゃったくらいです」

そのため、本人の自宅近くや馴染みのある場所までカウンセラーが出張し、社員がリラックスして話をするのが有効だという。他の客がいるような場所では、落ち着いて話せないのではと思うかもしれない。しかし、「カウンセリングを提供した対象者にアンケート調査を行ってきたが、安心できる環境であれば、意外と周りは気にならない」と佐久間社長はいう。

「座席同士が離れている、ゆったりとしたシティホテルなどを選べば問題ありません。大切なのは、できるだけストレスがない環境で、専門知識のあるカウンセラーが定期的・継続的に相談にのることなのです」

メンタルヘルス不調は、再発の可能性が非常に高い病でもある。その理由は、本人が「同僚に迷惑をかけている」「早く仕事に戻らなければ」といった焦りから無理して復職を願い出てしまうことが大きいそうだ。
「それを防止するためにも、第三者的立場のカウンセラーが定期的に経過を観察し、再発の不安がないかを見極めることが重要になります。服薬状況、睡眠時間、日中の活動量などを確認し、総合的に判断しなければなりません」

とはいえ、一度休職にまで追い込まれると回復には時間がかかってしまう。そこで、精神的に限界がきてしまう前にカウンセリングを受けてもらい、メンタルヘルス不調を“予防”することが何よりも大切になる。

「カウンセリングという言葉に抵抗感を覚える人もいるでしょうから、元気に仕事をするための“コンディショニング”の1つだと思って気軽に活用してほしいです。それが自分を守ることにもなります」

 

機関誌そだとう219号記事から転載

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