中小企業白書から読み解く経営のヒント

人手不足解消のヒント
「女性・シニア活用のすすめ」

中小企業庁 事業環境部 企画課調査室 調査係長 江場教智
(2018年4月より当社から出向中)

 

2018年版『中小企業白書』のキーワードは「人手不足」です。前回は、中小企業の業況とその一方で深刻化する人手不足、その対処方法の一つである「設備投資」について解説いたしました。今回は、人手不足への別の対処方法として挙げられる「女性・シニア等の活用」について解説していきたいと思います。

より強まる人手不足感 大卒予定者の採用環境も悪化

中小企業における人手不足感は年々強まる一方ですが、企業規模別ではどのような違いがあるのか見てみましょう。図1は企業を製造業・非製造業に分け、さらに従業員の規模別で見た人材の未充足率に関する調査データです。ここからは、規模の小さい企業ほど、人材の未充足率は高くなる傾向が読み取れます。

図2は大卒予定者の求人倍率を従業員規模別に比較したデータです。2017年度は、従業員300人以上の企業では前年度から低下しているのに対し、同299人以下の企業では、4.2倍から6.4倍と大きく跳ね上がっており、大卒予定者の採用環境が悪化していることが読み取れます。従業員規模が小さい企業ほど人手不足が顕著となっていることが推察されますが、この人手不足という課題を解消するポイントはどこにあるのでしょうか。

潜在的労働力 女性やシニアを掘り起こす

一つのヒントとして、女性やシニアといった潜在的な労働力を掘り起こし、その活用を図ることが挙げられます。
図3は、働くことを希望しながら、仕事を探していない女性への調査データです。年代別でバラつきはあるものの、25歳から64歳では、「勤務時間・賃金などが希望にあう仕事がありそうにない」という理由で、就労意欲を持ちながら仕事すら探していないという女性が多数いることがわかります。

また、シニア層(60歳以上)の完全失業者が仕事に就けない理由に関する調査データ図4では、求人の年齢が自分と合わないという理由により、就労意欲のある人材がその機会を逸してしまっていることが見て取れます。

活用成功のカギは 働きやすい職場づくり

女性やシニアといった層には就労意欲がある一方、これらの人材を企業側が活用しきれていないミスマッチが生じていることが推察されます。では、実際に活用を積極化している企業がどのような取り組みを行っているかを見ていきましょう。
図5は女性・シニアを活用する企業の職場環境の整備の取り組み内容に関する調査データです。「勤務時間の柔軟化」「職場環境・人間関係の配慮」について取り組んでいるという回答が多くなっていることが見て取れます。つまり、女性やシニアといった層を活用するためには、「働きやすい職場」をつくることが重要といえるのではないでしょうか。

シニア限定、土日祭だけ勤務 中小企業の成功事例

㈱加藤製作所(岐阜県、従業員107名、プレス板金加工業)では、「土日祭日だけの短時間勤務」でシニア人材を活用することを発案し、「土曜・日曜は、わしらのウイークデイ。」「意欲のある人求めます。男女問わず。ただし年齢制限あり、60歳以上の方。」というユニークなキャッチコピーの求人広告を打ち、シニア人材の採用に成功しました(図6)。
この取り組みを始めて15年以上経った現在では、短時間勤務のシニア人材が54名以上と、従業員の約半分を占めるまでとなり、平日も勤務する方が増えるなど、ますます活躍の場が広がっています。その分、若手には、将来のビジネスを考える仕事や開発業務、管理業務等を担当させることが可能になるなどの効果が生まれているようです。

さらに進む人手不足 職場環境の工夫こそ突破口

わが国の生産年齢人口(15歳から64歳)は1995年の約8700万人をピークに減少に転じており、2015年には約7700万人まで減少し、2060年には約4800万人と、2015年の約6割の水準まで減少してしまうと推計されています
置かれた経営状況は異なると思いますが、深まる人手不足のなかで、女性やシニアといった潜在的な労働力にも着目し、その働き方や労働環境の工夫を行うことが、改善への突破口となるのではないでしょうか。
※総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」(平成29年推計)より

機関誌そだとう197号から転載

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