誇りと責任を胸に、社会へコミットメント
- 主な事業内容:
- 産業廃棄物の収集運搬および中間処理、再生重油の製造・販売、エマルジョン燃料の製造・販売、コンクリート剥離剤の製造・販売、メンテナンス事業
- 本社所在地:
- 千葉県八千代市
- 創業:
- 1950年
- 従業員数:
- 101人
「SDGsの実装は、経営そのもの。私たちは何のために、誰のために仕事をしているのかを明確にすることは、まさにSDGsの考え方とイコールなのです」
そう話すのは、千葉県八千代市で産業廃棄物収集運搬と中間処理事業などを手がける、TOAシブルの安池慎一郎社長だ。創業時から積み重ねてきた、同社が誇る廃棄物の再資源化技術は、時代の流れとともに今、社会からの注目を一段と浴びている。
工場内は、BWFやエマルジョン燃料を生成する
施設、焼却処理をする設備、研究開発棟など、
さまざまなセクションに分かれて運営されている。
戦後間もない1950年、創業者が東京・上野で1台のリヤカーを引き、廃油を集めて燃料として売り始めたのが、TOAシブルの原点だ。そこから資源の有効活用と高品質製品の生産を目指し、再生潤滑油や、変圧器などに用いられる絶縁油をベースにしたコンクリート剥離剤などの生産技術を開発して、廃油再生事業を少しずつ拡大。同社オリジナルのコンクリート剥離剤「サムテック」は、環境保全関連の賞をいち早く受賞した。
日本が右肩上がりで経済成長を続ける中、大量生産・大量消費の時代が訪れるとともに、TOAシブルの技術革新はさらに加速する。2009年には、これまで焼却処理するしかなかった廃インキや廃塗料などの油性廃棄物を、「バイオマス廃棄物燃料(以下、BWF)」としてリサイクルする技術を確立。これにより石炭や石油など化石燃料の消費を抑制し、CO2削減に大きく貢献している。
この技術開発の裏には、1972年のロンドン条約発令があった。同条約は、陸上発生廃棄物の海洋投棄や、洋上での焼却処分などを規制するもの。これにより多くのメーカーが、製造過程で出る廃棄物の処理に頭を悩ませた。その中の1社である製紙工場が、これまで埋め立て処分をしていた「スラッジ」と呼ばれる残渣の処分に困り、TOAシブルへと相談を持ちかけた。
「頭を悩ませ、化学実験を何度も繰り返しました。試行錯誤する中で、私たちはスラッジがもともとパルプで、乾燥させると吸着性があることに注目したのです。そこで、高カロリーの廃棄物を含浸(吸着)させて、ようやく燃料化に成功しました。それが、BWFの原型です」
多種多様な廃棄物が発生する中で、社会に要請される「リサイクル」や「ゼロミッション」へ応えなければならないメーカーは、こうしたTOAシブルの技術を頼りにしたという。
「私が営業担当だった頃、取引先の工場へ伺うと、工場長が直々に出迎え、見送りまでしてくれました。それだけ私たちは、メーカーにとって欠かせない存在だったのでしょう」
現在では、BWF技術を応用したエマルジョン燃料の生産技術を有し、各セクションで出た残渣や焼却後の燃え殻まで、社内で完全にリサイクルできる体制だ。廃棄物の99%を燃料化できる、他に類を見ない技術の数々は、TOAシブルが続けてきた努力の結晶である。
廃油には多くの不純物が含まれているため、人の手で丁寧に濾していく。
社員と地域を第一に。率先して最先端に取り組む
創業から現在に至るまで、同社の事業そのものがサステナビリティの文脈に合致している。“SDGs”をあえて叫ばずとも、すでに社会へ大きく貢献しているTOAシブルだが、「私たちの業界こそSDGsを掲げて、資源循環型社会の基盤を構築しなければならない」と、安池社長は強調する。
天然資源などを加工して、製品を生み出すメーカーを「動脈産業」と定義した場合、その過程で出た廃棄物を再生し、再び社会に流通させるTOAシブルのような事業は「静脈産業」といえる。一見、後者は裏方のように思えるが、その実、この2つに優劣はなく、どちらも機能して初めて、社会という命は保たれるのだ。ここに安池社長は誇りと責任を抱き、「産業廃棄物処理を手がける私たちだからこそ、率先して最先端のSDGsに取り組むべき」と考える。
その使命感のもと、業界を牽引する企業となるべく、自身が社長に就任した2018年から、社内外に向け、さまざまな取り組みを実施してきた。まずは社内環境の整備から。有給休暇を1時間単位で取得できるようにしたり、フレックス制を導入したり、現場社員の完全週休2日制を導入したりと、産業廃棄物処理業界では珍しい施策を次々と実践。他にも定年年齢を65歳までに引き上げ、健康経営を掲げて定期的なストレスチェック、産業医面談の実施、スポーツクラブとの連携、社内で「モルック」と呼ばれるスポーツ大会の実施など、社員の健康意識の向上につながる取り組みは多岐にわたる。
本社屋の屋上は緑化され、上から見るとタイルが「TOA」の文字に
なっている(写真左)。ここで行われる「モルック」大会では、
部署やプロジェクトごとにチームで、白熱した戦いが繰り広げられる。
これらは、SDGs17の目標における、「3すべての人に健康と福祉を」「17パートナーシップで目標を達成しよう」などに当てはまる動きだ。
「いくら社会に価値ある事業を展開しようとしても、ステークホルダーの理解なしには、何も達成できません。社員をもっとも近しいステークホルダーと考え、まずは気持ちよく働ける環境づくりを目指しました」
きつい、汚い、危険の「3K」とイメージされがちな産業廃棄物処理の現場で働く社員に向けても、安全設備の導入、工場内温度の管理や更衣室の新設、敷地内や屋上の緑化など、環境改善に尽力している。
加えて、地域住民も同様に大切なステークホルダーであると考え、同じ場所で日々を過ごす一員として会社は何をすべきかを常に考え、行動に落とし込む。その一環として近隣の小中学校を対象に、環境教育を提案し、実施し始めた。また、最近は社員が講師となり、SDGsカードゲームで楽しい学びを提供。SDGsのゴール達成に向けた活動を、社外にも積極的に展開している。
情報発信で業界に変革を! 負のイメージを払拭したい
ここまで徹底的に、新たな施策へ注力してきたのは、安池社長自身が産業廃棄物業界で感じた、苦い経験が背景にある。それは30年以上前、事業拡大に必要な「住民同意」を得る仕事をしたときのことだ。工場から半径200メートルの範囲にある住居を、1軒1軒を訪ねたという。
産業廃棄物処理業界を変えるという
信念と、SDGsに対する強い信念を
笑顔で語る安池慎一郎社長。
「チャイムを押して玄関が開くや否や、怒鳴られました。『お前のところの煙が!』とか、『振動をなんとかしろ!』とか。もしかしたら、迷惑をかけてしまっていたかもしれない。けれども、当社が悪くないことまで、責められてしまった。当時、産業廃棄物といえば、悪徳業者の報道が多かったため、負のイメージが形成されていたのでしょう。社会に貢献する良い仕事をしているはずなのに、なぜ、こんなレッテルを貼られるのかと悲しくなりました。それに仕事を聞かれたとき、胸を張って答えられない自分もいたのです。これからずっと続ける仕事に負い目を感じて隠すなんて、嫌だと思いましたし、他の社員にもそんな気持ちを抱かせたくないと考えました」
その頃から一途に抱き続けてきた、「業界のイメージを変えたい」という強い思い。熱心な取り組みの根底には、こうした信念があるのだ。
同氏がSDGsについて学んで痛感したのは、企業理念から見直さなければ、一貫性を保てないということ。持続可能な未来を築くための青写真を実装するためには、自社が目指す未来を明確にし、そこに向けて何をするのかをはっきりと示さなければならない。そのため、ミッション、ビジョン、バリュー、クレドを刷新するとともに、2023年には東亜オイル興業所だった社名を変更。会社のロゴやビジュアルイメージも、すべて新たに作成した。業界ではあまり例がない広報室も設置し、社内外への情報発信に取り組んでいる。
工場内には研究開発棟があり、ここでTOAシブル
に持ち込まれた廃棄物の成分解析などを行う。
「社内報などで、まずは内部に情報共有できる仕組みをつくりました。社外向けにはSNSやYouTubeなどを活用。会社の外に情報を発信するようになると、自然と自分たちの見られ方に気を使います。それがポイントです。内向きの施策ばかりでは、社員も上司の反応しか見ないようになる。でも、私たちの仕事はお客様や社会のためにあるのです。情報発信によって、外に目を向ける意識づけを行っています」
当初、安池社長が旗を振るさまざまな取り組みには、懐疑的な社員も多かったという。しかし、トップ自らの口で熱意を伝え続けることで、風向きが変わってきた。
「取引先や地域の皆様から、会社の雰囲気が良くなったといわれるようになりました。産業廃棄物処理というと、男性のイメージがあるのも事実で、私はそこも変えたい。女性が働きやすく、参画したいと思うかどうかは、業界のイメージを判断する、1つのバロメーターになるからです」
未来を担う子どもたちに、かっこいいと思ってもらう
同社は、2024年で創業74年目を迎える。100年企業を目指し、これからのチャレンジとして安池社長が考えているのは、さらなる事業拡大と技術革新だ。
「現在は関東を軸に事業を展開していますが、全国規模まで広げたい。世の中がどんどん変わっていく中で、事業には必ず転換期が訪れます。そのときに何ができるのかを見据えて、私たちは技術を磨き続けなければいけません。独立した開発組織を持つことも、経営の次なるテーマです。2025年からは新卒採用も始めるべく、準備を進めています。まずは既存社員の質をさらに上げて、SDGsにも真摯に取り組んでいく。そして、それに共感する優秀な学生に入社してもらいたい。若い世代が『この会社に入って良かった』と思ってくれるような、環境づくりも欠かせません。
SDGsに資する取り組みの一環として、生物多様性を高める
ため、運輸車庫にはビオトープや養蜂ファームを備える。
今、取り組んでいるすべてのことが、会社の成長につながるのです。私の願いは、産業廃棄物処理業界を、そしてTOAシブルを、子どもたちにかっこいいと思ってもらえる仕事、選んでもらえる会社にすること。近年は、学校教育で当たり前のようにSDGsを学んでいますから、そういう意味でも当社がSDGsに取り組む意義があるのです」
持続可能な社会を循環させるために、欠かせない廃棄物の再資源化。事業として、今後ますます需要が増すことは間違いない。その波に乗っかって、単純に利益を追い求めることもできる。しかし、それでは社会の一員としての責任は果たせないだろう。自社のみならず、業界、ひいては社会全体の利益にコミットメントするとき、本当の意味で社会に必要な企業と認められるのだ。TOAシブルが目指す未来は、そこにある。
機関誌そだとう217号記事から転載