真の「ダイバーシティ」で、進化する超・組織

多様な社員の課題解決こそ、最先端への道

~50人50通りの特例を認めても、安心できる環境とは?~

CASE①株式会社オンザウェイ

 

「33年前に起業したときから、多様性のある会社にしたいという思いがありました」と、オンザウェイの野中元樹社長は語る。しかし、当時は20代の社員が5人と野中社長の6人。「クラブ活動のような会社」だったと笑顔で振り返る。

 

野中元樹社長

株式会社オンザウェイ
主な事業内容:
無線機とAIカメラの販売・リース・レンタルおよびサポート、オフィスと現場用品の通販、無線機アクセサリの企画開発
本社所在地:
東京都町田市
創業:
1991年
従業員数:
50人

同社は、主に無線機のレンタルやリースの事業を行う。短期のレンタルは夏フェスや国際学会、株主総会、マラソン大会など、大小さまざまなイベントに使われている。近年では、さまざまなスポーツの国際大会などでも、多くの無線機が活用された。
「先日は、工場見学に250台も納品しました。見学者につけてもらうと、場所が離れていても、工場内の音がうるさくても、説明をしっかりと聞きやすいのです」

長期で契約するリースは、警備会社、ホテル、映画館、介護施設などにおけるスタッフ間の指示・連絡用として使われている。1対1のコミュニケーションに向いている携帯電話と異なり、一度でチーム全体に情報を共有する際、無線機は便利なツールだ。オンザウェイと取引のある顧客は、全国に約1万5000事業所にものぼるという。
同社のサービスは、メンテナンスサポートが含まれた契約という点が特徴的だ。無線機に不具合や故障があった場合は送ってもらい、そのほとんどを社内でメンテナンスする。
「創業当初は販売を主体としていましたが、携帯電話の普及にともなう需要減少を受けて、レンタル事業に転換しました。しかし無線機自体は、差別化の難しい製品です。だから、何かが突出して優れているというわけではありません。当社の強みは、細かいニーズに気がつき、全体的にちょっとしたプラスαがあることだと思います。販売だけなら売って終わりですが、私たちは顧客に合った無線機を提案して、他社が嫌がるメンテナンスまで引き受ける。手間のかかる、面倒くさいことにしっかりと取り組んでいる点を、支持していただいているんです」

そうしたきめ細かなサービスを生み出してきた要因の1つとして、同社の多様な組織体制が挙げられる。現在、オンザウェイの男女比率は1:2の割合で、圧倒的に女性が多い。しかし野中社長は、「決して、女性活躍を目指してきたわけではない」と強調する。

6人で始めた会社が成長していくにつれ、さまざまな働き方をする多様な属性の仲間が増えていったのだ。女性、外国人、シニアといった人材が増えていき、新卒で入社した社員も長い社歴の中で、結婚、出産、子育てを経験していく。特に本社を置く町田という立地もあり、周辺に住む女性の割合が高くなった。
「会社を設立して33年経ち、やっと自分がイメージしていたダイバーシティが実現しつつあります。年齢層が幅広くて、さまざまな人がともに働く職場をつくりたかったんです」

今でこそ、同社では誰でも働きやすいことが魅力の1つとなっているが、そうした環境が最初から整っていたわけではない。すべて後追いで苦しまぎれに、ある意味でやむを得なかった対策だと野中社長は微笑む。
「入社してくれた人が困っていれば、それが会社の課題になります。例えば働き方1つで、その人との縁が切れてしまうのは非常にもったいない。だから困っている内容に合わせて、常に組織や仕組みを変えてきたという感じです。そうして多様な働き方を認めてきたことで、社員ひいては会社の姿勢や思考が柔軟になって、結果として事業が広がり成長してきた実感があります」

 

(写真左)無線機について豊富な知識と経験を持ったシニア人材がいるからこそ、幅広い顧客のニーズに応えることができる
(写真右)「おしゃべりランチ」で囲む円卓は、まだ6人だった創業時に、マンションの一室を借りたオフィスで使っていたもの。
今では多様な仲間が集い、当時の理想を実現する

社員の新たな働き方が、商圏拡大へとつながる

最初に訪れた変革は1999年のこと。新卒で入社して結婚、出産した1人の女性社員がきっかけだ。当時はトラックやタクシーに取り付ける無線機の販売を主としていて、取り付け作業を兼ねた訪問営業が必須だった。ところが、ハンディータイプの無線機が主流になると、取り付け作業は不要となり、通信販売ができるようになる。ちょうどその頃、出産を経た女性社員が職場復帰した。
「彼女は営業職に向いている人材なのですが、子どもがいるから従来のような外回りはできないという。だったら、これまでやったことはないけれど、ファックスと電話を使って社内から営業をしようか、という話になりました。私としては社員が働き続けられることが、優先順位として一番上にあったので、そういう道を選んだわけです。すると、これが時代の流れに合致して、全国へと商圏が広がっていきました」

その女性社員がその後、再び出産・育休を経て、職場に復帰したことで、社内の女性たちは、「自分も出産した後、ここで働き続けられるんだ」という感覚を得たという。今ではフルタイムとパートタイム以外に、その中間に位置するハーフタイム、1年間のうち期間を定めて働くシーズンタイムといった勤務形態も選べる。出産後、子どもの成長に合わせて1日3時間勤務からスタートし、4時間、5時間と増やしていった例もあるそうだ。急に子どもの体調が崩れれば在宅勤務に切り替えたり、作家や飲食店経営など別の夢を追いながら仕事をしたり、社員の状況に応じて、勤務時間や働き方の希望にも柔軟に対応している。

なかには、アメリカからのリモートワークを認められている事例もある。執行役員の飯尾氏だ。
「夫のアメリカ赴任が決まり、それに同行することにしました。しかし、まさかこんな働き方ができるとは、思ってもみなかったです」

働き方や働く場所の制限を減らすことで、人材が定着しやすくなっているのは間違いない。また、こうした取り組みが、会社への帰属意識を高め、ひいては良い社内風土をつくっていると野中社長は語る。
「女性活躍という文脈ではなく、すべての社員と向き合ってさまざまな働き方を認めてきたので、社員は子育てや親の介護などで何か悩みを抱えたとき、まずは会社に相談してみようと思ってくれているようです。これが、いってもムダだから辞めるとなってしまうと、話し合うことすらできません。制度や評価、給料などの面で対応しなくてはならないことも増えて、会社としては大変な部分もありますが、そこを叶えていく姿勢は貫きたいのです」

 

女性を中心としたプロジェクトチームが企画、開発した「シーバーポーチ」(写真右
べルトにクリップで固定する仕様の無線機でも、ベルトをしない女性や、看護師が使いやすいようにと考案された

ポジティブな雰囲気は、“お互いさま”の精神で

オンザウェイの特徴的な部分は、こうした働き方を制度化しているわけではなく、あくまでも個々に特例で認めている点だ。
「社員みんなで互いの多様性を認めて、会社をつくっていきたいという思いを実現するために、オーダーメイドの働き方を認めています。制度化したところで、すべての人がそれに当てはまる働き方をできるわけではないですからね」

他方、特例を認めることで、逆差別や僻みといったハレーションが起こることも考えられる。しかし同社では、そういった問題が起きていない。そのポジティブな雰囲気は、野中社長が創業時から掲げる経営理念「共に育つ」がつくり上げるものだ。
「私は『育てる』という言葉がしっくりこなくて、自分も成長したいから、みんなで一緒に育とうという気持ちでやってきました。それが社員の間にも醸成されているから、何とかやってこられているのでしょう」

多かれ少なかれ、全員が何かしら特例を許されているという状況で、それは社員同士の助け合いによって成り立っているという思い。これがあるから、自分ができるときには他の人をカバーする“お互いさま”の文化ができている。

こうした精神を醸成するには、社員同士で相手の顔を見て、少しでも互いの事情をわかり合えるようにする必要があるだろう。そのためにオンザウェイでは、部署を超えたコミュニケーションを取る機会を意識的につくる。毎日、朝礼を欠かさず行い、相互の状況把握に努め、場合によってはチームを超えてヘルプに向かう。

また、毎月配られる社員の給料袋には、野中社長の手書きメッセージが入っている。
「私が営業としてお客様を訪問していた頃、先方担当者の『うちの社長は何を考えているのかわからない』とか、『会社がこの先どうなるのかわからない』という愚痴をよく聞いていました。だから、自分の考えや会社をどうしていきたいのかを、少しでも社員のみんなに伝えたいと思って始めたんです。もう25年間、毎月自分の思いなどを文章にしているから、いろいろと相談しやすい環境にもつながっているのかもしれません」

 

(写真左)オンザウェイでは和気あいあいとした雰囲気で、互いにコミュニケーションをとりながら、日々の業務を進めている
(写真右)野中社長は毎月、社員への手書きメッセージを欠かさない

自主性に委ねてこそ、マインドがついてくる

これらの取り組みを女性活躍推進という面で見ると、出産後に職場復帰するロールモデルがいて、育児をしながら時短勤務が選べて、急な在宅勤務も可能で、子どもの行事で休むことも申告しやすい。何よりトップの考えが浸透しており、会社全体として、それを認める雰囲気がある。ここまで環境が整っていれば、一人ひとりの活躍できる機会が自ずとできるのだ。これを実現する社風について、執行役員の増田氏は次のように語る。
「他社でも自由な働き方を推奨する制度はあると思いますが、社内の雰囲気を考えると実際には活用しにくいという場合もあるようです。当社の場合は、急に休んだり在宅勤務になったりしても、本当に嫌な顔をされない。そのことで当たりが強くなったり、ポジションを外されたりすることもないという安心感を、社員全員が肌で感じている。それが、とても大事なことなんです」

みんな笑顔で互いに助け合い、「共に育つ」仲間たち

一方で、精神的なつながりだけでなく、急な休みや在宅勤務であいた穴を埋めるには、日頃の情報共有が必要だ。そのためにオンザウェイでは、顧客管理システムを独自に構築したほか、これまで1人でやっていた属人的な仕事を潰す方針で、さまざまな業務に対して2人体制を組むことを推進している。ただ、これらも会社主導で“やらされている”のではなく、現場でそれぞれが工夫しながら「共に育つ」環境を自主的に考え、整えているのだ。

「助け合いに関しては、マインドだけでやっている部分が大きいです。自分にもできるから手を貸すのではなく、何ができるかわからなくても『何か手伝うことある?』と声をかけ合っています。会社側が仕組みを整えて強制的にやらせたとしても、マインドはついてこないでしょう。それでは意味がありません。そうして誰かに助けてもらった経験があれば、今度は自分も誰かを助けたいと思う。それが、文化になります」と、執行役員の照屋氏は話す。

同社では、ブラジル籍や中国籍の社員もチームリーダーを務めるなど活躍中で、メンテナンスチームを中心にシニアも活躍している。さまざまな人が入社すれば、それにともなって課題も集まり、会社が時代に合わせて変化していく。こうした「共に育つ」組織を全社的につくり続けていくことが、事業にも好影響をもたらしているのだ。

 

 

機関誌そだとう217号記事から転載

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