真の「ダイバーシティ」で、進化する超・組織

持続的な成長を描く、「D&I」のチカラ

~会社をフルーツバスケットではなく、ミックスジュースに~

総論 株式会社クオリア 代表取締役社長 荒金雅子さん

 

組織における「ダイバーシティ」という言葉に、もう陳腐化している印象を抱くビジネスパーソンは少なくないだろう。これは多様な属性、価値観を持った人材を受け入れる考え方である。しかし、「それだけでは不十分」だと警鐘を鳴らすのは、組織活性化のコンサルティングを手がける、クオリアの荒金雅子社長だ。
「本当の意味でダイバーシティ経営を成功させるには、『インクルージョン』の考え方が欠かせません。フルーツに例えると、リンゴやバナナ、メロンなど、さまざまな果物がバスケットに入っているだけの状態がダイバーシティ。この果物それぞれの持ち味を活かして、より価値のあるおいしいミックスジュースをつくるのがインクルージョンです。多様な人を受け入れるだけでなく、活かさなくてはならない。このダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)が、これからの組織運営における鍵なのです」

かつての組織では、女性や若手、外国人、障がい者、LGBTQなどの集団における少数派が、多数派に同化することを求められてきた。同質性の高い組織のほうが、管理しやすくて楽だからだ。しかしながら、VUCAと呼ばれる予測困難な時代において、そのようなやり方では限界がある。今こそ、多様性を活かすことが求められているといえよう。
「異質なものを受け入れれば、必ず摩擦が生じます。それを良いものに変えていく過程こそ、新たな価値につながるのです。互いの違いを区別・差別をし合うのではなく、各々の視点から意見やアイデアをぶつけ合い、“健全な対立”を引き起こす。そこからイノベーションは生まれます」

実際、多様な視点を活かしている現場からは、ヒット商品が数々誕生している。あるメッキ加工の企業では、若手を中心にアイデアを募り、メッキ処理を施したチタン製ストローを開発。SDGsの流れが背中を押して、大手企業からノベルティとして使いたいと引き合いがくるなど、顧客層の拡大に一役買ったという。

社内課題の解決だけでない外向きのダイバーシティ

D&Iは「中堅・中小企業こそ取り組むべき」と、荒金氏は力を込める。なぜならこれこそ、中堅・中小企業経営者が抱えるさまざまな課題を解決する、一手となり得るからだ。
「圧倒的な人手不足で、優秀な人材どころか必要な人員さえも確保できない。自動化、DXでそれを補うといっても、抜本的な改善にはたどり着かない。今後、中堅・中小企業が生き残るためには、1つの手段として、これまで活かしきれていなかった女性、外国人、障がい者などの人材に活躍してもらうことが欠かせません。経営者が組織の現状に危機感を抱き、アンテナを立てているか否かが、会社の未来を左右するのです」

かといって、ただ労働力を確保すればいいという問題ではない。近年、大企業が直接取引先であるティア1のみならず、その先にあるティア2の企業も含めて、サプライチェーン全体のSDGsやESG推進を働きかけるケースも増えている。例えばインテルでは、サプライチェーンにおけるダイバーシティ強化を推進しており、「少なくとも51%以上の女性や障がい者などによって所有、運営、そして管理されている企業」をダイバーシティ企業と定義し、世界中でそのような企業との取引を増やしている。今後、こうした流れはより加速していくはずだ。既存のサプライチェーンにおける生き残りやプレゼンス向上のためにも、D&Iに取り組み、多様な人材を活かすことは、もはや必須事項なのである。
「これからの時代、人材不足など社内の課題解決だけを目的とした『内向きのダイバーシティ』ではダメです。社会の一員として企業が果たす責任に対して、世間の目が非常に厳しくなっている今、社外にも意識を広げた『外向きのダイバーシティ』を推進しなくてはなりません」

「エクイティ」を理解し、KPIを定めて実践する

いざD&Iに取り組もうと思ったら、何から始めればよいのだろうか。
「ダイバーシティ推進の部署をつくり、現場に丸投げするケースも散見されますが、それでは成果は出ません。何より大切なのは、経営者のコミットです。最初は誰しも、慣れ親しんだ環境を変えたくない、多様な人がいると面倒だというネガティブな感情を抱くでしょう。しかし、自社を取り巻くビジネス環境を冷静に見据えたら、D&Iは必要不可欠。それをしっかりと理解し、全社的な意識改革を図る。経営層や管理職への意識浸透も、トップの大きな役割です。彼・彼女らの知識をアップデートさせ、会社全体で取り組みましょう。女性活躍をうたって女性にばかり研修をさせても、上層部の考え方が古いままでは効果は生まれません」

また、社員一人ひとりが、自身の意見を安心して表現できる環境の醸成も重要だと、荒金氏は強調する。
「心理的安全性を高めるには、話しやすく、助け合い、挑戦や失敗を恐れなくていい風土を整えること。これも、経営者の手腕にかかっています。まずはトップ自ら現場に入っていき、マイノリティの意見を吸い上げましょう。トップダウンで方向性を決めつつ、ボトムアップで具体的な施策を決めるのも重要です」

最近は若手、女性、ひとり親、中途入社など、さまざまな属性ごとにグループをつくり、そこで互いに助け合う関係性を築きつつ、各属性で意見をまとめて経営層に提言する取り組みも、企業で増えているという。

さらに荒金氏は、「マイノリティを優遇すると、逆差別だと不満をもつ人が出てきます。そうしたハレーションを防ぐには、『エクイティ』の意識が必要です」と話す。エクイティは「公平」という意味。これと「平等」の違いを認識しなければ、D&I施策への不満は取り除けない。
「平等は一律に等しい機会を与えること。公平は一人ひとりの状況に合わせて、誰もが機会を得られるようにすること。例えば、全員に同じ自転車を与えるのは平等です。でも、車椅子の人は自転車に乗れないし、身長によって適した自転車のサイズは違う。そこで、車椅子の人には専用の乗り物を、自転車は体格に応じた大きさのものを与えるのが公平です。多様性を受け入れて活かすには、この公平の視点が欠かせません」

女性活躍を推進すると、「女性にばかり下駄を履かせて」という不満が出ることもある。しかし、それは違う。これまで当たり前のように男性が優遇されていたポジションに、女性がつきやすいよう公平な機会を与えているだけだと理解すべきだ。「もう1つ、重要なのはKPIを掲げること。目標を持たずにやっても、成果は上がりません」と荒金氏は続ける。いつまでに何をするのか、D&Iでどんな会社を目指すのか。パーパスや具体的な数値で見える化し、経営戦略と連携させて進めるのだ。
「D&Iは終わりのない旅です。会社を持続的に成長させたいなら、やり続けなければいけません。すぐに結果が出る打ち出の小槌ではないですが、根気強く取り組めば、未来は明るい。経営者の方々には、今すぐに取り組んでほしいと願っています」

 

話を聞いた方

株式会社クオリア
代表取締役社長
荒金雅子さん

1990年代より一貫して、企業や団体のダイバーシティ&インクルージョン推進支援や、組織活性化などのコンサルティングを実践。特に、意識・行動変容を促進するプログラムに定評がある。内閣府「性別による無意識の思い込み(アンコンシャス・バイアス)に関する調査研究」調査検討委員会委員も務める。『これからの経営戦略と働き方ダイバーシティ&インクルージョン経営』(日本規格協会)など著書多数。

機関誌そだとう217号記事から転載

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