中小企業白書から読み解く経営のヒント

令和4年度(2022年度)の中小企業の動向②

 

2023年版中小企業白書(以下、「白書」という)では、中小企業の動向に加えて、中小企業が変革の好機を捉えて成長を遂げるために必要な取組等について、企業事例を交えて分析を行っています。今回も白書第1部を取り上げ、生産性向上に向けた設備投資やイノベーションについて、カーボンニュートラルの動向も交えながら解説します。

中小企業においても拡大傾向にある設備投資

前回は、賃上げの促進に向けて価格転嫁の重要性に触れましたが、生産性の向上も重要な取組です。生産性の向上には投資の拡大やイノベーションの実現が重要ですが、まずは足下における設備投資の状況について確認します。

図1は、国内民間設備投資(名目)及び中小企業設備投資の推移と見通しを見たものです。これを見ると、国内民間設備投資額は感染症流行後に上昇しており、先行きについて政府経済見通しでは、2023年度(令和5年度)において103.5兆円の見通しを示しており、中小企業の設備投資も、22年度は21年度からの増加が見込まれています。

 

 

また、中小企業が設備投資を行う上で優先度が高い項目を確認すると(図2)、17年度は「維持更新」を優先度の高い項目として挙げる割合が最も高くなっていました。一方、22年度では「生産(販売)能力の拡大」や「製(商)品・サービスの質的向上」を優先度の高い項目として挙げる割合は「維持更新」よりも高い結果となり、設備投資の目的について変化が見られています。

 

革新的なイノベーションがもたらす効果

このように、日本経済全体の設備投資もバブル期の水準を上回る見通しであるなど、潮目が変わってきています。今後の中小企業のさらなる積極的な設備投資が期待されるところですが、設備投資を通じて、より革新的なイノベーションの創出に挑戦していくことで、幅広い効果が企業にもたらされます。

中小企業のイノベーション活動別に得られた効果を見ると(図3)、「革新的なイノベーション活動に取り組んでいる」企業は、「革新的ではないがイノベーション活動に取り組んでいる」企業と比べて、「競合との差別化」「販路拡大(国内・海外)」につながると回答する割合が高いことが分かります。

 

 

今回の白書では、こうした戦略的に新たな事業に取り組むことでイノベーションを実現している企業も紹介しています。事業環境が激変する時代にこそ、中小企業の経営者が成長意欲を持って果敢に挑戦することで、イノベーションによる生産性向上が企業の成長にとって重要といえるでしょう。

 

カーボンニュートラルの取組を成長につなげる重要性

投資やイノベーションに関連して言えば、世界的に脱炭素の機運が高まる中、我が国でも事業活動におけるカーボンニュートラル実現の重要性が認識されつつあり、中小企業についても、23年2月10日に閣議決定された「GX(グリーントランスフォーメーション)実現に向けた基本方針」において、カーボンニュートラルを推進することの必要性が示されています。

こうした中で、中小企業のカーボンニュートラルの事業方針上の優先度について見ると(図4)、「優先順位は高い」「優先順位はやや高い」と回答する割合が20年から22年にかけて増加していることが分かります。

 

 

一方で、事業所全体や主要な排出源、削減余地の大きい設備等のCO2排出量を把握している、あるいは削減余地の大きい設備等のCO2排出量の削減に向けて、削減対策の検討・実行や一連の取組に関する情報開示を行っている企業の割合は、総じて2割弱にとどまっており、カーボンニュートラルに向けた具体的な取組は進展していない状況にあります。

しかし、カーボンニュートラルの取組を単なるコスト増加の要因ではなく「商機」と捉えて積極的に投資を行うことは重要です。研究開発に取り組み、新技術の開発成功により大手企業などからの引き合いや社員のモチベーションの向上につながっている企業も存在しています。こうした事例を参考に、GX等の構造変化を新たな取組に挑戦する機会と捉え、投資やイノベーションを促進していく動きが今後広がっていくことを期待しています。

以上、過去2回にわたって23年版中小企業白書第1部について取り上げました。次回から中小企業の「成長」をテーマに、白書第2部について解説します。

 

中小企業庁 事業環境部
調査室 調査係長
戸田健太
(2022年4月より当社から出向中)

 

 

機関誌そだとう216号記事から転載

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