投資先受賞企業レポート

未知に挑み、業界一の開発力を磨き続ける

ワイヤレス給電で社会を変えたい……

株式会社ビー・アンド・プラス

亀田篤志社長
北海道大学大学院量子集積エレクトロニクス研究
センターを卒業後、デンソーに入社。2007年に
ビー・アンド・プラスへと入社し、アメリカ支店設立
のため渡米。帰国後、15年に代表取締役社長に就任。

 

株式会社ビー・アンド・プラス
主な事業内容:
ワイヤレス給電・充電製品の開発・製造・販売、ワイヤレス給電技術の要素研究、近接センサ、RFIDなど、FA用システム機器の開発・製造・販売など
本社所在地:
埼玉県比企郡小川町
創業:
1980年
従業員数:
81名

 

「彼はこの作業のプロ、彼はオールラウンダーでコイル制作だけでなくいろんなものに対応できるんです」と、工場を案内しながら、社員一人ひとりを誇らしげに紹介してくれたのは、ビー・アンド・プラス亀田篤志社長。「社員がいなければ、ビー・アンド・プラスは成り立ちません」と絶大な信頼を置く仲間たちと、日々製品づくりに励んでいる。

同社は約40年間、ワイヤレス給電製品の開発・製造・販売を手掛けてきた。ワイヤレス給電とは、その名の通り、ワイヤ(電線)を使わずに電力を送る技術。電磁誘導・電界結合・マイクロ波などを用いて、非接触で給電をする。身の回りにあるもので例を挙げると、直接電源につながず、置くだけで充電ができるスマートフォンの充電器がわかりやすいだろう。

亀田社長は、2015年の社長就任時、経営理念の一つに「ワイヤレス給電で世界一の会社になる」と掲げた。そこからわずか5年後の2020年にはAGV(無人搬送車)用のワイヤレス充電システムの国内およびグローバルの日系市場販売数量シェアナンバーワンに輝き、目標達成へと着実に歩みを進めている。

腹を括って組織変革、新規開拓に力を注ぐ

ビー・アンド・プラスはもともと、世界的に名高いドイツのセンサメーカー、BALLUFF社との共同出資のもと、「日本バルーフ株式会社」としてスタートした企業だ。日本の自動車関連メーカーにセンサ類の販売をしていたが、メーカーから挙がるさまざまなニーズに応え、日本オリジナルの製品開発を多数進めていた。その中に、ワイヤレス給電があった。「センサを売る会社は数多いが、その中で何か1つ、きらめく武器を持とう」と、独自にワイヤレス給電の開発・製造を始めたのが、現在に至る原点である。以後、センサの事業を手掛けつつ、工業用のワイヤレス給電技術を地道に磨き続けてきた。

近年、引き合いが増えているドローンの
ワイヤレス給電。農薬散布用はもちろん、
害獣駆除など活用はさまざまだ。

そして、亀田社長がトップに就任するタイミングで、より視野を広げ、工業用だけではなく幅広い分野におけるワイヤレス給電のナンバーワンを目指す方向へと舵を切ったのだ。そこでまず着手したのは、組織を変えること。

「取り組みやスローガンを変えても、実態が伴わなければ意味がありません。しっかりとワイヤレス給電に軸足を置く体制に変える必要があると考えました。社員の9割はそのままこれまでの業務に携わり、残りの1割は完全に新しい分野に向けたワイヤレス給電の業務だけに専念してもらうことにしたのです。当時、業界でナンバーワンを目指すという突然の宣言に戸惑う社員が多かったのですが、やってみようと志を共にしてくれるメンバーを募り、2名でチームをつくって、新規市場の開拓営業から始めました」

それから約4年は、組織変更を繰り返し、試行錯誤してさまざまな施策を試みた。業界ナンバーワンを掲げた以上、そこへ確実にコミットする。目標を形骸化させない行動力こそ、経営トップに必要な力だ。

過去のノウハウを生かし、スピード重視の試作製作

同氏がもう1つ積極的に取り組んだのが、開発のスピード感を重視した「リーン・スタートアップ」という手法だ。これは、最初からすべての機能を備えた製品をつくるのではなく、まず最小限の機能を持たせた試作品の開発を行い、顧客の反応を見てから改善を繰り返して製品を完成させていくやり方。シリコンバレーなど欧米のものづくり市場においては、広く用いられている。

工業用のみを扱っていた当時は、用途がある程度限られており、最初から完成品を納品することが求められた。しかし、オールジャンルでワイヤレス給電の技術を用いた製品をつくるとなると、話は別だ。まだワイヤレス給電の市場が狭い中で、顧客側が未知の領域にいきなり何百万もの予算をかける決断はしにくく、「こういう用途で使えないだろうか?」という相談から始めたいと考えるケースも多いという。それに柔軟に対応できるのが、リーン・スタートアップのメリットだ。

キックボードや電動自転車、EV車など
モビリティの充電にも、ビー・アンド・
プラスの製品が数多く用いられている。

「時間をかけて考えて、余計なコストをかけるよりも、少額投資で目に見えるものをつくって、ブラッシュアップしていったほうが断然いいでしょう。初年度は、10件ほどの依頼でしたが、次年度には30件、翌年度は50件……と徐々に増えていき、現在は年間100件ほどの開発依頼を受けています。最初にコンタクトをいただいてから、2週間で試作品をつくるくらいのスピードで対応するのは、珍しいことではありません」

先日、ドローンのワイヤレス充電を希望している、ある大学の研究者から電話があった。大手企業と検討を重ねていたが、なかなか話が進まず、つくるなら1年はかかると言われたとのこと。ビー・アンド・プラスは電話がきた翌日に対面での打ち合わせに応じ、試作品の開発に着手。3カ月後に迫っていた展示会に向けて最終準備を進めている。

こんなにも素早く依頼に応じられる理由には、社員の技術力の高さはもちろん、これまで40年間つくり続けてきたワイヤレス給電製品の引き出しが多いことが挙げられる。過去の製品や開発品のラインナップから、依頼の要望に近いものを探し、それを改造して試作ができるのだ。しかも、開発担当以外の営業部員でも簡単な試作をこなし、迅速な対応ができるということには驚かされる。これは、コツコツと少量多品種の製品をつくり続けてきた同社だから可能なこと。こうした強みを生かしたワイヤレス給電事業の成長戦略が、今回の青年経営者賞の受賞にもつながっている。

挑戦し、成長する社員と世の中に価値を提供する

現在、ビー・アンド・プラスが手掛けるワイヤレス給電の分野は、工業用のAGVをはじめとする各種設備、シェアサイクルなどのモビリティ、EV、ドローン、体内の腫瘍を光で治療するデバイスや医療用カートなどの医療機器、住宅商材など多岐にわたる。なかには、海底2000メートルに沈めるロボットにワイヤレスで給電をした事例もある。こうしたこれまでになかったジャンルへの挑戦を、亀田社長は「想定していなかったワイヤレス給電の使い方に出合うことができ、とてもワクワクする」と、大いに楽しんでいる。

同氏は、「営業部」「海外営業担当」などの名刺をもっていて、社長を名乗るよりもプレイヤーとして顧客と接する機会が多いのだとか。「社員と同じ目線で見ないと、市場の状況や顧客のニーズはわかりませんから」と話しながら、新しい出会いに喜びを感じている。そしてまた、「ワイヤレス給電によって、世の中を変えたい」との想いを強く抱いているのだ。医療研究など社会的意義があると判断したプロジェクトは、無償で技術提供をすることもあるという。

専門性の高いエンジニア、知見の高い営業担当が
一緒になって顧客のニーズに素早く対応する。

「ビジネスよりも、ワイヤレス給電開発のナンバーワン企業として、世の中に何を提供できるかに価値を置いています。先日、子ども向けにワイヤレス給電を使ったスノードームの工作キットを制作したのですが、これも利益ではなく、啓発のため。工場用ならば事例は山ほどありますが、生活に身近な場面では、まだワイヤレス給電は当たり前になっていません。まずは100個、スマートフォンの充電器のように暮らしに溶け込んだ製品をつくりたい。そうして生活が便利になったり、喜ばれたりしたら、うれしいですよね」

そんな世界観を共に実現するのは、頼もしい社員たちだ。「変化を恐れず挑戦し、今日の自分を1歩超える人材となる」という経営理念のもと、たとえ失敗してもチャレンジ自体を評価する仕組みを設けて、自主性を重んじ、成長の機会を与えている。また、社員からは年間500件を超える業務改善提案が起案され、日々業務がアップデートしているという。こうした社員の頑張りに報いたいと、昇給率を上げ、最近では持株会をつくって社員が自社株を購入できるようにした。

「社員には常に挑戦を求めますから、人によっては合わないかもしれない。でも、居心地がいいだけの会社は目指しません。トライして成長したい人にとっていい環境を提供したい」

常に新しいことへ目を向けて前進したほうが、やりがいがあるし、社会にも貢献できる。そんなモチベーションの好循環が同社にはあるのだ。業界ナンバーワン企業の誇りを持ちながら、社員と共にさらなるチャレンジは続いていく。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

投資育成さんにはいい人が多くて、いつも支えていただいて感謝しています。持株会をつくりたいという相談にも乗っていただき、ありがとうございました。当社は志半ばで、まだまだヒヨコのような状況ですが、近い将来必ず高く羽ばたきますから、ぜひ目を離さないでいてください。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第五部
大槻佑介

「ワイヤレス給電で世界一になる」をスローガンに掲げ、全社一丸となって取り組んでいる力強い会社です。力強さの秘訣は、従業員を信頼し感謝を忘れない、社長の人柄にあると思っております。貴社の目指す「世界一」の一助となれるよう、今後ともサポートさせていただきます。ご受賞、誠におめでとうございます!

機関誌そだとう215号記事から転載

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