新境地への一手「社外連携」戦略

共感した理念の実現へ、粘り強い挑戦

~長く培ってきた技術力と実績に、大手企業の想いをかけ合わせて~

CASE③株式会社マネージビジネス

 

長く仕事をしている取引先から、「これってどうしたらいい?」と軽い相談を受けるのはよくある話だ。それが、自社の事業とは直接的に関係していなくても、実は大きなビジネスチャンスや成長の機会へとつながっているかもしれない。

マネージビジネスは、1975年の設立以来、さまざまな大手企業のパートナーとして、業務系ソフトウェア開発やITインフラの構築、ソフトウェア・プロダクトの提案などのITソリューションサービスを総合的に行い、発展を続けてきた。27期連続の黒字経営を実現した同社は、2025年に創立50周年を迎える。

 

檜物 茂社長

株式会社マネージビジネス
主な事業内容:
業務系ソフトウェアの開発、ITインフラの構築、ソフトウェア/プロダクトの開発・販売
本社所在地:
東京都大田区
創業:
1975年
従業員数:
106人

 

そんなマネージビジネスが本田技研工業(以下、Honda)と共同開発し、販売総特約店として日本全国に展開しているのが「セーフティナビ運転能力評価サポートソフト」だ。これは、医療機関や企業内で、運転技術の評価や訓練を行う簡易型のドライビングシミュレーター(以下、DS)で、Hondaとの協業は20年近く続いている。
「当社の営業担当とHondaの安全運転普及本部にご縁があり、取引が始まりました。最初は2004年、在庫管理システム開発を行っていましたが、1年ほど経った頃、Hondaが主に教習所に販売普及をしている大型のDSについて、『利用者がシミュレーター酔いを起こしてしまい、困っている。なんとか改善できないだろうか?』と相談を受けたのです」

 

本田技研工業との連携によって生み出された「セーフティナビ」は、
大がかりな設備を必要としないため、活用の幅が広がる。

 

そう話すのは、マネージビジネスの檜物茂社長だ。それまで手がけたことのない分野であったが、相談を受けた営業担当は話を社内に持ち帰り、関係者と協議。DSに搭載されているソフトウェアの解析を、自社内で行うこととした。その中で使われているプログラムは難易度が高い技術領域であったが、社内の最適なエンジニアを参画させ、詳細な解析へと歩を進めることとなる。まずは、酔いの原因を探ることからだ。

業務系システムから、事業が広がっていく

現在、ドライビングシミュレーター開発・販売プロジェクトの
責任者を務める安斉和彦部長。

現在、このプロジェクトの責任者を務める同社の安斉和彦部長は、当時を次のように振り返った。
「実車とDSの運転感覚が異なるため、そのズレから車酔いに近い症状を引き起こしてしまうのではないか。特に普段から運転する人は、その影響を受けやすいのではないかという仮説を立て、実車に近づけるとともにDSの体感調整を行うため、プログラムを一から解析して構造化し、修正とテストを行うという、地道で時間のかかる作業を繰り返しました」

マネージビジネスでは、生産管理や在庫管理などの業務系システム構築には長年の実績があったが、当時、DSのような機器制御系のシステムに携わった経験はほとんどなく、新たな挑戦だったと檜物社長は語る。
「DSのシステム開発は当社にとって初めてのことですし、システム構造を充分に把握していないため、動作確認を手探りで行う作業は根気がいります。忍耐力のある人でないと担えません。その関連技術に明るい技術者が当社に在籍していたのは、大きかったですね」

そもそも、課題である“酔い”の程度は人によってさまざまであり、直接の原因はわからない。DSに搭載されている細かいプログラムを調整していきながら、実際に使ってみて、酔うか酔わないか、体感や使い心地はどうかを検証していった。

その後、2009年にHondaは「セーフティナビ(以下、Sナビ)」を発表。これはパソコンと市販のハンドルコントローラーを組み合わせた簡易型DSで、省スペースで手軽に、さまざまな交通状況を体験、学習できる。そこに搭載されているソフトウェアの開発を担ったのが、マネージビジネスだ。Hondaから依頼され、新たなシステム構成で新しいソフトウェアを開発した。DSの酔い検証から数年を費やし、同社と初めて共同開発で製品を完成させたのである。長く続けてきた事業の1つの成果だ。

HondaがSナビを発表した3カ月後、同社のお客様相談室に一通のメールが届く。送信者は、とある病院の作業療法士だった。

その内容は「入院患者が、退院後に車を運転することを不安に感じており、リハビリ科でそれについて研究することとなった。Sナビでどういったことが評価できるのか知りたい」というもの。Hondaはその病院に同機器を持ち込み、ニーズを聞き出すことにした。事故や病気などで高次脳機能障害などを患い、体が不自由になってしまった患者は、リハビリテーションを経て社会復帰を目指すことになる。自分が障害を持つことになる前と同様に運転できるかどうかということは、日常生活で車の運転が欠かせない人ほど重要なポイントだろう。しかし、運転を再開できるかどうかの明確な基準はなく、主治医や作業療法士が判断するしかない。そこで、Sナビを使って評価できないだろうか、という相談だった。

高次脳機能障害になると、自分の外にある世界(外界)から得られた情報を正しく認識して、行動に移す力が欠けてしまうため、記憶や注意、意思を遂行する機能に影響を及ぼす。歩行者や対向車、歩道、停止線、信号、道路標識など、運転する際にはさまざまなものに注意を向けなければならない。その中でどこに課題があるのかを検出しながら、運転復帰に向けた訓練をSナビで行うためには、新しいソフト開発が必要だ。

Sナビは市街地で対向車が突然近づいてきたり、子どもが飛び出してきたりと、危険な場面を安全に体験できる。これに、医師や作業療法士の判断材料となるような、独自の検査ソフトを組み込めば、要望を叶えられるかもしれない。新たな挑戦だ。医療現場で必要とされる検査内容から、どのようなソフトを作成すべきかをヒアリングし、サンプルを作成。実際の医療現場で評価してもらう。この繰り返しで、ついに完成品を生み出すことができた。その開発と普及に、マネージビジネスが協力できたことをうれしく思う、と安斉部長は力を込める。
「新しいソフトにおける主な機能の1つは、『運転反応検査』です。画面に表示される赤や黄の信号、矢印に応じて、『アクセル・ブレーキを踏む』『ハンドルを回す』という決められた動作を行います。これで、視界の情報に正しく反応し、動作につなげられているかを確認するのです。もう1つは、『危険予測体験』。市街地コースを走行し、歩行者の飛び出しや対向車の動きに対応できるか、信号や停止線などを認識しているかを評価します。いずれも医療現場の声を受け、運転時に発生する課題をシナリオに組み込みました。これらを実現することは、決して簡単な道のりではありません。しかし、運転を望むすべての人々に価値提供を行うという、Hondaの姿勢に感銘を受けたのです」

 

(写真左)医療機関にて、リハビリテーションの一環としてセーフティナビを使用する様子(イメージ図)。
(写真右)「リハビリテーション向け運転能力評価サポートソフト」の機能画面。
表示される簡単な指示に正しく反応し、行動できているかがわかる。

じっくり取り組み、得た手応えと期待

こうして機能を拡充し、2011年にHondaは「セーフティナビリハビリテーション向け運転能力評価サポートソフト(以下、リハソフト)」を販売開始。マネージビジネスは販売総特約店として、医療施設や大学研究機関、企業など約350カ所に納品している。営業現場で受けた相談から始まった共同開発が、ここまでの広がりを見せたことに、檜物社長も手応えを感じていると話す。
「開発に携わった技術者や営業担当など、全員が真面目に取り組んできたからこそ、今があります。DSについての相談を受けてから現在まで、長い時間が経過しました。もしも、どこかで諦めていたらそこで終わり。しかし当社も、少しでも社会貢献になればという思いで、じっくり取り組んできました。自分たちの技術が世の中に役立ったことで、社員一人ひとりにとっても、大きな励みになり、自信にもつながっています」

現在、リハソフトの導入先は医療関係だけではない。例えば物流会社やバス、タクシーなど、職業ドライバーを抱える企業が、運転者の技能検査や交通安全指導のために使用するケースがあるという。社員の、自動車運転における安全対策を重要視しているからだ。そうした企業以外にも、運転に関わる市場や領域は幅広く存在している。ドライバーに必要な能力を客観的に評価し、安全運転の指導を行うDSのニーズは、今後もさらに広がっていくだろう。
「地方にある小規模病院など、アプローチできていないところはまだまだあります。競合他社の存在はあるものの、安全運転の普及を事業の柱としている自動車メーカーはHondaだけであり、DSを展開している自動車メーカーもまた、国内では同社だけです。運転や事故に関する、豊富なデータや事例を持っているというHondaの強みを活かして、DSを少しでも多くの方にご利用いただけるよう、さらなる開発を続けていきたいと思っています。『2050年交通事故死者ゼロ』の実現を目指す同社とともに、マネージビジネスも技術力、品質力をより一層向上させ、新しい製品開発につなげていきたい」と、安斉部長は今後の展開に期待を寄せる。

 

 

2023年4月、Hondaは新製品として、大型の「ドライビングシミュレーターDB型Model-A」の発売を開始した。これは従来の安全運転教育用「ドライビングシミュレーターDB型Model-S」に、マネージビジネスが開発に携わったリハソフトを実装したもの。シフトレバーやステアリング、ペダル、シートなど、実車と同じ部品を数多く採用し、よりリアル運転感覚を体験できるという。また、さまざまな運転環境における認知・判断・操作などの現状を「見える化」すべく、数値で表せるようにした。そのデータを利用すれば、客観的な評価や分析が可能となる。

 

実車の部品を数多く採用して開発された「ドライビングシミュレーターDB型Model-A」。
そのネーミングには、「運転復帰へ踏み出す(Advbance)ための手助け(Assist)
となるように」という想いが込められている。

協業が生み出した、大きなシナジー効果

Hondaとの協業が、取引開始から含めると約20年になった今、マネージビジネスがそこから得たものについて、檜物社長は次のように述べる。
「当社はもともと、業務系システムの開発から運用までを主業務としており、いわゆる“自社製品”はありませんでした。だからこそ、Hondaとの協業によって形ある製品をつくったということが、会社にとっても、社員にとっても大きな強みであり、誇りにもなっています。社会に貢献できているという実感が得られるのも、大切なことでしょう。Hondaの想いと当社の開発技術による、大きなシナジー効果が生まれたものだと考えています」

その根底には、デジタル黎明期からITソリューションに関わってきたマネージビジネスの長年にわたる実績、27期連続黒字という安定した経営状況、そして、社員が長く働き続けられる環境づくりがある。
「デジタルの世界といっても、地道なアナログ仕事も多い現場。ご縁を大切にし、これからも真面目にこつこつと磨きをかけていきます」

 

機関誌そだとう215号記事から転載

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