組織に新しい風。互いの強みで成長し合う
総論 ショーワグローブ株式会社 代表取締役社長 星野達也さん
人材育成、生産性向上、企業文化の改革。あらゆる中小企業が抱えるこれらのミッションを、一手に解決し得る施策がある。それが「オープン・イノベーション」だ。
「日本語では『社外連携』がしっくりくるでしょう」と語るのは、『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社)の著者で、これまで150社以上の社外連携に携わってきた、ショーワグローブの星野達也社長である。
「オープンとイノベーションという、広い意味を持つ単語を組み合わせた言葉なので、さまざまな解釈がなされています。基本的には、技術を探している企業や団体に対して、その技術を有する企業や団体が手を挙げ、両社が連携して新しいものを生み出すことを指すでしょう。前提として、連携によって両社ともに成長機会が得られ、1+1=2ではなく、3以上になる付加価値を生み出せるものでなくてはならない。だからこそ、その道で一番の企業と組むことが重要です。また、これまでに付き合いのある企業だけではなく、未知であっても互いにとってベストな企業とコラボレーションする。それも、オープン・イノベーションの価値です」
これまでは、海外の大企業がグローバルに連携先を探したり、日本においても、大手メーカーが優れた技術を持つ他社と組んだりと、大企業を中心に行われてきた。
しかし、今こそ中堅・中小企業がオープン・イノベーションに着手するときなのだと、星野氏は語る。なぜなら、その多くが人材不足に悩んでいるからだ。
「圧倒的にリソースが足りない中で、やりたいことを自分たちだけでやるには、限界がきています。ここ10年ほど、社会がものすごいスピードで大きく変わり、中堅・中小企業の危機感は高まるばかりです。この状況下で生き残り策の1つとして、社外連携をしながら会社を変えていく。自社だけではできないことを、社外の力を借りて実現する。それは、意義のある選択であり、経営者としても興味深い試みだといえるでしょう」
それぞれに異なる、連携の目的やメリット
オープン・イノベーションの連携先としては、大企業、中堅・中小企業、スタートアップ、大学の4つが主に想定される。中堅・中小企業のパートナーとしては、いずれも向いているという。
大企業との連携では、開発から製造までを引き受けるODM(開発製造受託)と、製造のみを請け負うOEM(製造受託)の2パターンが多い。この場合、自社が得る収益の規模が大きい、厳しい基準をクリアするために技術を磨くことができる、世界で戦う企業のレベルを目の当たりにできるなどのメリットがある。
「甲子園の予選のようなもので、競合と戦って、県予選を通過したらようやく大手と組める。現場は疲弊することもありますが、勝ち残ったときのインパクトや喜びは大きいです」
中堅・中小企業との連携では、規模感が同じ企業同士、強みを持ち寄って相互に補完し合いながら進めていくことができれば、非常に効率がよく、生産性がアップする。とはいえ、近い競合にもなるため、連携先を探して一歩踏み出すのは、なかなか難しい。既存の製品にこだわらず、間口を広げて新しい挑戦をしていく企業であることを常に発信し続け、チャンスをうかがいたい。
星野氏が「個人的におすすめ」だと語るのが、スタートアップとの連携だ。スタートアップは、開発と設計まではできるものの、量産に対応する設計と生産は苦手な場合が少なくない。その部分を担うのだ。
「独創的なアイデアで世の中を変えようとしているスタートアップと関わると、そのメンバーが持つ意識の高さに、従業員は大いに刺激を受けるでしょう。時間も人も限られているスタートアップは、効率的かつスピーディーに仕事を進めていきますから、自社のやり方とあまりに違い過ぎて、従業員はカルチャーショックを受けることも多いのです。それが、よい方向に働きます」
連携のメリットや難易度、自社への影響はさまざまである。何を目的に、どんな連携をしたいのか、自分たちのニーズを見極めて、最適な連携先と方向性を検討すべきだ。
Win-Winの関係で成功に導く3つのコツ
星野氏は、オープン・イノベーションを成功させるために、3つのコツを挙げる。「両社でのゴールの共有」と「トップのコミットメント」、そして「成功事例を積み重ねる」ことだ。特に中堅・中小企業同士の連携で多いのが、両社が自社の利益を優先して衝突するケース。サプライチェーンの中で仕事をしてきて、横のつながりを築いた経験が少ない企業が陥りやすいという。
「オープン・イノベーションは、あくまでWin-Winの関係性であることが重要です。互いの強みによって、互いの弱みを補完し合い、これまでにないものを生み出すことができる。それによって、どんなゴールをともに目指すのかを、トップだけではなく、現場レベルでも理解して進めていくことが肝要です」
また、現場に丸投げせず、経営者が旗を振って推進することの大切さも、星野氏は強調する。
「オープン・イノベーションに限らず、新しい活動には現場からの反発がつきものです。自分たちだけでできると、プライドを持っている技術者も多い。何度も連携の意義とメリットを伝え続け、現場レベルの衝突をしっかりとさばいていくリーダーシップが不可欠です。オープン・イノベーションは正直、非常に泥臭いことの繰り返し。ただ、それを乗り越えた企業から、大きな成功を実現していくものなのです」
また、どんなささいなことでも、前進したり、気づきがあったりしたら、少し大げさに「これはすごい進歩だ」と盛り上げ、成功事例として全社に認識させることも効果的だ。
「2~3年続けると、社外連携に懐疑的だった従業員からも、自然と『これは社外から知恵を借りたほうがいいのでは』という声が上がるようになります。意識はすぐに変わりませんから、地道に積み重ねることです」
オープン・イノベーションに携わる従業員は、自社の仕事を担いながら、他社との連携にも力を注がなければならない。大変なチャレンジだが、数多くの刺激を受け、否応なしに成長する。そのため「将来の幹部育成」にも有効だと、星野氏は語る。
「異なる文化や価値観の企業との深い交流で、社内では得られないマネジメント経験を得られます。リスク許容度や知的好奇心が高く、社交的な人が、オープン・イノベーションを担う人材として適切でしょう」
ゆえに、将来のリーダー候補をあてがって、あえて経験させる企業も増えているという。
「世界的にも、企業のオープン化が進む中で、何もしないことは後退を意味します。さまざまなメリットがあることもわかっていますから、挑戦しないという選択肢はありません。後れを取ってしまう前に、ぜひ社外連携へと会社を開いてみてはいかがでしょうか」
話を聞いた方
ショーワグローブ株式会社
代表取締役社長
星野達也さん
1972年生まれ。東京大学大学院地球システム工学科修了。三井金属鉱業に入社後、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2006年にナインシグマ・ジャパン(現ナインシグマ・ホールディングス)を設立。10年にわたり150社以上を支援し、オープン・イノベーションのビジネスモデルを国内で展開する。ノーリツプレシジョン代表取締役を経て、2023年より現職。著書に『オープン・イノベーションの教科書』(ダイヤモンド社)。
機関誌そだとう215号記事から転載