投資先受賞企業レポート
第40回優秀経営者顕彰 最優秀経営者賞

世界で輝く、独自性あるものづくり

年齢や社歴を超えた対話がイノベーションを生む……

株式会社メトロール

 

「スイスやドイツの会社のように、自社ブランドの製品を世界中で売りたい。それが創業者である父の夢でした」
そう語るのは、2代目として株式会社メトロールを率いて25年になる、松橋卓司社長だ。父が抱いたその夢は現在、のべ74カ国、3000社以上のメーカーとの取引という大きな成功と共に、見事に実現している。

同社は、CNC工作機械や半導体製造装置、自動車製造ラインなどにおいて、ロボットや機械が工具や加工物の位置を正確に把握するための「精密位置決めセンサ」の開発・製造を行う、国内外で唯一の専業メーカーだ。サイズ、形状、材質、耐熱、精度など多種多様な仕様から選べるセンサを1000種類以上取り揃えている。加えて、特注品の設計・開発・製造にも対応可能で、あらゆるメーカーの要望に応えることができるのが特徴。自動化が進む製造現場の効率化や品質向上に大きく貢献する製品として、国内外のメーカーから依頼が絶えない。「ツールセッター」と呼ばれる工具の摩耗検知用センサは、世界シェア6割を誇っている。

 

松橋卓司 代表取締役社長
1958年東京都生まれ。80年に日本大学農学部卒業後、
大手食品メーカーに入社。92年には経営難に陥った
中堅食品会社に転職し、再建に携わる。98年 株式会社
メトロール入社、2009年代表取締役社長に就任。

株式会社メトロール
主な事業内容:
工場の自動化に貢献する「高精度工業用センサ」の、開発・製造・販売
本社所在地:
東京都立川市
創業:
1976年
従業員数:
115名(2023年1月)

高い技術を海外に発信、宝の持ち腐れにしない

父親から会社を引き継ぎ、松橋社長が市場を海外へと拡大していった背景には、2つの想いがあった。1つは、「日本の中小製造業の高い技術を求める企業は世界中に数多く、グローバル展開できるチャンスがある」と考えたこと。

確かに、国内の特定の企業からしか受注しない商売をし続けても、やがて頭打ちになってしまう。せっかく持ち合わせている優れた技術を世界に発信して、海外の新規顧客を得ることこそが、景気の浮き沈みが激しい設備投資業界に身を置く日本企業として、最善なのは間違いない。

もう1つは、「当時から大企業の下請けは、金額を叩かれるだけ叩かれてしまう弱い立場にありました。そういう商売ではなく、付加価値の高い製品をつくって自分たちを守っていかなくては」との想いだった。ちょうど1990年代後半から2000年代前半にかけては、インターネットの勃興期。そこに目を付け、海外向けの多言語対応のECサイトを立ち上げたのが、メトロールの海外進出の始まりだった。

支払いはクレジットカード決済、在庫品であれば翌日発送が可能、故障時にも1週間以内に代替品を届けるという便利で細やかな対応を全世界に向けて行った結果、取引企業は一挙に倍の60カ国まで増加。そこから着実に販路を広げ、2008年には中国に子会社を設立。現在は74カ国もの海外企業に同社の製品が採用されている。2001年時点で1億円にも満たなかった海外売上は、2020年には9億円超にまで増加し、売上比率としても13%から52%に向上。国内売上を大きく上回った。

従業員数100名ほどの中小企業が、世界の名だたる大企業を相手に堂々と渡り歩いている。こうした世界に向けた優れた戦略の成功が、今回の最優秀経営者賞受賞へとつながっている。

工作機械、医療用機器、半導体製造装置、産業用ロボットなど
多岐にわたる分野でメトロールのセンサが使われている。

 

左から「ツールセッター」「タッチプローブ」「タッチスイッチ」。
97%以上のパーツが国内調達、自社工場でほぼ全ての製品を製造。

儲かる仕組みを確立し、低コストで市場へ提供

メトロールの製品がこれほどまでに世界中のメーカーの心をつかんだ理由には、品質やサービスの良さのみならず、低価格での提供を実現したことが挙げられる。この裏には、徹底した他社との差別化と、企業努力があった。

「心がけているのは、常に他社とは一味違うものを作ること。性能で差別化する、小型化し大きさで差別化する、それに加えて価格を劇的に安くするという差別化です。それも、単純にディスカウントするのではなく、論理的な技術を用いて安く提供するための工夫をする。品質がいいだけでは、世界では戦えないのです」

「工具長セッタ」という工作機械上で位置決めと計測ができる製品は、競合の半分のコストで提供でき、なおかつ小型であることが評価され、トップメーカーがこぞって標準搭載を決めた。他にもほとんどの製品を、国産で多品種少量生産ながら競合の2分の1~3分の1ほどの価格で供給している。コストを重視すると薄利多売になるのではと誰しもが考えるが、同社の利益率はおよそ25%。「安く売ってもちゃんと儲かる仕組み」になっているのだ。

その仕組みの1つが、自動化を組み合わせた生産ラインの構築。松橋社長が就任してからは売上比の20%以上を設備投資や研究開発に充て、即時償却。効率的な生産体制の確立やコスト削減につながる技術開発に力を注いでいる。特筆すべきは、工場で働く人の7割がパートタイマーの女性であるという点。

「特殊技能を持った職人しか製造できないという環境ではなく、地元の主婦の方にパートで入っていただいても問題なく組み立てができるように、ボタン1つで操作できるさまざまな自動機を標準化しました」
これから少子高齢化で働き手の確保が難しくなり、多くの未経験者や外国人材に頼らざるを得ない状況になるだろう。そのような場合でも、理解しやすく働きやすい環境がメトロールにはすでに整っている。

「時代の先を見て、どんどん進化していかなくては、世界でシェアを取ることはできません。当社は、新しい生産体制や仕組みを生み出すことに対して、非常に貪欲な会社だと思います。一方で、どうしてそんなに安くつくれるのかと、ヨーロッパの高い技術を持った会社からはとても嫌われているんですよ」と松橋社長は笑う。

性能の良さや日本製であることの安心感などに一切あぐらをかくことなく、先を見据えて常に「いいものを安く」の精神で技術を磨き続ける。飛躍の根底には、そんなたゆまぬ努力があるのだ。

チームを機能させる、平等で公平な関係性

メトロールは、他社ではあまり見かけない組織運営にも取り組んでいる。それは、役職を置かずに従業員同士が上下関係のない、フラットな関係性で仕事に臨んでいることだ。

若手とベテランがそれぞれの知識や経験を生かし合い
ながら、対話を重ねてものづくりに励んでいる。

「電気の知識が必要なプロジェクトなら、電気に詳しい人がリーダー。メカニズムが中心のプロジェクトならそれに詳しい人がリーダーというように、プロジェクトのテーマによって適切な人を配置して座組を変え、年齢や社歴ではなく知識や経験でリーダーを決めます。自分がリーダーになることもあれば、別の場ではフォロワーになることもある。縦割り式でいつも決まった人をトップに置いても、その分野に詳しくなければ効率が悪いですよね。限られた従業員数で新しいことに挑戦するならば、そういう横串のフラットなチームのほうが機能しやすいのです」

同氏の経営のポリシーは「付加価値は人間同士の対話からしか生まれない」。これを体現したのがまさに、このような人と人とが有機的につながり合う組織のあり方だ。
「先代は1人の発明家でした。だから、父が退いた後に果たして新しい製品を誰がどうやって生み出すのか、それが不安で仕方なかった。そこに輪をかけて、ものづくりの現場に要請されるものもどんどん進化してきて、メカニックとエレクトロニクスを組み合わせたメカトロニクスの時代になり、さらにそこにソフトウェアも加わって複雑化してきました。1人の発明家に頼って新製品を開発するには、限界が訪れたのです」

製造部門はもちろん、海外営業部門
でも数多くの女性が活躍している。

だからこそ生まれた、「チームによるものづくり」の発想。松橋社長はこれをオーケストラに例える。「一人ひとり奏でる楽器が違うから、演奏する曲によって組み合わせを変えていく。それぞれの能力が重なって、相乗効果が生まれるのです」

かつて、76歳で入社したベテラン技術者と新卒で入社した若手がコラボレーションし、画期的なセンサの開発に成功した事例があるのだとか。
「ベテランは空気圧の専門家で、若手は電気の技術を持っていた。そこに当社のメカニズムの技術を組み込んで、3つの力を融合した製品ができたのです。そのとき、ベテランと若手の間に上司と部下の関係性はありませんでした」

いいものをつくりたいという想いだけでつながる、平等な人間関係にこそ、イノベーションの可能性がある。松橋社長はそれを「ある種のセレンディピティ(偶然の幸運)」と言い、メトロールが最も大切にしているものだと語る。社長自らプロジェクトにオブザーバーとして参加し、誰かが少しでも自分の意見に固執したり、プライドを守るために行動したり、上からものを言うようなことがあれば、企画やアイデアを差し戻すのだという。

プロジェクトごとに適材適所のチームを編成。リー
ダーは年齢や社歴ではなく知識や経験から選ばれる。

従業員同士が信頼関係を築いて、心理的安全性を保った状態で建設的な対話をしたり、従業員全員が他の従業員と1on1を実施したりできるように、「レゾナント」(共感)研修を行うなど、健全な組織づくりに力を注いでいる。

また、経理や総務などいわゆる管理部門は廃止し、クラウドを導入してすべて自動化。経理専任者はいなくなった。ここまで徹底的に無駄を省くのも、「新しいものを生み出すための対話の時間、勉強の時間をつくるため」だ。

黒子のプライドを胸にアイデアを磨き続ける

進化を止めない同社が取り組んでいる次なる技術は、工場内におけるワイヤレス通信の実装化。一般的に、工場にはモーターなど通信を妨げるものが数多くあり、ノイズが発生しやすい。そのため、スムーズなワイヤレス通信は難しい。そこに風穴を開けるべく、研究に勤しんでいるという。また、従業員にリスキリング(学び直し)を促して、新しい分野に挑戦するための土台づくりを行っている。

 

株式会社 岡本工作機械製作所と共同で、無人でオペレーションできる
平面研削盤の開発に成功。NEDOに採択され、2022年度、計測システムが
JSA規格に認められた。

「労働者が肉体を使って働く時代ではなくなってきています。人間がしていた規則性のある繰り返し作業は自動機やロボットに置き換わり、事務仕事はクラウドに置き換わる。人間の仕事はアドリブで頭を使うことに移行しています。それに対応するには、新しい知識や技術の獲得が欠かせません」

最近は、若手の育成にも重きを置き始めている。同氏が引き継いだ際は従業員(全社員)の平均年齢は65歳オーバーだったが、現在は35歳。若返った組織をより良く成長させ、持続可能な環境を整えようとしている。定年なしの条件で経験豊富なシニア層を積極的に雇用し、若手の指導をしながら技術者としても活躍してもらったり、「社内大学」と銘打って、ベテラン従業員に講師を担当してもらって講座を開いたり、採用の仕組みを整えたりと、「組織にとっていいこと」に尽力している。

同社のセンサの開発・製造の仕事は、「黒子だ」と語る松橋社長。
「あるメーカーの機械がヒットして話題になったら、あれは実はうちのセンサを採用した機械なんだと、コソコソ話すのが当社のキャラクターです。スポットライトは当たらない。だけど、みんなそこにプライドをもっている。他社と同じようなものはつくりたくないし、ユニークなアイデアでつくった一味違う製品を世の中に出して、顧客の反応を聞きたい。そんな、ものづくりに真剣な人たちが集まっている会社です。だから、世界のトップメーカーに自分たちのセンサが認められ、機械の自動化や機内計測による工程集約が実現して、ありがとうと言われることが何よりうれしいんですよ」

新しいか、おもしろいか、他とどう違うか。優先するのは、利益よりもつくり手の好奇心と社会へのインパクト。そんなワクワクするようなものづくりに一丸となって取り組めているからこそ、そこに自然と利益がついてくる。会社と社会の理想的な好循環が、メトロールにはある。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

私どものようなオーナーファミリー企業は、経営と資本が一体化していて意思決定が早いなどいい面もありますが、どうしても内向きになりがちな傾向があるので、外部からいただく声は貴重です。投資育成には年1回、決算報告をして、そこで意見を頂戴するのですが、第三者的な視点をいただけるのは、非常にありがたいですね。これからも忌憚のない声をもらえたらうれしいです。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第二部
小山勇輝

効率的な組織作りに取り組み、実際に機能するフェイズに落とし込んでいるところが本当にすごいと感じます。フラットな組織での“対話”から生まれたセンサは、製造現場の自動化をはじめ、幅広く生産性向上に寄与しており、今後も活躍の場が広がることと存じます。弊社もメトロールの発展を全力でバックアップいたします。ご受賞、誠におめでとうございます!

機関誌そだとう214号記事から転載

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