「フェムテック」が女性活躍の切り札に!
株式会社オカモトヤ
長くキャリアを築いていく上で、身体的な性差がもたらす課題をいかにして解決するのか。
「『働くひと』のミカタ」を掲げてビジネスパーソンを支援する、株式会社オカモトヤの鈴木美樹子社長に話を聞いた。
株式会社オカモトヤ
代表取締役 鈴木美樹子
大学卒業後、株式会社エドウインで企画営業やブランド立ち上げなどを
経験。2006年、株式会社オカモトヤに入社し、1級建築施工管理技士・
認定ファシリティマネジャーを取得した。常務取締役営業本部長、
専務取締役を経て、2022年から現職。2度の出産・育休を経験している。
「一説によると、タブーの語源はポリネシア語で、“月経”という意味なんです。そこからもわかるように、歴史的に見ても触れられてこなかった女性特有の問題が、今、関心を集めています」
そう語るのは、フェムテック領域で新規事業を広げ、自身も日本フェムテック協会が認定するフェムテックアンバサダーを務める、株式会社オカモトヤの鈴木美樹子社長だ。
フェムテックとはFemale(女性)とTechnology(技術)からなる造語で、女性特有の健康課題について、製品やサービスによって対応するものと定義されている。米国の調査会社によると、世界のフェムテック市場は2019年の820億円から、2025年には5兆5000億円まで成長すると予測されるほどで、注目分野であることは間違いない。
「日本ではフェムテックというと、特に月経に関するソリューションと捉えられてきました。しかし近年では、更年期や乳がんといった女性が抱える問題全般に対する商品やサービス、妊活アイテムなども登場しています。フェムテックをテーマにした展示会もここ2~3年で増加傾向にあり、来場者も増えているのです」
昨今、フェムテックがこれほどまでに注目される背景について鈴木社長は、「これまでタブー視されてきた領域に切り込む内容だからこそ、当事者である女性の注目度が高まっているのでしょう。一方で、企業が認知して配慮すべき問題だと、意識を向ける経営者も徐々に増えてきています」と説明する。
投資育成で展示会を行い、多くの社員が参加した。
例えば「健康経営優良法人」の認定を受けた中小企業は、2018年時点で775社だったが、2023年現在は1万4000社と5年間で18倍にもなった。その要件の中には、「女性特有の健康関連課題」への取り組み状況を聞く項目が存在する。ただ、「中小企業ではまだまだ理解が進んでいない部分もあると感じます」と同氏は指摘する。
「すでに、人手不足は大きな問題になっており、今後はこれまで以上に男女問わず長く働き続けなくてはなりません。しかし、女性には特有の健康課題が存在し、それらが仕事のパフォーマンスに影響することも少なくないわけです。昨今の女性活躍をさらに進めていく上で、そうした問題を避けては通れないでしょう」
女性の負担が大きい不妊治療や更年期症状に関しても、キャリアとの両立が難しい点だ。特に、一般的に管理職以上のポストにつく年齢と更年期が重なることも多く、昇進を提案された女性の半数が、辞退したことがあるとの調査結果も出ている(ホルモンケア推進プロジェクト「女性の体調と仕事に関する調査」2015年)。女性の健康課題を解決せずには、本当の意味で女性活躍を実現することはできないのだ。
さまざまな切り口から実現する、誰もが快適に働ける社会
女性がキャリアを切り拓いていくためには、まず自身が月経やホルモンとメンタルの関係などについての知識を得て、人によっては妊娠・出産計画なども含めたライフプランを、仕事面も加味して考える必要がある。
それと同時に企業もそのことを理解して、配慮したり応援したりすることが不可欠だ。鈴木社長は「経営・マネジメント層がしっかりと把握した上で、制度にしていくことが大切」だと強調する。
災害用レディースキットは、女性の衛生用品に特化した防災キットだ。
「3日分」「1日分」「ミニマムキット」の3種類がある。
例えば、従業員が相談可能な婦人科を紹介できる体制をつくる、女性の体やフェムテックについて学ぶ機会を提供していくといったことだ。
「一方で、男性側の制度も整えなければなりません。当社でも男性向けに1カ月間の育児休暇制度を導入し、100%取得を目指しています。そうした環境を整備した上で、誰もが自分で選択できることが大切で、さまざまな切り口から働きやすさとは何かを考えるべきです」
創業以来、オフィス周りの文具や家具、機器を中心に企業支援をしてきたオカモトヤだが、2022年7月に鈴木社長が就任すると同時に、女性の働く環境をサポートする新事業「Fellne(フェルネ)」をスタートした。
「私自身が働きながら妊娠・出産を経験したことで、誰もが安心して長く働ける環境の重要性を、身をもって感じたことがきっかけです。また、社長就任を機に、事業を引き継ぐだけでなく、これまで提供してきた価値を活かして、より社会に貢献できる新事業に取り組みたい、オフィスだけでなく働く人にフォーカスしていきたいという思いがありました」
現在、「災害用レディースキット」の販売や、フェムテック商品を福利厚生の一環で購入できる企業向けECサイトの構築、身体的性別を問わず快適に使える「オールジェンダートイレ」の開発など、「『働くひと』のミカタ」を掲げる同社はさまざまな角度から支援の幅を広げている。今後はフェムテックの大切さを訴求する展示会や研修などにも、力を入れていく予定だ。経営者としては、こうした時代の動きをキャッチし、誰もが快適に働ける社会の実現に向けて一歩踏み出さなくてはならない。
誰でもストレスなく使用できるよう、「気まずさの解消」に
挑戦したオールジェンダートイレ。入口と出口を分けて
「一方通行」にすることで、使用者同士が顔を合わせない。
機関誌そだとう214号記事から転載