“ひと”が集まる企業の秘訣

徹底した「社員第一主義」で、人財が育つ

~“五方良しの経営"で描く、もっとも大切にしたいこと……~

CASE③株式会社さくら住宅

 

「社員が長く働いてくれる理由は、創業者、先代社長のときから受け継がれている理念“リフォームを通じて社会や地域社会のお役に立つ”と“五方良しの経営”、“人を大切にする経営”を徹底している点にあると考えています」
こう語るのは、株式会社さくら住宅の小林久祉社長だ。

 

小林久祉社長

株式会社さくら住宅
主な事業内容:
住宅リフォーム・新築・増改築
本社所在地:
神奈川県横浜市
創業:
1997年
従業員数:
46人

 

同社は、神奈川県の横浜と湘南地域に密着した1997年創業のリフォーム会社である。競合他社も少なくない中、創業翌年以降25期連続で黒字を計上。社員数40名ほどのいわゆる中小企業でありながら、経済産業省の「先進的なリフォーム事業者表彰」や「日本でいちばん大切にしたい会社」審査委員会特別賞などを受賞しているほか、テレビ東京『カンブリア宮殿』でも「住民を幸せにする感動のリフォーム会社」として紹介された。

社員の定着率も高く、家庭の事情を除いた会社が原因の退職としては、過去5年間で2~3人しか辞めていないという同社だが、どのような秘訣があるのだろうか。
「私自身が一社員として働いていたときに感じていたことですが、社にいる全員が理念を理解することで、会社として目指す方向をみんなで共有できます。また、社員一人ひとりが理念に基づいた活動を日々実践するため、会社や仕事に誇りを持てるようになるのです。そこが、さくら住宅で働く意義につながっているのではないでしょうか」

 

LDKを全面的に改装した、リフォームの施工例(写真左)
夫婦がキッチンを中心に会話をしながら、快適に暮らせるつくりに。
この施工は、リフォームコンテストで受賞した(写真右)

 

さくら住宅が掲げる“五方良しの経営”とは、会社に関わるすべての人、具体的には①社員とその家族、②仕入先・外注先・協力企業の社員とその家族、③現在顧客と未来顧客、④地域住民、とりわけ障がい者など社会的弱者、⑤株主の「幸せづくり」を目指した経営のことだ。この中で一番大切にするのは、社員だと小林社長は続ける。
「社員がハッピーでなければ、顧客に尽くすことなどできません。お客様に満足していただきたいと思えば、まず社員の幸せづくりを追求することが大切です」

近年、顧客第一主義とともに社員第一主義を掲げる企業は少なくないが、同社はその徹底ぶりが際立っている。なかでもユニークな施策の1つが、「お客様株主制度」だろう。これは文字通り、さくら住宅の顧客が株主になる制度なのだが、お客様だけでなく、ほぼすべての社員が株主に名を連ねているという。
「株主ですから、社員にも株主総会に出席してもらっています。総会後はお客様株主と一緒に懇親会にも参加してもらうのですが、このとき、自身の業務では接していないお客様や協力会社の方からも、さくら住宅を褒めていただくことが結構あるようです。勤めている会社が評価を受ければうれしいですし、会社への愛着も自然と強くなっていくでしょう」

お客様が株主となれば、必然的に社員一人ひとりが「お客様にとっての良い会社」を意識することになる。これこそが、日々の業務において質を高めていくことにもつながっているのだ。

 

社員が上下に関係なく、オープンで風通しのよい雰囲気(写真左)。
株主総会では、お客様株主と社員株主が高級ホテルに集まり、懇親会で交流を深める(写真右)

 

実際にさくら住宅はお客様の評価が非常に高いリフォーム会社で、リピート率は7割に達するという。お客様から他のお客様を紹介してもらうことも多く、コロナ禍でも黒字を継続できたのは、こうした顧客との関係性の強さによるところが大きい。

そして、これほど高い支持を集める理由は、社員一人ひとりの誠実な対応に尽きるだろう。例えば、外れた雨どいの修繕など、他のリフォーム会社が敬遠するような小さな工事も率先して引き受ける。お客様から電話があれば、すぐに駆け付けるのも同社の特徴だ。
「創業以来、誠心誠意お客様と向き合ってきたおかげで、当社の社員がお客様のもとへすぐに伺うだけで喜んでいただけます。まだ、何もしていないのに、ですよ。社員は、こういったお客様の感謝や笑顔に触れるたび、仕事に対するモチベーションが高くなっていきます。このやりがいも、長く当社にいてくれる理由になっているのではないでしょうか」

モチベーションが上がる「ガラス張り経営」とは

お客様との関係性づくりだけでなく、さくら住宅は会社と社員との関係性づくりにも積極的に取り組んでいる。その1つが「ガラス張り経営」だ。月次で収支をすべて開示しており、どのくらい利益が出ているのかがひと目でわかるようになっている。社員にしてみれば、自分の成果が会社の経営にどれだけ貢献できているのか手に取るように把握できるため、励みになるだろう。

利益は可能な限り社員へ還元していく方針で、年によってボーナスは年4回。手当も充実しており、家族感謝手当や資格手当などのほか、1人目の子どもを生むと15万円、2人目は30万円、3人目ではなんと100万円が、出産祝い金として支給される。また、子どもを対象とした月5000円の習い事手当というものもあるそうだ。
「5000円出るならと、私も娘に空手を習わせてみたら気に入ったようで。空手は礼節を重んじるので、かなり礼儀正しくなりました。金額だけを見ると、たかが5000円かもしれませんが、習い事手当がなければ空手を学ばせてみようとは思わなかったので、貴重な機会につながったと感じています」

仕事のやりがいと社員が仕事に打ち込める環境の両方を整えることによって、それぞれのモチベーションが高まり、結果的に定着率向上につながっていることがよくわかる。

同社の定着率が高い理由はわかったが、なぜ、社員は理念を理解し、お客様のために誠心誠意動くことができるのだろうか。会社の考えや方針を社員一人ひとりに浸透させることこそ、もっとも重要、かつ難しいことだと感じている経営者も少なくないはずだ。その点について、小林社長は「人財育成に注力しているから」だと語る。
「長年継続しているのは、人を大切にする経営とはどのようなものかを学ぶ人財塾への参加です。毎月2日間、1年間にわたって行われるこの塾に、これまで7名ほど社員を送り出しています。ここでは、やり方よりも在り方を教えていて、人を大切にする経営の実例を目の当たりにしながら、学ぶことができるのです」

また、創業者である二宮生憲相談役が2018年3月に立ち上げた一般社団法人全国リフォーム合同会議も、社員育成に大きな効果を発揮しているという。

同社団法人は、リフォーム業界をより良い方向へ導きたいという思いを共有する、リフォーム会社28社によって構成されており、定期的に100名規模で集まって会議を実施。「少しでも社会のお役に立つ」ためには何ができるのか、何をすべきなのか、毎回テーマを設定して熱い議論が交わされているそうだ。
「この合同会議には、毎回、当社の社員も複数名参加しています。同じ目的を持った同業他社の社員や経営者と触れ合い、意見を交わし、さくら住宅の理念を共有することで、少しずつですが着実に、社員の中に当社の考え方が浸透していっていると感じています」

 

全国リフォーム合同会議の様子。日本全国からメンバーが集まり、熱い議論を交わす(写真左)。
お客様はもちろん、職人ともよい関係を構築し、工事の品質を高く保っている(写真右)

考える機会を提供し、社員の経営視点を養う

コロナ禍前は、同社の「さくらラウンジ」に全社員が集まり、さまざまなテーマで考えを共有する機会もあったという。例えば、「さくら住宅に欠けているものは何か」というお題を設定して話し合ったり、レポートを書いてもらったりもしていた。

一社員でありながら、自らが経営視点を持って会社の在り方を考える場を幾度も体験することで、会社や業務を自分事として考えるクセが育まれていったのだろう。
「お客様との距離の近さも、社員がさくら住宅の一員なのだと意識することにつながっています」

 

「さくらラウンジ」は地域交流の場としても開放している(写真左)
お客様と旅行に行く「さくらくらぶ海外ツアー」(写真右)

 

そもそも同社が横浜・湘南エリアに商圏を絞っているのは、すぐにお客様のもとへ駆け付けられる距離を前提に事業を行っているからだ。それだけ強いネットワークを構築できるわけだが、その半面、もしもお客様が不満や不安など、ネガティブな感情を抱いてしまったら、すぐ地域に広まっていくだろう。社員一人ひとりの一挙一動が、会社の評判や業績に直結しているといっても過言ではない。
「本来、家族や親せき、仲の良い友人など、近しい関係でない限り、部屋の中まで人を上げることはありません。でも、私たちは初対面でも仕事のために室内に上がり、何枚も写真を撮ります。そのため、お客様に不快な思いをさせないよう、礼儀については特に厳しく指導しています」

さらに、経営陣と社員の距離感を縮める工夫にも余念がない。小林社長は、各社員と1対1で30分以上じっくり話す時間を定期的に設けて、一人ひとりの本音を引き出す努力をしている。最初は社長相手に何を話せばいいかわからない様子の社員も、とりあえず30分は向き合う。すると、だんだんと思っていることが出てくるようになるそうだ。

受け継ぐべきDNA。強さと柔軟さが魅力に

2022年、同氏が社長に就任して、経営体制は刷新された。新しいさくら住宅のスタートだ。しかし、今後も同社が発展していくためには、変えるべきところは変え、変えてはいけないところはしっかり受け継いでいくことが重要だと小林社長は強調する。
「理念や五方良しの経営、お客様との距離感、対応のスピードと質は、絶対に変えません」

会社が受け継いでいくべきDNAといえるものについて、社員全員を集めて話し合ったときにも、こうしたキーワードが出てきたという。つまりこれは小林社長の信念であると同時に、社員の意志でもあるわけだ。こんなちょっとしたところにも、経営者が考えたことを押し付けるのではなく、社員一人ひとりが自分で思考することを重視する同社の姿勢が見て取れる。

その一方で、変わるべきだと考えていることについての対応は柔軟だ。労働時間の削減を目指して店舗の閉店時間を1時間早めたり、昨今の物価高騰を受けて、物価上昇手当を導入したりしているという。
「私たち昭和世代の考え方と、これからの未来を担っていく若手の考え方は異なる部分もあります。それはしっかりと受けとめ、育成方法や社内の仕組みに反映していくべきです。そのためにも、チームをまとめる立場にある社員には、心理的安全性など、重視すべき人財育成やマネジメントに関する研修を受けてもらいました」

 

 

変えてはいけないところと変えるべきところをしっかりと見極めながら、会社の仕組みをアジャストさせていく。強い芯がありつつも柔軟な経営スタンスが、会社の魅力をさらに高め、社員の定着を促進しているのは間違いない。

 

機関誌そだとう214号記事から転載

 

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