インクルーシブな「大家族経営」で一致団結
CASE①大和合金株式会社
大和合金株式会社は、高品質で少量多品種の「特殊銅合金」を開発・製造・加工・販売する会社だ。「製品を安く大量につくることも重要かもしれませんが、私たちはお客様の要望に合わせて、他社ではできない製品を開発して提案できるメーカーです。そのため、当社の製品は、レーシングカーやロケット、航空機などの特殊な性能を要求されるものに、幅広く使われています」
そう語るのは、同社の萩野源次郎社長だ。
萩野源次郎社長
- 主な事業内容:
- 特殊銅合金の生産・販売
- 本社所在地:
- 埼玉県入間郡
- 創業:
- 1941年
- 従業員数:
- 153人(グループ全体の合計)
大和合金は、同氏の祖父にあたる茂氏が、1941年に小さな町工場をつくったところからスタートしている。結晶微細化強力合金の「YGブロンズ」を開発し、自動車、航空機、軍関係などに採用された。1983年に萩野社長の父である茂雄氏が2代目社長に就任。人体に有害な可能性があるとされたベリリウム銅を含有せずに同じような特性を持つ「NC合金」を開発しつつ、特別な品質の銅合金を求めている国内の取引先を広く開拓した。そして現在、2012年に3代目となった萩野社長は、先代、先々代が築いた開発力、製造力、販売網を引き継ぎながら、海外も視野にさらなる販路拡大と飛躍を目指している。
1200℃を超える特殊銅合金の溶湯を、金型へ鋳造する
2023年2月現在、同社の社員は153人。平均年齢は41.7歳。定年後も働きたい人は何歳まででも働けるため、60歳以降も嘱託として在籍し続ける人が多い。65歳まで給料を減額されずに働けて、その後は毎年少しずつ減り、70歳で定年時の50%になると、それが辞めるまで続く。65歳以降は年金を受け取り始められることを考慮すると、合理的な仕組みだといえる。現在在籍する、最高齢の社員は88歳で、70歳以上が7人、66歳以上は14人いるそうだ。ベテラン社員は、若手社員を教育し、技術を継承してくれている。
「嘱託社員は、勤務時間と出勤する曜日を柔軟に決められるようにしています。しかし、シニア世代の社員は、いてもいなくてもいい存在ではありません。出社しているときは本気で働きますから、いないと仕事に穴が開いてしまいます」
一方、若手も女性社員も多く働き、さらには外国人社員が12人活躍中だ。このような多様性がある上、親子、兄弟、夫婦、友だち同士で社員というケースがたくさんあることも、大和合金の特徴である。いわゆる「リファラル採用」は、自社を理解している社員に友人や知人を紹介してもらうため、採用のミスマッチが起こりにくく、定着率の向上が期待できると最近注目されている。そんな言葉が一般化する前から、同社は長年、これを実践してきた。
「当社は、ハローワークや求人媒体などに募集広告を出していません。学校で就職活動を担当する先生が、当社の社風に合う生徒を紹介してくれたり、社員の伝手で家族や友だちが入ってきたり、人との縁で入社するケースがほとんどです」
そうして紹介された人は、会社として断りにくいのではないかという懸念もある。しかし萩野社長曰く、社員は責任を持って紹介してくれるし、もし困ったことがあれば一緒に対応してくれるから、大丈夫なのだそう。さらに、そのような採用体制で必要な人材が採れるのかという疑問に対して、萩野社長はこう答える。
「雰囲気や空気が合わない場合は断ることもありますが、入ってもらったら、その人にできる仕事を探して、やってもらえばいいわけです。できる人には負荷をかけてどんどん伸びてほしいと考えていますし、何が起きるかわからないから、みんなで助け合っていく雰囲気があります」
77歳の嘱託社員が、自身の技術を38歳の社員へ伝承する(写真左)。
また、2023年4月には70歳の嘱託社員の孫が入社し、大和合金初の3代目社員が誕生した(写真右)
外国人人材も積極採用。160人もの大家族
海外への販路拡大を目指す大和合金は、2016年から英語でビジネスをできる外国人人材の採用を積極的に始めた。会社に興味を持ってくれた人には、まず社内勉強会やインターンシップに参加してもらう。
「現場では、社員から生の声が聞けます。その上で同じような価値観を持った人は、入社したら気持ちよく働いてくれますから、社内の雰囲気を知ってもらうことは大切です。外国人でも、当社のように社内で飲み会や誕生会を行うアットホームな環境が好きな人もいて、採用につながります」
また、同社はJETプログラム(諸外国の若者を地方公務員などとして任用し、小・中学校で外国語やスポーツなどを教えたり、国際交流のために働く機会を提供したりする制度)で来日している外国人に、プログラム終了後の就職先として考えてもらえるよう、キャリアフェアにも参加している。
「JETプログラムで日本にきている人は、最長5年の任期が終わったら帰国してしまう場合が多いのですが、日本が好きで残りたいという希望を持っている人もいます。そういう方は会社の規模よりも仕事のおもしろさややりがいで判断してくれますから、大企業ではなくても就職先として検討してもらいやすい。採用してみると、外国人人材はとても前向きで優秀ですし、日本語が上手で目的意識が明確ですよ」
2016年入社の米国人女性社員は現在、主任として品質保証課で活躍中だ(写真上)。
JETプログラム参加者に向けて、キャリアフェアでは実際にJETから大和合金に入社した社員が
会社説明を実施(写真左下)し、自社でインターンシップも開催している(写真右下)
そんな大和合金は創業以来、大家族経営を掲げて成長してきた。
「2代目だった父は厳しい人でしたが、『社員はみんな家族だ』といって工場を回っては、その場で一人ひとりに声をかけ、健康や家族のことに気を配っていました。私もその意志を引き継ぎ、153人の社員は大きな家族だという感覚でいます。家族主義の風土を守りつつ、泥棒でも盗めない団結力、開発力、発想力を持っていたいですね」
実際、工場が泥棒に狙われたときは、社員が協力して盗難を未然に防いだというエピソードもある。
また、会社の文化や歴史を知らない若い社員により会社のことを理解してもらおうと、2017年に亡くなった先代社長である茂雄氏の語録集を作成し、配布するなどの工夫もしている。さらに萩野社長は、「生まれ変わっても、もう一度この会社で働きたいと思える会社にしたい」と語る。会社から社員の首を切ったことはこれまでに1度もない。一度辞めた社員を、もう一度受け入れることもある。2回出戻りしてきた人もいるという。まさに家族のような懐の深さ、温かさで、大和合金は社員にとって帰ってくる場所であり、守るべきホームなのだろう。
社内イベントの運営も、研修として効果を発揮
2023年4月には7人の新卒と3人の中途採用の社員を迎えた。入社後の社内育成について、同社では知識を修得する部分と精神面を鍛錬する部分があると考えている。
知識を修得する部分では、技術顧問や優れた研究者たちを招いて月例技術検討会を行っている。開発部門だけでなく、営業など他部門のメンバーも含め10~20人参加し、現場で起きた事象についてのアカデミックな見解を聞いたり、新しい製品をつくる上で困っていることを相談したりするのだ。加えて、社員たちが自主的な勉強会も開いている。
若手社員を対象とした、常務による早朝寺子屋勉強会の様子
「常務が始めた読書会がきっかけで、営業担当から製造部門に向けて何か疑問や質問がないか、という勉強会に発展しました。今では、製造、営業、女性など5つほどのテーマに分かれた勉強会があり、始業前の早朝やお昼の時間に自主的に集まって勉強会を行っています。あくまで参加は自由ですが、隣の部署ではどんな仕事が行われているのかを知る機会となり、横のつながりができることで現場の力を底上げしてくれているのです」
精神面の鍛錬では、「禅と論語の勉強会」を毎月1回開催し、人間力の向上を目指す機会としている。その他、外部の講習会やセミナーなどにも参加でき、全社員が対象だ。
希望する社員は大学や大学院に通うこともできる。これまでに3人が博士課程や修士課程に通い、学位を取得、その他9人が研究生として学び、会社へ戻ってきた。授業料は会社が負担し、在学中も給料を通常通り支払うだけでなく、通学状況に応じて業務の負担も軽くしてくれる。
社員同士の交流も盛んで、家族やパートナーも一緒に参加できる社員旅行や歓送迎会、暑気払い、忘年会などを行う。彼女を連れてくる男性社員や、社員の子どもだけでも遊びにくるというのだから、驚きだ。なかでも力を入れているのが、2012年から年に1~2回ほど、プロの演奏家を呼んで定期的に開催している音楽会。演奏終了後にはバーベキュー大会が開かれる。
「音楽会には社員やその家族だけでなく、地域の方々や社員OB・OG、仕入先の方なども呼んで、日頃のお礼も兼ねたイベントにしています」
音楽会は毎回、各部署から1名ずつが実行委員となり、即席のチームでイベントの企画をし、実施する。萩野社長は、これも社員研修の1つだと捉えている。
「企画は自由に考えてよく、音楽会の日にすべての結果が出ます。仕事ではまったく話をしない社員同士で意見を言い合って協力し実行するイベントは、成功するとうれしいし、失敗してもいい経験になるでしょう。そして、終わるとすっきりして、『楽しかった』となります。どこかの会場を貸し切ってやってもらい、社員がゲストになるだけではあまり成長しません。ホストになって取り組むと、『みんなが喜んでくれるのがうれしい』という崇高なレベルの愉悦を得ることができるのです。音楽会の運営を通して、社員にそのような喜びを感じてほしいと願っています」
なかなか現場の若手と融合を図ることが難しい50代以降の中途採用者でも、主催側として運営チームに入ってもらうと、意外と早く仲間になれるという。
人気漫画『孤独のグルメ』の原作者・久住昌之氏と、サックス奏者であるフクムラサトシ氏らを招いて演奏を聴いた、
第10回「みよし森の音楽会」(写真左)。
その後はBBQ大会を開き、社員の家族なども参加して楽しんだ(写真右、亡き先代の目線で撮影)
ストライクゾーンは、あえて幅広く構える
年齢を問わず、国籍を問わず、さまざまな面で社員想いの経営を展開する萩野社長は、人材戦略について次のように語る。
「これからますます少子化が進むと、人材の確保がさらに厳しくなるでしょう。私が感じているのは、中小企業は採用のストライクゾーンを広げるべきということです。幅広い人材を採って、育成する中で自社のカラーになじんでもらえばいいというのが当社の考え方です。中小企業には、いろいろな人がいる『大家族経営』が合っています」
そんな大和合金は現在、水素関係や3Dプリンティング、核融合など、さまざまな新しいテーマに挑戦している最中だ。
「当社は開発力、技術力を評価していただいている独自性のある会社だという自負はありますが、それほど規模が大きいわけではないため、常に危機感を持って新しいことにチャレンジし続けています。5年、10年かけてもあきらめない粘り強さが、当社のモットーです。難しいといわれる分野でも、1つずつ達成していきたいですね」
多様性のある社員が団結し、大家族として学び合い、高め合う。その力があれば、きっと実現してくれるに違いない。同社には、そう感じさせるパワーが溢れている。
機関誌そだとう214号記事から転載