地域中堅・中小企業の人材戦略実現に向けて
「地域の人事部」のご紹介
中堅・中小企業の経営課題として挙げられることの多い「人材不足」。今回はその解決策の1つとなる施策を、経済産業省地域経済産業グループ地域経済活性化戦略室の大森室長補佐から解説していただきます。
中堅・中小企業の抱える課題
人口減少下の日本において、人材確保は地域の中堅・中小企業にとって重要な課題です。中小企業の皆様に聞いたところ、重要と考える経営課題として「人材」を挙げる企業が約8割と最も多い一方で(図1)、地域未来牽引企業(地域経済への影響力が大きく成長性が見込まれるとともに、地域経済のバリューチェーンの中心的な担い手となっている企業)であったとしても、その約4割は、専任の人事・採用担当者が不在でした(図2)。また、人材マネジメントの課題として、「人材戦略が経営戦略に紐づいていない」ことを挙げる方が最も多く、3割を超える状況でした(図3)。
政府としての支援の方向性 ─「地域の人事部」について─
上記の課題に対応するため、地域の中堅・中小企業がその経営戦略を明確化するとともに、その実現を担う人材の獲得・育成について、域内企業が一体となって連携し、地元の自治体・金融機関等の関係機関とともに取り組む動きが、複数の地域で見られるようになりました。地域企業が合同で人材の採用や育成に取り組むことで、1社では限界のある取組の質の向上を図り、地域が一丸となって取り組むことで、地域全体の活力と魅力の向上につながることが期待されます。
そこで、経済産業省としても、令和4年度から、地域が一体となって、域内企業群の人材の獲得・育成・定着を支援する取組 ─「地域の人事部」─(図4)に対する補助事業を始めました。こうした取組を通じて、地域企業の経営戦略や人材要件の明確化を支援する機能の強化を図るとともに、大都市圏から地方への人の流れを促進する仕組みを構築することを目指しています。
「地域の人事部」に関する先行事例および取組事例
複数の企業が共同で人材の獲得・育成に取り組んだことで、1社では困難なチャレンジに成功した地域・企業があります。例えば宮城県石巻市では、漁師や水産加工会社が個社で人材の育成・研修制度を整えることは難しかったのですが、図5・左の取組により、自社のビジョンを共有して経営者とともに考え、行動する「右腕人材」を採用できました。このように、企業群が一体となってブランド力向上に取り組むことで、水産業全体の活性化や売上の向上を目指しています。
また、島根県安来(やすぎ)市では、たたら製鉄の技術をルーツとする「特殊鋼産業」が盛んであるところ、当該企業群と島根大学が連携して地域の専門人材や中核人材の採用・育成に向けた取組を始めました(図5・右)。島根大学の「次世代たたら協創センター」や2023年に新設予定の材料エネルギー学部と当該企業群が連携することで、地域の人材・技術ニーズを捉えた人材の育成を目指しています。
(大森室長補佐・談)
お問合せ先
「地域の人事部」に関心がある方は、経済産業省地域経済産業グループ地域経済活性化戦略室 大森、河野(03-3501-1697)までお気軽にご相談ください。
中小企業庁 事業環境部
調査室 調査係長
戸田健太
(2022年4月より当社から出向中)
機関誌そだとう213号記事から転載