投資先受賞企業レポート
「第39回 優秀経営者顕彰」優秀創業者賞

不退転の覚悟で、さらなる高みを目指して

倒産から始まった経営者人生……

ミツエイ株式会社

 

「絶対に諦めない。ダメだと思ったときが始まり。稲盛和夫さんをはじめ、これまで事業に成功した人が異口同音にいっているこの姿勢こそ、今日に至るまで、当社の事業が続いてきた理由の1つです」
そう語るのは、福島県いわき市に本社を置くミツエイを創業し、一代で大手メーカーに匹敵する生産量を誇る企業に発展させた安部徹社長だ。

 

安部 徹社長
1940年生まれ。クラレに勤務を経て、父の会社を引き継
ぐ形で経営者としての道をスタートする。2018年には経
済産業省より「地域未来牽引企業」に選定された。

ミツエイ株式会社
主な事業内容:
ハウスホールド製品および業務用製品、化粧品、医薬部外品の製造販売
本社所在地:
福島県いわき市
創業:
1969年
従業員数:
200名

 

同社の主力製品である漂白剤は、原料となる次亜塩素酸ソーダの保管や取り扱いが非常に難しい。容器の腐食などによる液漏れが発生し、消費者からのクレームも起こりやすい、いうなれば、メーカー泣かせの商材だ。単価が低いことも手伝って、生産から手を引く企業が続出したが、ミツエイは諦めることなく、工夫を重ねて製造を続け、「キッチンブリーチ」や次亜塩素酸ソーダを原料とする洗剤など、誰もがよく知る製品を長きにわたり提供している。

「ちょうど洗濯機が普及し始めて、白いシャツを洗うために漂白剤が使われ出した頃、クレームが頻出しました。けれども、当時、売り上げの80%を占めていた漂白剤の生産をやめることは、会社をたたむのと同じことです。だから、なんとか知恵を絞り、頑張るしかなかったんですよ」

10年以上もの月日をかけて、原料の適切な管理方法や、液漏れが発生しない容器の開発を進め、今に至る製造技術の礎を築いた。
「大手企業向けOEM製品を受注していましたから、厳しい品質管理が要求されたのです。その環境が、妥協しないものづくりの原点にあります。漂白剤は、製造自体は難しくはありませんが、事故やクレームにつながらないよう、品質を保つことがとにかく難しい。疑うことから始めるのが、当社の品質管理の基本です」

トライ&エラーを繰り返し、PDCAサイクルをまわす。少しでも油断して、それを疎かにすると、すぐに不具合が起きてしまうのだという。
「最初の頃は、夜、クレームが入る夢を見てうなされたことが、何度もありました。ほとんどトラウマ状態になっていましたね」
その経験から、安定的に製造できるようになった今でも、安部社長自ら現場に足を運んで、製造過程に不備がないかを必ず確認するそうだ。その徹底した現場主義もまた、同社が信頼され、右肩上がりで受注を増やしてきた理由でもあるのだろう。

塩素系漂白剤・洗浄剤、衣料用洗剤、柔軟剤、トイレタリー製品(ボディソープ、
ハンドソープ、シャンプー、コンディショナーなど)、アルコール製剤など、
多種多様な商品を展開している。

ワンストップで効率化。高品質を低価格で

ミツエイの特徴は、ボトル容器やキャップの成型から、洗剤の製造、充填、梱包、発送までをワンストップで手掛けている点だ。一貫して内製できる製造体制が整っているため、製品ごとの細かな仕様の違いにも対応でき、多くのメーカーからOEMの依頼が後を絶たない。製造ラインや倉庫の自動化など、製造工程の効率化にも注力している。それによってスケールメリットを最大化することで、高品質な製品を低価格で提供できるのだ。

「他社と、どこかちょっと違う部分を持っていること。それが企業の成功条件です。当社であれば、それはボトルの成型から携わって、同じものでもより安く、品質を担保してつくることができる点。そこに新しい技術や製品を生み出せる開発力が加われば、鬼に金棒ですよね。私は普段から、オールマイティの人間はいないけれど、企業はオールマイティでなくてはならないと考えています。だから、最近は研究開発にも積極的に力を入れているんです」

例えば、ボトルの成型に使用する金型の製造とメンテナンスは外注している。しかし、これらを内製化できれば、さらなるコスト削減と開発の自由度が高まるはずだと工作機械を導入。近い将来、金型製造を社内に取り込もうと、技術を積み重ねている。メンテナンス部分は、もうすでに社内で着手しているそうだ。
常に今よりもいいものを、効率的に低コストで製造するために、新しいことに絶えず挑戦する姿勢が、同社が成長し続けてきた背景にある。

1990年代にはベトナムへ進出し、現地に工場を構え、製造能力を強化した。本来、洗剤のような重くて安価な製品は、輸送コストを考えて地産地消の形をとるのが業界の常識だ。しかし、安部社長は、為替レートによっては利益が出ると考え、海外進出を決めたのだという。

自動生産ラインでは、ボトルの成型からでき上がった製品のパレット積みまでを
自動化。大量生産に対応し、安定した品質とコスト削減を実現した。

アグレッシブな戦略と、石橋を叩いて渡る経営

会社の成長スピード、成長規模から見ても、非常にアグレッシブな戦略を立ててきた印象を受けるが、同氏は「慎重な経営を心掛けています」と意外なスタンスだ。ミツエイは、安部社長の父が、プラスチックの再生事業を営んでいた会社の系譜がある。傾きかけた状態でその会社を引き継いだ安部社長は、半年後に倒産を経験した。そこからの再出発だったため、経営に関しては人一倍、慎重な姿勢を貫いてきたのだという。

「設備投資をするときは、今より25%以上売り上げが減っても大丈夫かを考えてから、用心深くやりますし、リスク分散を考えて、1つの企業に取引が集中しないように気を付けています。海外投資は売り上げの3%に留めておけとよくいわれますが、その通りです。ベトナム進出も、当初は1000万円もかけずに小さくスタートし、ステップバイステップで徐々に大きくしていきました。万事順調に進めばいいですが、もしダメになってしまっても、経営に影響が出ない費用感、規模感でやらないといけません」

常に最悪のケースを考え、石橋を叩いて渡るような経営方針。それが結果として会社にとって本当によいものだけを残し、壊れにくい組織の土台を築いている。だからこそ、たゆまぬ挑戦が実現できるのだ。

3分の1の成功方程式。利益追求と社会貢献

安部社長には、利益分配に関して「3分の1の法則」がある。これは、利益のうち30%を業務の合理化や設備投資に、30%を研究開発に、残りの30%を従業員への還元と内部留保に充てるというもの。この20年で、期末賞与が出なかった年は一度しかないという。

「当たり前だと思われたら困りますけども、物価が上がっているんだから、給料も上げなくちゃいけない」
そう笑いながら、従業員の暮らしを維持するのは会社の役割だという想いも口にする。ミツエイが掲げる経営理念は、「社会への貢献」「資質の向上」「利益の追求」の3つ。それほどまでにしっかりと利益を追い求める根底には、最初に倒産の辛さを経験したことと、従業員に対して果たすべき責任への真摯な気持ちがある。今回の優秀経営者顕彰「優秀創業者賞」受賞も、長い経営者人生における経験に裏打ちされた、確かな手腕によるものなのだ。

いわき本社の第一工場では、従来のハウスホールド製品を製造。
隣には、
主にトイレタリー製品を取り扱う第二工場もある。
写真は第一工場。

これからのさらなる発展を見据え、同社が現在取り組んでいるのは、トイレタリー製品の生産拡大だ。昨年3月には、本社工場内に化粧品製造の専用工場を増設した。シャンプーやボディソープなどの生産に力を入れ、これまで既存事業で培ってきた礎をもとに、市場に新しい風を吹かせようとしている。

また、環境問題などに配慮したサステナブルなビジネスのあり方も模索中だという。漂白剤の原料である次亜塩素酸ソーダは、製造する際に電解処理を行うため、大量の電気が必要となる。その電気を再生エネルギーでまかなうことができれば、環境対策につながるのではないかと、その方法を検討しているのだ。ほかにも、工場内で製造に使用する水をきれいにし、循環させるシステムを導入できないかと日々、リサーチや研究を重ねている。こうした取り組みも、利益があるからこそ、実現できるのだろう。

次々と新たな挑戦を続ける理由について、安部社長はこう語る。「人間は横着な生き物だから、目標がないと努力しないんですよ。私は今年で82歳になりましたが、常に新しい目標を持ち、前に進んでいます。もう少し、頑張らせてもらいますよ」

諦めないという強い気持ちと、現状に満足しない向上心。この2つがある限り、ミツエイの成長が止まることはない。同社から誕生する新しいトイレタリー製品が、洗剤と同じように家庭の定番商品となる日は、そう遠くなさそうだ。

 

東京中小企業投資育成へのメッセージ

50年ほどかけて、ようやく投資育成さんに目をかけてもらえる企業へと成長することができました。いつも「そだとう」を通して、さまざまな企業の情報を届けていただいていますが、多くの事例があり参考になっています。また、投資育成さんのネットワークを通じて、他社との協働にも取り組めたら幸いです。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第三部 主任
細川敦史

ふと、店頭で商品の裏を見てみると、ミツエイ様のお名前をよく拝見します。決して諦めないという“ミツエイ精神”が会社の成長を支えており、“企業はオールマイティであるべき”という安部社長の姿勢は、業界業種を問わず、経営の秘訣であると感じました。今後は、環境に配慮した工場運営を考えていらっしゃるとのことでしたので、ぜひ弊社ご利用の企業様ともつながり、実現していただきたいです。この度のご受賞、誠におめでとうございます!

機関誌そだとう212号記事から転載

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