投資先受賞企業レポート
「第39回 優秀経営者顕彰」青年経営者賞

光る独自性。先駆者になる目の付けどころ

一点特化の提案力は、他の追随を許さない

株式会社内池建設

 

「Googleで『倉庫』『建てる』に地名を加え、検索してみてください。広告を除いて、北海道の地名のほとんどでは、間違いなく当社がトップに表示されます。『東北』と入れても同様です。倉庫建築について、当社ほど専門性を強調した営業展開をしている企業はないからでしょう」
北海道室蘭市に本社を置く内池建設の内池秀敏社長は、自信を持ってそう語る。道内全域を主戦場とする同社は、売上の9割がゼネコン事業だ。商業施設、オフィス、公共施設や工場・倉庫など、手がける分野は幅広い。なかでも急成長を遂げているのが「戦略倉庫」である。2018年に1棟目を建築以来、わずか4年で同事業の収益は初年度の17倍、17億円を記録し、売上全体の半分を占めるまでに発展。施工実績も増え続け、現在20棟を超えている。

 

 

内池秀敏社長
1976年生まれ。99年、東京電機大学建築学科卒業後、
ナショナル住宅産業(現・パナソニックホームズ)を
経て、2005年に内池建設入社、07年に現職。一級建
築士、中小企業診断士の資格を持つ。

株式会社内池建設
主な事業内容:
建築工事、建築設計業務、土木工事、宅地建物取引業
本社所在地:
北海道室蘭市
創業:
1980年
従業員数:
54名

「そもそも、倉庫について専門の設計・施工部隊を持っているとPRするゼネコンや建築会社は、全国でもなかったんです。多くの企業はさまざまな建築を手がける中の1つという位置付けであり、倉庫に特化した会社は見たことがありませんでした」
たしかに、冒頭の話を受けて「倉庫」「建てる」で検索をかけると、地名を入れなくても、上から3番目に同社のホームページが出てくる。北海道という地場で展開する企業でありながら、“戦略倉庫”という独自ブランドの影響力は、圧倒的に強い。
「当社は、設計から施工まで一貫して自社で担い、収納する荷に対してどのような倉庫が理想的か、あるいはお客様にとってのメリットは何かを考え続けてきました。全国で見ても、倉庫に関する知見と実績はトップクラスだと思っています」

今や、内池建設を支える屋台骨となった戦略倉庫だが、通常の倉庫とは一体何が違うのだろうか。その特長は、他社と比べた場合の「高品質」「低コスト」「短納期」だという。さらに同社では、倉庫にとってもっとも重要な「床」「構造」「基礎」「外構(建物周辺の駐車場やアプローチなど)」の4つを徹底的に追求し、独自に設定した1000通りを超えるシミュレーションを用意した。
ただし、それだけでは、ここまでの大躍進はなかったかもしれない。何より強みとなっているのは、顧客の要望を叶えるために、数多くの選択肢から最適なパターンを見つけ出すことができる、提案力である。

ほんの小さな気付きが、大きな事業に伸びたわけ

門外漢からすると、倉庫はどれも同じに見えてしまう。しかし、実は扱う荷物の種類や量、建物自体の機能などによって、まったく違うのだ。
「例えば床1つとっても、バランスのいい耐荷重や表面の仕上げ方法はさまざまです。ノウハウの少ないゼネコンだと、コンクリートの上からタイルなどで化粧をしたがるでしょう。しかし、倉庫は基本的にコンクリートをむき出しにするので、その品質が求められる。外構でも、重いトラックで運ぶなら、アスファルトや路盤のつくり方からしっかり考えないといけません。そうした知見がない業者に頼んでしまい、床や路盤が沈んでしまったということは、よくある話なんです」

なるほど、倉庫という特定分野にフォーカスして積み上げてきた知見やノウハウが、他社との差別化においてどれだけ活きているかが、よくわかる。こうした着眼点と行動こそ、今回の優秀経営者顕彰「青年経営者賞」受賞につながっているのだろう。

戦略倉庫は、設計から施工までをワンストップでシステム管理する「システム建築」を
採用しており、効率的でわかりやすい。さらに、内池建設が協力会社との技術提携のもと
開発した「YE工法」で、平屋の大型倉庫で無柱大空間を実現させる。

内池建設が倉庫に注力することになったきっかけは、1棟目にある。同社を見つけ、問い合わせをしてきた施主に対して内池社長は「なぜ、うちに依頼されたのですか」と、率直な質問をぶつけたという。答えは、「倉庫と建築でネット検索したら、たまたま名前が出たから」だった。それを聞いた同氏は、なぜ自社が出てきたのかと不思議に感じる。今でこそウェブマーケティングにも力を入れているが、当時はまだ倉庫に特化していたわけでもなく、自社ホームページに何か打ち出していたわけでもない。考えた末に、ある結論へと辿り着いた。倉庫を積極的に打ち出している競合他社が、まったくいないことに気付いたのだ。でなければ、知名度が高いわけでも、実績があるわけでもない自社のサイトを見つけることはできないはずである。さらに、倉庫の需要動向について調べてみると、09年から建設工事の受注額が一貫して増えていることが判明した。ビジネスチャンスの発見だ。

「ECの発展などで、今後、さらに伸び続けることは間違いないと確信しました。その目論見通り、21年に拠点開設した仙台では、順調に戦略倉庫の受注が進み、2年目には早くも黒字化したのです。これを足掛かりに、東北はもちろん、近いうちに北関東まで広げていきたいですね。今期の売上は42億円を見込んでおり、30年には100億円も達成可能だと考えています」

背水の陣を好機と捉え、試行錯誤で突き進む

内池建設は、1980年に内池社長の父である眞人会長が室蘭市で創業した。「人の2倍働く」をモットーに掲げていた同氏は、一緒に立ち上げた仲間2人と朝から晩まで働きずくめだったという。その結果、地元では有力な建設会社へと成長した。内池社長は大学の建築学科を卒業後、東京の企業で6年間の勤務を経て、05年に内池建設へ入社。一級建築士の資格を持っていたが、経営についての勉強を兼ねて、中小企業診断士の資格も入社後に取得している。当時は、室蘭市での案件が仕事の中心であった。

顧客の要望にしっかり耳を傾け、
最適な提案をする様子。

「私が入社したとき、すでに札幌支店はありましたが、支店長が『黒字化など絶対に無理だ』と公言するような有様でした。それくらい、札幌という土地は難しかったのです。しかし、ここで手を打っておかなければ、将来的な当社の存亡危機につながりかねないと感じました。父とも話し合い、07年の社長就任と同時に、私自ら札幌支店に乗り込み、立て直しを図ることになります」
同氏が着任すると、支店長は顧客やスタッフを引き連れてあっさり辞めていったという。実に衝撃的な出来事であるが、内池社長は「まっさらなところから始められた」とポジティブに捉える。逆境に負けない、この胆力もまた、今回の受賞につながっているのかもしれない。

札幌市場での生き残りをかけて、さまざまな新事業に挑戦する。さらに、社内改革も実践していった。現在、同社では、従業員を支援する多くの制度が整備されているが、そのほとんどは内池社長によって考案されたものである。
「私は、会長の経営を否定するつもりはありません。むしろ、見ている方向は同じだと思っています。ただ、自分だからこそできることがあると信じ、新事業の立ち上げ、社内ルールの制定や仕組みづくりに取り組みました。組織として、財務や原価管理などの体制面も弱い。実際、すでに解決、償却済みですが、私が社長に就任する直前期に、管理体制不備による巨額不良債権が発生しています。父のカリスマ性に、役員も従業員も頼りすぎていたのです。そうした社内風土を、徹底的に改革しなければならないと考えました」

内池建設では表彰制度を設けており、
従業員からの投票で選出されるエフォ
ート賞や、もっとも優良な品質現場に
贈られるQCDS賞など、さまざまだ。

内池社長は、札幌で“内池”というブランドをつくるために、トライ&エラーを繰り返していく。注文住宅事業の強化やリフォーム事業、不動産事業への拡大、不動産検索サイトの構築などを手がけたものの、どれもあまり上手くいかなかった。
「不動産の検索サイトには自信があり、かなり力を入れて、1年続けてみたんです。しかし、ネットで『札幌』『不動産』とキーワード検索してみても、自社サービスはまったく表示されず、私ですら見つけることができない。それではお客様が辿り着くことは到底できないだろうと、事業継続を断念しました」

一見、失敗談のようだが、実はこの経験があったからこそ、倉庫建設を前面に押し出した宣伝をする競合他社がいないことに気付けたのである。ウェブマーケティングの難しさを、肌身に染みてわかっていた内池社長ならではの発見だったといえよう。そして、次に打ち出したのが「戦略倉庫」であり、今の成功へとつながっていく。この間、眞人会長は一言も口出しせず、内池社長に任せてくれていたという。

ただPRの重要性を理解していただけではなく、倉庫特化の独自性に気付いただけでもない。この2つの要素をあわせもっていたことで、他社にはない価値を顧客に提供できるようになったのだ。現在、自社ホームページには独自の記事を毎月3本ずつ掲載しているほか、戦略倉庫の実績を載せるなど、頻繁に更新を重ねることで、月1万人以上が訪れるほどの人気サイトとなっている。今では、こうした取り組みを真似する競合も少なくない。

幹部人材を育成し、会社は次のステージへ

こうした新事業展開とともに、社内制度や風土の改革も着実に進んでいた。象徴的なのは、16年に企業理念を見直し、「全従業員の物も心も共に豊かで幸せな日々を追求する」という文言を付け加えたことである。
「物は待遇であり、心は成長であるとして、従業員と仕事、会社のあり方を定義したのです。それに基づいて、さまざまな取り組みを実行しました。全社的な生産性向上のためには勤怠管理が重要だと考え、固定残業代を見直して1分単位で残業代を支払うように整備。また、工数当たりの利益管理、仕事の目標設定を明確にし、評価と紐付けました。これによって、働く全員が時間の意識を持つようになり、自然と残業が減りましたし、評価基準がはっきりしたので、給料も上がっていきました」

現に数字として、残業時間は大幅に削減されたのに、平均給与が25%も向上するという劇的な結果が出ている。実はこれにも、戦略倉庫の事業化が大きく関わっているのだ。知見とノウハウの積み重ねによって標準化を進めることで、コストカットを実現するとともに、現場監督や施工者の負担を軽減。さらに、自社で設計から施工までワンストップで担うため、工期をコントロールでき、結果的に短納期にもつながっているという。施主も、現場も、会社も、全ステークホルダーにとっての幸せを実現している。

そのほか、多くのユニークな社内制度も同社の特徴だ。例えば、一級建築士取得に意欲のある従業員に対し、金銭面や業務面で支援する「受験特待生制度」や、上司と部下が年に2回、キャリアプランや私生活面について1対1で本音を話し合う「1-1-2面接」、休憩時間および17時以降の残業時にお菓子食べ放題で頭を活性化する「NTG~脳に糖分あげて頑張ろう~」など、盛りだくさんである。なかでも「強育制度」は、従業員自らが3年事業計画書を作成し、内池社長が承認すれば事業リーダーとして任されるという制度で、社内の誰でも参加可能。上手く軌道に乗せれば、最短3年で事業部長になれるそうだ。現在、入社10年目の従業員が、女性に人気のアクセサリーブランドとコラボした新規事業を進めており、内池社長も「ひょっとしたら化けるかもしれない」と期待を寄せている。

仕切りが少なく、風通しのよい札幌オフィス。写真奥に写るのは、
従業員と同じ空間で仕事をする内池社長だ。こうした環境とユニー
クな社内制度によって、対話が生まれる。

同氏にとっては、今回の受賞で経営者として評価されたことに加え、会社、ひいては従業員が進化していると実感できたことが、何より誇りだという。
「経営者は孤独とよくいわれますが、誰も褒めてくれる人がいないからかもしれません(笑)。それを認めてくださったのはとても嬉しいですし、会長も喜んでくれました。これからは、全国主要都市に展開していきたいですが、そのためには各所を任せられる幹部が必要でしょう。仙台オフィスは30代の従業員に一任し、成功しましたが、彼のような人材をどんどん育てていきたいですね」
仙台を拠点に、道外でもすでに2棟の戦略倉庫を建築し、内池社長は「これなら関東地方でも勝負できる」と、自社の実力に自信を深めたと語る。狙うは全国制覇。ここからが、内池建設第2創業期の幕開けだ。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

中小企業は、外部の目が入ることで経営に緊張感が生まれるでしょう。当社でも投資育成さんにご参画いただくことで、私自身をはじめ、会社全体が引き締まり、とても感謝しています。また、道外進出するにあたっては、投資育成さんの知見や人脈がとても役立ちました。今後、私たちの成長には欠かせない、良きパートナーだと思っています。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第三部
上席部長代理 チームリーダー
飯田越史

このたびのご受賞、誠におめでとうございます! 内池社長の常に先を見据える姿勢や、従業員の能力を最大限に活かす仕組みづくりが、経営者として高く評価された結果だと思います。また、過去の失敗をバネにして「戦略倉庫」で大きく飛躍し、劇的な成長を遂げられたことも、会社全体を進化させることにつながったのではないでしょうか。さらなる発展に向けて、投資育成は今後も全力でサポートしてまいります。

機関誌そだとう211号記事から転載

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