早期の準備が次世代の更なる成長・発展へ
予定年齢に達するも、事業承継に悩む経営者の姿
図1は年代別に見た中小企業の経営者年齢の分布です。2000年に経営者年齢のピーク(最も多い層)が「50~54歳」であったのに対して、2015年には「65~69歳」となっています。2020年を見ると、これまでピークを形成していた世代が事業承継や廃業などにより経営者を引退し、経営者年齢の多い層が「60~64歳」、「65~69歳」、「70~74歳」に分散していることが分かります。
図2は、経営者の事業承継・廃業の予定年齢を確認したものです。これを見ると、4割以上の経営者が65歳から75歳未満の間に事業承継・廃業を予定していることが分かります。他方で図1のデータによれば、全体の4割以上の経営者がこの予定年齢に達しています。私見ですが、経営課題として認識しながらも、事業承継や廃業に関する準備になかなか着手できず、頭を悩ませている経営者が多くを占めているものと推察されます。この場合、外部の支援機関などへの相談や活用も含めて、まずは準備を早期に進める必要があると言えるでしょう。
親族内承継から親族外承継へ。後継候補者の意思確認を
図3は事業承継をした経営者の就任経緯を示したものです。これを見ると、同族承継の割合は近年減少しており、2020年は内部昇格と同水準となっています。事業承継の方法がこれまで主体であった親族への承継から、親族以外への承継にシフトしつつあることが分かります。
他方で、図4は後継者を選定する際の優先順位を確認したものです。優先順位1位で最も高いのは親族、次いで役員・従業員となっています。優先順位2位を見ると、役員・従業員が5割を超えており、また事業譲渡や売却を検討する企業も一定数存在することが分かります。多くの経営者がまず親族を第1候補として検討し、次いで役員・従業員、そして事業譲渡や売却なども検討している様子がうかがえます。また、図3の結果を踏まえると、必ずしも希望通りに親族への承継がかなわないケースも増えつつあると考えられます。早めに後継候補者の意思確認を進めていくことで、様々な選択肢を検討することが可能になると言えるのではないでしょうか。
単なる経営者交代でなく、成長・発展のための転換点
図5は後継者がいる企業に対して、承継方法別に事業承継の課題を確認したものです。これを見ると、外部招へいの場合には、「事業の将来性」や「近年の業績」、「従業員との関係維持」の割合が高くなっています。一方で、同族承継や内部昇格の場合には、「事業の将来性」の他、「後継者の経営力育成」や「後継者を補佐する人材の確保」といった人的側面に関する項目の割合が高くなっていることが見て取れます。
最後に、経営者の就任経緯別に、事業承継の意思を伝えられてから経営者に就任するまでの期間を確認します(図6)。同族承継の場合には「5年超」という割合が最も高くなっています。一方で、外部招へい・その他の場合は「半年未満」の割合が最も高くなっており、承継方法によって事業承継に向けた準備に充てられる期間に差があることが分かります。
今回の白書では、後継者の年齢や事業承継の方法などにかかわらず、総じて事業承継実施企業のパフォーマンスが同業種平均値を上回っていることが確認されています。また事例では、後継者が新たな販路の開拓や経営理念の再構築、経営を補佐する人材の育成などに意識的に取り組んでいること等もデータを交え紹介しています。
事業承継は単なる経営者交代ではなく、企業の更なる成長・発展のための転換点であると認識し、承継に向けた準備や承継後の経営に臨んでいくことが重要です。事業承継を通じて、我が国の中小企業が更なる成長・発展を遂げられることを祈念して、本稿の結びとしたいと思います。
※図表の出典はすべて2021年版中小企業白書
中小企業庁 事業環境部調査室 調査係長
鈴木崚
(2020年4月より当社から出向中)
機関誌そだとう209号記事から転載