在庫や設備は事業を支えるのか?
夢を叶える“ソフト型経営”成功法
大量の在庫や大きな設備は、売上増加やマーケットシェア拡大に役立たない。植物成分の抽出・分離精製技術を生かした、医薬品原薬、化粧品原料、健康食品素材、食品添加物などを製造・販売する株式会社常磐植物化学研究所は、在庫や設備に重きを置く経営から脱却し、経営再建を果たした企業だ。その功績が評価され、勇気ある経営大賞・優秀賞の受賞にいたった。
同社は1949年の創業以来、植物原料由来の成分抽出・精製のパイオニアとして業界をリードしていたが、販売力の弱さから同業他社に追い越され、中国の廉価製品にも市場を脅かされていた。現社長・立﨑仁氏の父で前社長の隆氏は、シェアを確保しようと大規模な設備投資に踏み切る。しかし、この判断がのちの経営危機へとつながったのだ。
立﨑 仁社長
- 主な事業内容:
- 医薬品・健康食品(機能性表示食品)・化粧品の原料の製造販売
- 本社所在地 :
- 千葉県佐倉市
- 創 業 :
- 1949年
- 従業員数 :
- 120名
立﨑仁氏が社長就任した10年、果実価格の下落と設備購入費が負担となり、常磐植物化学研究所は経営危機に陥っていた。約40億円の負債を抱え、債務超過で銀行管理下にある、どん底からのスタートだ。先代社長の失敗から学んだ立﨑氏は、売上増だけを目指す在庫・設備重視の「ハード型経営」から、人財、研究、技術開発を強みとする「ソフト型経営」に舵を切ると決意。反発する古参社員たちが退職していく中、改革を断行する。これぞ勇気ある経営だ。
自社の核を明確にし、逆境に打ち勝つ!
主力製品「ベネトロン®」(写真左)と、ベネト
ロン®を配合した機能性表示食品(写真中央・右)。
同氏は22億円分の原料・製品在庫を少しでも換金して資金を捻出、コスト削減や支払いサイトの長い会社との取引など、できることをすべて行い、返済を進めた。今回の受賞にいたるまでの地道で懸命な努力を、立﨑氏はこう語る。
「15年に父が急逝したときには、すでに15億円の返済が済んでいました。それでも、返済計画の度重なるリスケ申請で、銀行の対応はどんどん厳しくなっていきます。金融機関対応は社長である自分の仕事なんだと覚悟し、粘り強く交渉を続けました。その結果、シンジケートローンという形で22億円を調達することができたのです」
そんな苦しい中でも、人財を社内で育成する方針に切り替え、日本全国から博士クラスの学生を積極的に採用。現在は博士12名と薬剤師5名が在籍する、人財力と技術力の高い会社となった。また、立﨑氏本人も19年に博士号を取得。これは、亡くなった先代社長との約束でもあった。
「会社を立て直せなければ、実現不可能な夢でした。父との約束を果たすことができて、本当に幸せです」
新入社員には、販売につながる開発視点を常に持つよう、入社直後から教育しているという。その結果、同社の社員が生み出す研究成果は市場から高い評価を受け、業績はV字回復している。
経営戦略を抜本的に刷新する立﨑氏の勇気と、経営再建に追われる厳しい状況下でもぶれない姿勢、そして地道な努力が、会社を救ったのだ。
機関誌そだとう209号記事から転載