突然の社長就任でトラブル続出……。
起死回生! 殻を破る“新発想”とは
靴下に真っ向から向き合い、毎日なんとなく身につける「モノ」ではなく、「心地よさ」「喜び」といった感動を体験する「コト」に昇華させた企業がある。今回、勇気ある経営大賞・優秀賞を受賞した、砂山靴下株式会社だ。同社はただ靴下をつくるだけではなく、市場の最新動向を把握するためのモニタリングやマーケティング調査を欠かさない。さらに、多様な分野の専門家との共同開発も積極的に行う。これほどまでに徹底した商品開発をするようになったのは、砂山直樹社長が就任当初に経験した、苦い思い出がきっかけだ。
砂山直樹社長
- 主な事業内容:
- 美容・健康雑貨の企画、開発、製造
- 本社所在地 :
- 東京都葛飾区
- 創 業 :
- 1963年
- 従業員数 :
- 26名
2004年、前社長が病気で急逝し、常務を務めていた同氏が急遽、代表となった。ところが、後を継いで1週間のうちに、予想だにしないトラブルが次々と起きてしまう。金融機関からの貸し剥がしに始まり、協力工場からは完成前の製品を即時買い取るように要求され、さらには社員たちが次々と退職。砂山氏は当時のことを、こう振り返る。
「突然代表に就任した私には信頼も実績もなく、四面楚歌の状態でした。自分自身も会社も中途半端な戦略では絶対に通用しないと考え、覚悟を持って、企業として、社長としての信頼を得るために挑戦を始めました」
同時に、靴下業界も苦境に立たされていた。“素足”、“なま足ブーム”到来による需要減、安価な海外製品も流れ込み、競争激化。眠れない日々を過ごし、頭を悩ませていたという。しかし、この苦難を乗り越えたことがターニングポイントとなる。逆境の中で考え抜いたことが、現在も続く企業戦略の根幹となっているのだ。
事業の将来を見据え、3つの転換で市場開拓
シルクを使ったオーバーニーソックスは、寝ている間もムレにくく、
心地よくて快適な睡眠をサポートしてくれるという。
多様化するニーズに対応すべく、砂山氏は思い切った“3つの転換”に挑戦した。まずひとつめは、「戦略の転換」だ。それまで持っていた自社工場をたたみ、ファブレス化に舵を切った。ファブレスカンパニーは価格競争において不利だが、そんな弱みを強みに変える“逆張り”の発想がカギとなる。「靴下をはかなくなることで、足の悩みが増えてくるはず」という仮説を立て、フットケアアイテムの開発を進めたのだ。このときに「作る」から「創る」へと、付加価値の創造に軸足を移す。
そして、次に「時間軸の転換」を考えた。一般的に、靴下は「いってきます」から「ただいま」までの製品だというイメージがある。しかし、同氏はあえて「ただいま」から「おはよう」までに照準を絞り、疲労回復や美脚、健康などの新たな価値をつくり上げ、訴求した。
最後に行ったのが「定義の転換」である。砂山靴下の商品を、従来置かれていた肌着売り場から雑貨売り場に移動、さらにECサイトを強化し、購買層や価格帯を変えた。その結果、20年度の売上は、04年度比で4倍強にまで増える。
この社会情勢の変化を鋭敏に捉える砂山氏の飽くなき探究心が、この受賞の裏側にあるのだ。
機関誌そだとう209号記事から転載