経営者が、本筋の企業活動を推進し、
政府は、それを促す政策的支援をする
今こそ、王道の「官民関係」再構築を
東京中小企業投資育成株式会社
代表取締役社長
望月晴文
新年あけましておめでとうございます。
世界がコロナ禍といわれながら、はや二年が経過しました。我が国の水際対策は厳格で、相変わらず鎖国のような状況が続いています。その中でも、無観客での東京五輪決行、いろいろなイベントもほとんどが観客入場制限下で行われました。個人消費を始め国民総支出も停滞する中で、企業の業況は総じて大変苦しい状況にありました。
そのような社会状況の下で、政府も様々な形で財政支出を拡大し、苦境にあえぐ企業や個人を直接支える支援を行いました。確かに一見バラマキ支出の非難は避けがたいところではありますが、緊急事態下での措置としては相応の効果を上げ、パンデミック対応としては有意義なものであったと思います。
世界の中では感染再拡大の地域も散見されますが、我が国は昨年末にかけて第5波の収束が見られたところであります。この原因がわからないという専門家といわれる方もおられますが、何といってもワクチンの的確な普及と適切な感染対策の継続の効果のお陰に相違ないものといえるでしょう。新たな変異株の流行の兆しがあるなど、まだ再び感染拡大の懸念ももちろんありますが、引き続きワクチン追加接種を適切に行うとともに、日常の感染防止策を怠らないことがすべてであろうと思います。もちろん、政府および関係者の皆さんの努力により治療薬の早期開発、供給が必要なことは言うまでもありません。
そういう意味では主要先進国が、感染症対策は国の安全保障政策の一環であるとして、自国の対応力を強化していることは、今後の我が国の国家戦略として見習うべきものと思います。国産ワクチンや治療薬の開発は今や先進技術大国日本としては、官民挙げて対応すべき喫緊の課題だというべきでしょう。
さて新しい年を迎えて、もう一つの大きな課題は今や世界中の国々がコミットを余儀なくされているカーボンニュートラルへの対応です。2015年のCOP21で合意され、途上国も含む175か国と地域が参加したパリ協定は、昨年末のCOP26ではかなり多数の国が野心的といわれる目標にコミットするまで発展しました。
もちろん目標を立てることは重要なことではありますが、真に意味のあることにするためには具体的にどういう手段を用い、どういうプロセスで実現するのかという実行計画によります。次回以降のCOPは各国にその具体化を求めるものになるでしょう。注目しなければならないことは、その過程で国の経済運営も企業経営も当然大きな影響を受けることになるということです。
企業戦略作成にあたっては、COPの議論に耳を傾ける
脱炭素社会はエネルギーのつくり方、使い方が劇的に変わり、結果としてコスト構造も変化し、およそあらゆる業種が対応を迫られることになります。
厄介なことは、国によって目標が異なる場合には、業種により競争環境が不公平になる可能性もあるということです。当然、このような不公平を調整するための国境調整措置も必要になるでしょう。COPの議論というのは、それほどの広がりのあるものであるということを、企業戦略作成にあたって認識するべきものであると思います。
さて昨秋発足した岸田内閣の経済政策課題は、自ら設定した「新しい資本主義」を成長と分配の好循環によって実現することだとされております。第二次安倍内閣発足以来の金融・財政政策、いわゆる第一の矢・第二の矢は失われた20年という状況の下ではそれなりに局面打開をすることができ、かなり多くの企業に潤沢な利益をもたらしました。
しかしながら、構造改革を中心とした第三の矢は不発で、企業は内部留保をため込むばかりで真の発展のための成長戦略には必ずしも結び付きませんでした。その意味では岸田内閣の新しい資本主義というものに何か全く新しい魔術を期待するのは論理的ではないでしょう。もともと成長戦略あっての分配政策であり、安倍政権のときに企業の利益が自然にトリクルダウンで分配されると期待した新自由主義が不発だったということかもしれません。
企業経営者が企業活動の本筋で設備投資、研究開発投資、従業員への人材投資などをする、政府はそれを促す政策的支援をするという王道の官民の関係を再構築するべきでしょう。加えて、投資の向かうべき方向を「経済価値」「環境価値」「社会価値」という多角的価値に向けることができれば、「新しい資本主義」と銘打つことも意味のあるものになるはずです。
このことを新年の初夢にしたいと思います。皆様方にとって、本年が実り多き年になりますことを心からお祈り申し上げます。
機関誌そだとう209号記事から転載