企業成長を促す「従業員満足度向上」のススメ

人事制度改革で“自主性”を最大に!

~チャレンジ精神を応援して、選び、選ばれる関係を……~

CASE①株式会社デザインネットワーク

「与えられた仕事を受け身でやっているようではダメ!一人ひとりが会社の方向性を自分のやりたいこととすり合わせて、納得ずくで動いてこそ、両者が一緒に成長できるのです」

力強くこう語るのは、株式会社デザインネットワークの佐藤明人社長だ。同社は5年前から人事制度改革に着手。社員との「選び、選ばれる」関係づくりに取り組んでいる。

 

佐藤明人社長

株式会社デザインネットワーク
主な事業内容:
設計技術サービス、技術コンサルティング
本社所在地:
東京都千代田区
創業:
1995年
従業員数:
570名

“やらされ感”をなくし、自分で考えられるように

同社は、メーカーに設計・開発サービスを提供する技術系派遣・請負事業者。具体的には、顧客のプロジェクトに設計や開発の技術者を派遣する「技術者派遣」と、仕様をもらって設計・開発のアウトプットを提供する「請負」が主な事業になる。また、顧客が研究開発に困っていれば企画段階から支援したり、逆に企画だけがある顧客に対しては、協力企業と連携しメーカー機能まで提供することもある。ものづくりに関するあらゆるニーズに対応できる“柔軟性”は、同社の強みの一つだ。

もう一つの強みは“提案力”だ。一般的に派遣・請負事業者は、顧客の要望を受けて、その通りに業務をこなすことが多い。しかし、同社は顧客の要望を深掘りすることによってプラスアルファの提案を行い、差別化を図っている。

 

(左)中央にあるのが、眼鏡店の店舗内でメガネレンズの自動加工を実現した装置。同社の開発技術が活きている。
(右)同社が開発を支援した「ミニマルファブ」。以前は、大型施設のみで可能だった半導体製造を、省スペースでも行えるようにした。

 

「技術者を3人派遣してほしいというご依頼があったとします。そのご依頼の目的とお客様の環境や状況からもっと効果的、効率的な方法、例えば、お客様側の労務管理の負担を考えると、請負の方がいいケースもあります。請負だと目が届かなくて不安なら、先方へ社員1人を派遣して窓口となってもらい、あとは請負でもいいケースもあります」

派遣・請負事業者であっても、受け身に徹するのではなく、主体性を持って積極的に動いていく。同社ではそうした文化が根づいており、それが顧客満足につながっている。

主体性が根づいているのは、同社の設立経緯と無関係ではない。創業メンバー7人は、もともと大手技術系の派遣・請負事業者に在籍していたが、その会社では、お客様目線での仕事ができなかったり、本当に自分のやりたいことがやりにくい環境だったという。そこで「技術者が幸せになれる会社をつくりたい」という思いから1995年に独立・創業した。「挑戦したいという人たちがつくった会社なので、何かにチャレンジしたいと言えば、それを止めることもありません」と佐藤社長。

同社が重んじる主体性や自律性は、エンゲージメントを高める重要な要素の一つである。創業当初から一人ひとりが挑戦できる環境があり、社員のエンゲージメントは高かった。実際、流動性の高いこの業界において従業員の定着率は高い方だという。

では冒頭のように、なぜいま人事制度改革に取り組んでいるのか。

実は自慢だった定着率ではあったが、リーマンショックの影響で離職率が高まった時期を経験した。売上が落ちてもリストラをせず、賞与減額などで乗り切ったが、わずかな待遇の悪化を受けて辞めていく社員が多数出てしまった。

待遇が戻るにつれて状況は改善していったが、かつての水準には戻らなかった。その背景には、同社が成長を続ける裏で企業文化の変化が起きていたのである。
「創業から26年経ち、社員数は570人に増えました。新しい人が次々に入ってくると、どうしても自ら動く社員ばかりではなくなってしまう。自分で考えなければ“やらされ感”につながり、エンゲージメントも下がります。それが近年の課題でした」

人事制度改革に着手した理由は、企業文化の希薄化だけではない。より切実なのは、経営環境の変化だ。

技術者派遣の売上は「技術者の人数×稼働率×1人当たりの売上」で構成される。近年は、働き方改革の流れで派遣先での稼働時間が以前と比べて縮小。会社が成長を続けるには、人員を増やすか、1人当たりの単価を高めるしかない。これらを実現する手段のひとつとして、人事まわりの改革が欠かせなかったのだ。

会社が描くビジョンを自分事に受け止めるように

会社を成長させるためには、技術者1人当たりの提供価値を高めたい。具体策として佐藤社長が思い描いているのは、「ものづくりのコンサルティングファーム的な立ち位置になる」というビジョンだ。

同社はもともと、顧客のニーズに対してもっとも効果的な方法を考えて提案を行ってきた。だが、佐藤社長は、その方法は自社のリソースを使ったものに限らなくてもいいという。「当社を窓口に他社との協力も選択肢として、さまざまなリソースを使って最適なソリューションを作り出す。そこまで含めてコンサルティングできるような質的な変化を起こせれば、価値を上げられる」

従来の技術力に加え、顧客のニーズを読み解きながら、それに応える“コンサル力”を高めて顧客に喜んでもらえる存在になる──。重要なのは、このビジョンを社員に押し付けるのではなく、自分事として受け止めて、それぞれ自分なりに取り組んでもらうことだろう。

人事制度の改革では、評価制度も変えた。能力やスキルについて、一度身につけたら下がらない前提だったものをやめ、その人の“価値提供”に基づいて評価する。評価の透明性を高め、本人はもちろん、まわりからも結果を見えるようにした。さらに、目標を設定する際に、会社・部門・個人それぞれにとって有効かどうかを確認する。
「自分のためにすることが、会社のためにもなる。そんな、お互いが納得ずくで働ける環境をつくることが狙いなんです」

昇格についても、これまでの年功的な仕組みに加えて、コンサルティングとマネジメントの能力によって昇格する仕組みを追加したのだ。
「コンサルティング要素が強い役割やマネジメントとしての役割で活躍したい人は、新たな昇格審査にチャレンジすればいいし、これまで通り、年功が楽だという人はその領域で頑張ってくれればいい。あるいは、教育など設計開発以外の仕事に挑戦したり、自分で新規事業を立ち上げることもできる。さまざまなキャリアのつくり方を用意して、個人の価値観で選べるようにしました」

会社が目指すべき明確なビジョンがあり、一方で社員一人ひとりが主体的にキャリアを考えて選べる仕組みがある。この二つがかみ合ったとき、社員はビジョンを自分のものとして捉えられるようになる。

問題は、社員が自分の歩む道をどこまで主体的に考えられるかということ。そのサポート体制も整えた。「このキャリアを進むなら、こういうスキルや経験が必要で、どういう教育を受ければいいという全体像を、人財開発部が考えて提示しています」

そして、それを踏まえて現場の上長が社員との面談を実施し、今後の方向性を一緒に考えていく。

新人事制度は5年前から構想を練り、2年前からスタートした。いまも修正を加えている最中で、成果が出るのはこれからだ。

 

社員が人に紹介したくなる、相思相愛関係構築へ

一般的な技術者派遣の場合、派遣先での勤務が多く、自社の社員と交流する機会が少なく、会社への帰属意識は低くなりがちだ。それもあってか派遣・請負業界の流動性は、他の業種に比べて高い。

だが、デザインネットワークでは、以前から社員の帰属意識を高める施策を行ってきた。佐藤社長自身が拠点に出向く「社長懇親会」や、社員を定期的に集めて所長レベルのマネジャーが話す「労務懇親会」、年一回の「社員総会」などを開催して、多くの対面の機会をつくっている。

(上)毎年開かれる野球大会。名古屋や仙台など地方から参加するメンバーも多い。
(下)新入社員への研修。コミュニケーションが取りやすいよう、
ゲーム形式のグループワークを行っている。

社員が自発的に行うイベントも活発だ。たとえば、恒例となっている野球大会やスキーツアーは社員が主催。野球大会には、全国の各拠点から、100名を超える社員が集まる。「同好会も多いですよ。5人以上が集まって何かやりたいと言えば、ほぼ無条件で補助金を出します」

このように会社主導のオフィシャルなものから社員によるレクリエーションまで、同社は対面でコミュニケートする機会を積極的に設けることで、帰属意識を高めてきた。

「選ばれる会社の目安の一つは、社員からの人材紹介であるリファラル採用です。社員が『この会社で働いてよかった』と思えば、人材紹介は増える。近年は年間10人近い社員紹介がありますが、最終的には入社する全員がリファラル採用になるレベルを目指したいですね。イキイキと社員が働けば、おのずとお客様の満足も向上すると思います」

社員の働く意欲を刺激し、積極的に動くための制度をつくる。そして、それを見た人たちが次々と入社したくなる。会社と社員のWin-Winの関係を重視し、「ファーストコールカンパニー」を目指す同社は今後も成長を続けていくだろう。

機関誌そだとう208号記事から転載

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