2020年は、感染症の世界的流行に伴い、我が国経済には未曽有の事態が生じました。図1の通り、中小企業の売上高は、リーマン・ショック後及び東日本大震災後に大きく落ち込み、2013年第1四半期を底に横ばいが続きましたが、2016年半ばより増加傾向で推移していました。しかし2019年に入ると、米中貿易摩擦の影響による外需の落ち込みや消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減などの影響により減少傾向に転じ、2020年は感染症流行による経済社会活動の停滞により、売上高がさらに減少しています。

図2は業種別に2020年の年間売上高を比較したものです。これを見ると、感染症流行により、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業において前年の売上高を下回った企業の割合が特に高いことが見て取れます。一方、中小企業の設備投資は2020年に入り減少傾向となる半面で、感染症流行を契機としてソフトウエア投資比率は上昇傾向に転じています（図3）。

次に、資金調達の動向について見ていきましょう。中小企業向けの貸出残高は増加傾向(※1)にありましたが、感染症流行による影響を踏まえて大幅に増加しています。図4の通り、感染症流行後に調達した資金の使い道を確認すると、手元現預金の積み増しを回答する企業の割合が業種を問わず高いことが分かります。また、将来の不確実性に備えるため、安定的な事業継続のために必要と考える現預金水準も感染症流行後に高まっていることも確認されています(※2)。

このような状況下で、リーマン・ショック時の経験を生かした企業も存在します。3PL事業を主に展開する株式会社ミズ・バラエティー（静岡県富士市）は、過去の経験を踏まえ、財務指標などに基づく数値目標の設定と経営判断を徹底していたことで、感染症流行下において迅速な資金調達に成功。手元資金にさらに余裕が生まれたことで、マーケティング戦略の見直しや組織改革などに落ち着いて取り組まれています。
また、プラスチック射出成形用金型を製造・販売する株式会社明輝（神奈川県厚木市）は、景気回復後に向けて新規受注を増やす好機と捉え、工場の拡張や海外人材の登用によるグローバル化の推進などに取り組まれています。

我が国の倒産件数が30年ぶりの低水準(※3)となるなど大規模な支援策が講じられ、中小企業を取り巻く資金繰り環境は大きくは悪化していないものの、企業は将来の返済に向けて収益力の回復に取り組んでいく必要があります。前述の2社のようにポスト・コロナを見据え、中長期的な経営戦略の構築や新たな商機をつかんでいくことが重要と言えるのではないでしょうか。

では、感染症の影響を小さく抑えられた企業や、感染症流行下でも回復を遂げている企業にはどのような特徴が見られるのでしょうか。図5は感染症流行前における経営計画の見直し状況別に、感染症の影響を見たものです。

これを見ると、経営計画を十分に見直してきた企業の方が感染症の影響が小さいことが分かります。経営計画が足元の状況に即したものか点検することが重要であり、感染症流行下のような大きな事業環境変化にも強い可能性があると推察されます。感染症流行による事業環境の変化に対して柔軟な対応ができている企業ほど、2020年10－12月期時点の売上高が回復している企業の割合が高くなっており(※4)、事業領域や取組については柔軟な発想で見直しを進めていくことも重要と言えるでしょう。

感染症の影響により、中小企業を取り巻く環境は大きく変化し、企業経営にも甚大な影響が生じました。それぞれの中小企業が目指す姿は多種多様ですが、事業環境の変化を好機と捉え、自社の経営戦略を明確にすることは、いずれの企業にとっても重要かと思います。ポスト・コロナ時代を見据える読者の皆様にとって、本稿が参考となれば幸いです。

図表の出典はすべて2021年版中小企業白書
※1. 2021年版中小企業白書第2-1-43図
※2. 2021年版中小企業白書第2-1-50図
※3. 2021年版中小企業白書第1-1-36図
※4. 2021年版中小企業白書第2-1-95図

■中小企業庁HPでは、2021年版中小企業白書・小規模企業白書の全文や解説動画を掲載しています。ご関心のある皆様にはぜひご覧いただければ幸いです。

https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/

中小企業庁　事業環境部調査室　調査係長
鈴木崚
（2020年4月より当社から出向中）

機関誌そだとう207号記事から転載