投資先受賞企業レポート

取引先の高い要求に応え、同業者と協働、“横連携”で市場シェアを獲得

株式会社松浦製作所

新潟県新発田市に本社を置く精密板金加工専門会社・松浦製作所は、県内30社ほどの協力会社を取りまとめ、そのハブ企業として顧客に利便性を提供するとともに、地域経済、雇用の活性化へ大きな役割を果たしている。100年企業の実現を目指す同社の永岡繁樹社長にお話を伺った。

永岡繁樹社長
1972年生まれ。95年、日本大学卒業後、殖産銀行(現・きらやか銀行)入行。
2005年、松浦製作所に入社。取締役として財務や労務を担当し、15年に代表取締役社長就任。
20年、日刊工業新聞社「優秀経営者顕彰 地域社会貢献者賞」受賞。

 

株式会社松浦製作所
主な事業内容:
精密板金加工
本社所在地:
新潟県新発田市
創業:
1978年
従業員数:
80名

中小企業の経営者は一国一城の主だけに、同業者と横につながる連携体制を構築することは、そう簡単ではないことも多いはず。ところが、新潟県新発田市に本社を置く精密板金加工専門会社・松浦製作所は、県内30社ほどの協力会社を取りまとめ、そのハブ企業として顧客に利便性を提供するとともに、地域経済、雇用の活性化へ大きな役割を果たしている。

今回、優秀経営者顕彰「地域社会貢献者賞」の受賞理由にも、「同業者の横連携を強化し、周辺部品の生産管理を顧客企業に代わって担うシステムを構築。新潟県内の中小企業の受注率を高めている」とある。

精密板金加工専門。ATMや発券機に強み

同社の永岡繁樹社長(49歳)は、「横連携を狙ったわけではなく、創業者である先代社長(故・渡邉佐久二氏)の当時から『製造業=サービス業』を念頭に、お客様の要求へ真摯に対応する中で、結果としてハブ役、中継役となっただけ」と謙遜する。

しかし、現在では単品の注文よりも、同社の横連携を活用してワンストップで受注する案件が、全体で6割以上を占め、その納入部品数は数百件を超えるという。顧客や同業者との信頼関係がなければ成り立たないし、もちろん顧客の満足度が高くなければ案件が増えることはないはずだ。ここに謙遜ではなく、同社が地域の精密板金加工業を牽引している事実が表れているといえよう。

同社は、精密板金加工の専門会社として、主に大手電機・電子メーカーと直接取引をしている。その事業分野は三つだ。
まず第1がメカトロ機器分野。従来から、ATM・窓口端末・両替機など金融機関向け装置の内部機構(紙幣搬送部や金庫など)を得意としてきた。現在では発券機や券売機、通貨処理機などがメインとなっている。内部機構だけではなく、大型筐体の生産も行う。特に金融向け端末ではコンマ・ミリ単位の高い寸法精度が求められるという。

第2の航空機内装分野では、ギャレー(機内で飲食物の準備や簡単な調理をする場所)のカウンターやダストボックス、あるいはラバトリー(トイレ)の内側部品などを生産。航空機業界は管理面への要求水準が他の業界よりも高いが、同社はそれをクリアする。

「いつ誰がつくったのかなど、生産プロセスをトレースできる精細な記録が必要です。主要な取引先は定期的に工場を審査し、自社の認定工場とします。これら取引先の要求する認定水準は非常に高く、ISO9001(品質マネジメントシステムに関する国際規格)よりはるかに厳しい」

第3は医療機器分野で、人工心肺装置のタンク部品を生産し、その歴史は20年以上におよんでいる。

システム化と自動化を先代社長時代から加速

永岡社長に同社の強みを問うと、「加工精度と管理体制です」と即答した。
「加工精度については、特に“曲げ加工”が当社の強みで、複雑な形状のパーツづくりを得意としています」
通常、曲げ加工は、ベテラン職人の経験と勘に頼りがちだ。だが、同社は従業員の平均年齢が若いことから、曲げ工程をデジタル化することによって技術を伝承しつつ、効率化も図っている。

板金加工は仕上がりを想定し、どのように工程を組み立てるかがノウハウだ。同社では、そうした熟練技術もデジタル化して引き継がれており、取引先の組立現場からは定評を得ている。
「近年、紹介などで新規のお客様が増え、全売上の3割を占めていますが、『次もやってくれ』と、リピート率は高いです」と、永岡社長は笑顔を見せる。

先代社長の時代から最先端の生産機器導入や自動化に力を入れており、全自動曲げ加工システムやブランク(外形抜き加工)工程にも全自動マシンを導入。24時間連続運転できるようになっている。

(左)ロボットベンディングマシンから次加工を待つ部品。試作から量産まで一貫生産を行う。
(右)24時間自動稼働が可能なパンチ・レーザ複合機。マシンをネットワーク化することで、よりスピーディーな加工を実現している。

「もう一つの強みは、管理体制です。受注から生産、出荷まで、進捗状況をリアルタイムに把握する生産管理システムを、20年以上にわたって運用しており、お客様からの問い合わせへ即座に回答することが可能です」

工場内のパソコンやマシンを無線で一元ネットワーク化し、生産の迅速化を図っている。作業者一人ひとりがiPodを持ち、作業の案件内容、開始・完了などのデータを都度入力しているので、リアルタイム管理が可能なのだ。
これにより工程の負荷も見える化され、プロセスごとの滞留がないように俯瞰しながら目配りすることもできる。

このように、作業の自動化や効率化を進めたことと、後述する作業環境の安全性向上によって危険をともなう作業が少なくなり、従業員には女性の作業者も増えつつある。工場全館に空調を完備し、夏場でも快適に作業が可能だ。

「性別や経験を問わず、ここ数年は地域の若者を中心に、年に5~10人ずつ採用しています。女性の応募者が多く、かつ自然と増えており、現在、全従業員のうち約4割が女性です。働きやすいと口コミで広がった結果のようですね」

同社では社内旅行やクラブ活動も盛んで、風通しがいい社風だという。「人財」への積極投資で、「働く人たちに選ばれる会社」を目指していく、と永岡社長。

(左)高精度な加工品が多く、板金加工には知識、勘、コツが必要になる。
同社では熟練技術者の知識を伝承するだけではなく、データ化して共有し、効率化を図る。

(右)女性ならではのきめ細かい作業と配慮が加わることで、
よりよい製品づくりにつながっている。

創業者の信念を継ぎ、従業員安全と雇用に尽力

新潟県新発田市・月岡温泉にも近い
本社工場。働きやすさが口コミで
広がり、従業員の4割が女性という。

創業者の渡邉氏は「会社は公器」という強い信念を持ち、社名には創業当時の地域名を冠し、故郷の発展を志した。2015年に2代目社長として、永岡社長を指名。その永岡社長は、社長となる以前から創業者の信念を受け継ぎ、従業員の安全確保、職場環境の改善を進め、地域の雇用創出に尽力してきた。

労災事故防止のため、14年から順次、曲げ加工機全15台を安全装置付きとした。これは作業領域内に指などが入るとレーザーが検知、自動的に機械が止まる仕組みだ。「全台を入れ替えるのは業界でも珍しい」(永岡社長)という。

社長就任後は、若者の地域雇用を進めるため、新発田商工会議所主催のインターンシップ事業を通じて、地元学生に就業体験の場を提供。就任後5年間で30歳以下の若者を35人新規雇用している。

実は、同業者との横連携は、県内の雇用促進への貢献となっているのだ。一つの注文で、同社だけでは対応しきれない加工や表面処理などを、2~3の同業者に依頼できるからだ。
発注された会社は、管理費をかけずに、自社の技術力を広く県外へ売り込む機会が得られ、新たな雇用にもつながっていくというわけである。
「紹介などで出会い、現在、常時お願いしている協力会社が30社ほどになりました。取引先のさまざまな要求水準を維持するため、各会社と当社担当者が緊密に連携しながら、日々努力を積み重ねています」

他地域からの工場視察を積極的に
受け入れ、コミュニケ ーションを
とりながら情報交換を行う。

今回の地域社会貢献者賞受賞に際して「わがことのように喜んでくれた協力会社もいました」と、永岡社長はうれしそうだ。
「この賞は、社員と取引先、協力会社あってのものであり、本来は先代社長が受け取るべきものです」

そう語る永岡社長は、かつては銀行マンだった。当時、自行支店長の紹介で渡邉氏と出会い、松浦製作所の財務面などの相談を受けるうち、「もっといい会社にするためには、地盤固めが必要だ。あなたが自分でやってみたらどうか」と、氏から声をかけられたのだという。
「先代の創業社長として溢れんばかりのバイタリティーと、その魅力ある人柄に惹かれ、05年に入社を決意したのです」

当初こそ畑違いのビジネスに戸惑ったが、永岡社長は財務・労務面で渡邉氏をサポートし、社長就任後は、その遺志を守ってきた。
「先代との約束事を、一つひとつ丁寧に紐解きながら、まずは安心して働ける職場環境の提供、次に100年企業の実現です。まだ創業から43年ですので、もちろん私の代では無理ですけれども、永続企業をつくりたい、という創業者の思いは、次世代にもずっと、つなげていきたい」
それが恩返しだと永岡社長は信じている。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

入社後すぐ、出資を受けるための組織変更(有限→株式)を皮切りに、投資育成とは大切なパートナーとして二人三脚で歩んできました。節目節目で何度となくアドバイスを受け、時には鋭い指摘もいただき、緊張感を持って経営に生かしています。社長会など、別の業界トップたちとフランクに話し合える機会はとても貴重で、刺激になります。

投資育成担当者が紹介! この会社の魅力

業務第五部 上席部長代理
丹羽祐介

永岡社長のお話をうかがい、深く印象に残っていることは、今は亡き創業者の思いに正面から向き合い、その実現に向けて真摯に取り組んでおられることです。私にお手伝いできることは本当に限られておりますが、渡邉前社長が目標とした100年企業を目指される過程で、少しでもお役に立ちたいと考えておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。

機関誌そだとう207号記事から転載

経営に関するお役立ち資料を
お届けいたします

© Tokyo Small and Medium Business Investment & Consultation Co.,Ltd. All Rights Reserved.