プチプチも地球もサステナブルに!
「廃棄されるものを生産している」という葛藤
手に取ると、思わず「プチッ」と指で押しつぶしたくなる梱包材「プチプチ」。小さな丸の中に空気が密閉されたポリエチレン製のシートである。日本で初めてプチプチを生産した川上産業は、現在シェア60%を誇る。このトップ企業の製品は、約80%が再生原料を使用しているという事実には驚かされる。今でこそ、再生原料の高い使用率を誇る同社だが、ここに至るまでには大変な苦労と努力があったという。
「プチプチが主力の会社なので、大量につくって売るほど会社は潤います。しかし、リサイクルされずに使い捨てされやすい製品でもあります」と、入社後に抱いていた葛藤について、安永圭佑社長は語る。
「それに、つくる過程でも、廃棄する過程でも、地球温暖化に影響を与えるCO2を排出します。だからこそ環境に配慮した商品開発をしていかねばならない。先代社長からもそう教えられてきました」
川上産業は2001年からの長期方針を「環境改善企業」とし、商品に含まれる再生原料の割合を増やしていった。しかし再生プチプチは透明度が低く、顧客にクオリティを指摘されることもあった。それでも安永社長自身、日常生活の中で地球温暖化を感じ、「生産企業としての責任がある」との思いを強めたという。
そうした背景から、「再生原料を使ったプチプチ製造」と「使用済みプチプチの再利用」というリサイクルに本格的に着手。CSRやSDGsというと、事業とは別の活動と見られがちだが、川上産業は事業そのものを核にしたリサイクルによって、企業としての競争力を高めていった。
(左)「ここにある商品はどれも再生原料比率約8割です」と話してくれた川上産業の安永圭佑社長(中央)と、リサイクル事業部・坂本伸一部長(左)、総合デザイン部・佐藤浩司部長(右)。
(右)プチプチは川上産業内でも大活躍。主な用途は、部署間で精密機器などをやり取りする際の緩衝材だ。「使ったら回収ボックスへ。1週間ほどで満杯になりますよ」と、常務取締役でプチプチ文化研究所所長の杉山彩香さん。
「コスト」「技術」「品質」という三つの壁をクリア
「でも、実現するのは大変でした」と安永社長。同社の前に三つの壁が立ちはだかったのである。
第1の壁は、「再生原料はバージン原料に比べ高価」ということ。かつては競合他社も環境配慮を打ち出し、再生原料を求めたことがあった。しかし2008年のリーマンショックで原料価格が急落すると、コストを優先する会社はバージン原料に方向転換。一方、川上産業は方針をぶらさず、再生原料の購入を続けた。結果、再生原料メーカーからの信頼は高まったのだが、そうなると完成品も高コストにならざるを得ない。
「当然、高くてはシェアを奪われていたことでしょう。そこで納期の短縮化など、サービス面を充実させました。全国に事業所を配置している弊社の強みを活かした格好です。商品ラインアップが豊富で、多くのお客様とマッチングできたことも、コスト面での難しさをカバーできた一因だと思います」と安永社長は言う。
第2の壁は「技術的な難しさ」。安永社長によると、バージン原料は新品のプラスチックであるため“性格が真っすぐ”で、安定的に商品化できるが、再生原料は由来が雑多であるがゆえに“性格もさまざま”。原料に合わせてつくり方を変える必要があった。リサイクル事業部の坂本伸一部長は「それに対応できるよう、添加剤を的確に配合するレシピづくりや、何でも調理できる設備の改善に時間を要しました」と、料理にたとえながら、課題をクリアした様子を説明する。
第3の壁は「品質(色や見た目、風合い)が安定しない」。「お客様にも度々叱られ、特に営業は苦労しました」と安永社長は振り返るが、これについては2009年に発売した再生原料比率95%以上の「エコハーモニー」を例に説明しよう。正に有色の再生原料を使ったプチプチだ。
「透明の再生原料はいろいろな製品に使いやすく人気があります。しかし、色の付いた原料は敬遠されがちです。行き場を失ったこれら有色の再生原料をムダにせず、活用できないかと考えました」と安永社長は、他社が取り組まない領域にあえてチャレンジした思いを語る。
とはいえ「薄い青もあれば濃い青もできてしまい、当初は色が安定しませんでした」と、坂本部長。何度も試験を重ねて“レシピ開発”に挑んだ結果、どの工場で生産しても、さまざまな素材を常に安定的なプチプチに仕上げられるようになった。安永社長も「これは長年の研究の成果」と自負する。
総合デザイン部の佐藤浩司部長は「これらの課題を解決できたことが、他社にはできないわが社の強みです。『環境にいい商品』というと、『質は二の次』と思われるかもしれませんが、弊社では『質も一番』を目指して実現しました。これが、業種・業界を問わず幅広いお客様に選んでいただけている理由だと思います」と、自社の優位性を語る。
結果として再生原料使用によるコストアップではなく、同社含めバリューチェーン全体の付加価値向上につながり、三方よしを実現している。
パートナー企業と「ループリサイクル」を構築
こうして川上産業の再生原料比率は、ここ数年約80%前後で推移するまでになった。ただ課題も残る。その一つが、使用済みプチプチの再利用比率を上げることだ。
「プチプチはリサイクルできる資源と捉えられておらず、まずはリサイクルしてもらえる再生事業者を探すことから始めました」(安永社長)
担当者が電話帳を手に電話をかけ続け、アポイントがとれたら訪問し、交渉を重ねた。その過程で、回収物が資源化されず海外にわたることを目の当たりにし、生産企業としての責任を痛感。そこで国内で対処できるよう、社内で考え抜いてできたのが、「ループリサイクル」である。
2009年にスタートしたこの仕組みは、自社製品に限らず、顧客側で使用済みとなったプチプチやポリ袋を回収。それを再生業者が原料に加工し、そこから再び製品をつくり販売するという循環サイクルだ。
輸送によって発生するCO2を極力抑えるため、パートナーの再生業者は各工場の近隣で探し、現在全国の100社以上が協力している。
(右図)同社では、プチプチを大量に取り扱う顧客などに呼び掛け、「使用後は回収し、回収したら再生原料にする」というループリサイクルに取り組んでいる。
こうして仕組みを整えたが、プチプチはさまざまな場面で使われるため回収がなかなか進まず、また回収できても、分別したりラベルをはがしたりと手間がかかる。
「そのため、仕組みには賛同しても実行するのは難しいという企業が多いのが現実です」(安永社長)
回収率を高めるために注力しているのが、企業に「回収ボックス」の設置を提案することだ。運送会社など大量にプチプチを使用する企業が、すでに協力してくれている。
「昨今はSDGsの一環として環境意識の高い会社が増え、お問い合わせも多くあります」と、安永社長は今後、回収率が高まることを期待する。
(左)小学校の回収ボックスには、つぶすためのプチプチ「プッチンスカット」を用意。「家で出たプチプチを回収するついでに、プッチンスカットで遊んでもらって、遊び終えたらそれも回収ボックスへ」と、安永社長。
(右)従来リサイクルが困難とされてきたモノを資源として回収し、マテリアルリサイクルを可能にするテラサイクル・ジャパン合同会社とともに、容器回収ボックスを開発。2021年6月にスタートした「グラムビューティーク リサイクルプログラム」の回収ボックスとして本州・九州・四国の「イオン」「イオンスタイル」にて設置展開中。
「プラスチック循環」を国内につくることが夢
新型コロナのワクチン接種会場のため、
プラパールでできたパーティションを開発した。
環境に配慮した新商品開発にも積極的だ。例えば「バイオプチ」は、サトウキビ由来の原料を約15%配合することでCO2排出量を約5%削減。これはサトウキビの育成段階でCO2を吸収しているので、廃棄物として焼却される際のCO2の排出量が相殺されるエコな商品だ。
コロナ禍で注目されているのが「プラパール」。板状の硬いプチプチ層(空気層)を厚手のシートで挟んだ、軽くて強い段ボールのようなプラスチックボードだ。中間層は再生原料100%。耐久性や耐水性にすぐれ、東日本大震災の避難所では段ボール製の更衣室などに代わって活躍した。耐薬品性もあり、消毒用アルコールが付着しても劣化しない。
このため新型コロナのワクチン接種会場で、パーティションとしても活用されている。さらに空気層には防音効果があるため、テレワーク用の“防音ブース”としての開発要請も寄せられている。多方面の社会課題の解決につながる可能性を秘める、まさにSDGsを実現する商品だ。
安永社長には壮大な夢がある。
「ループリサイクルはプチプチに限った
ものですが、これをもっと普及させて、
あらゆるプラスチック製品の
リサイクル率を高めていきたいですね」
「事業を基点にしながら、その先に社会貢献できることがSDGsに取り組むメリット。そうして社会やお客様との関係が深まり、企業としても体力がつきます。何より大切なのは、自分たちだけがよければいいのではないということ。社員にも、そう言い続けています」(安永社長)
2020年6月には日本国内の廃プラの有効活用を目指し、リサイクル事業部を新設。プチプチ以外の再生プラスチック商品の開発に挑戦中だ。関連省庁や異業種企業との接点も増え、ループリサイクルの普及や新商品開発に弾みがつくことも期待される。「日本国内のプラスチック循環をつくること」。安永社長が掲げるその理想に、着実に近づいている。
川上産業株式会社
主な事業内容:プチプチ、プラパールの開発・製造・販売
本社所在地:東京都千代田区(東京本社)、愛知県名古屋市(名古屋本社)
社長:安永圭佑
従業員:488名
機関誌そだとう207号記事から転載