変化の時代を生き抜く「事業再構築」

付加価値増大は「隣接異業種」で!

~培った経験とノウハウを生かしながら、中堅建設・デベロッパーへと飛躍する~

CASE①株式会社竹徳

「蛻変」──。聞きなれない言葉だと思う。「ぜいへん」と読む。「蛻」は「もぬけ」、「蛻の殻」のもぬけだ。蛻変とは、蝉が卵を産み、幼虫になり、さなぎになり、羽化して成虫になっていく様をいう。そのつど脱皮を繰り返して、形を変化させるのでこういわれる。

この「蛻変の経営」を企業理念に掲げるのが、竹徳だ。今年創業116年を迎えた老舗企業である。5代目の鈴木康彦社長は、「企業という社会的生物も同じように、社会の変化に対応して自己変革、経営革新して何度も形を変えながら成長していかなければなりません」と説明する。鈴木社長は2001年に社長に就任。4代目と、2人続けての創業家以外のトップである。

 

鈴木康彦社長

株式会社竹徳
主な事業内容:
建築工事事業、不動産開発事業、不動産賃貸事業など
本社所在地:
東京都墨田区
創業:
1905年
従業員数:
44名

鈴木社長の言葉どおり、竹徳は時代とともに姿を変えてきた。祖業は社名にあるように竹材商卸業だった。そこから建設資材や建設現場で使う仮設用丸太を扱うようになり、さらに建設業者との直接取引を行い、仮設足場材を手がけて急成長する。その後は全国の電力・プラント建設工事用の仮設事務所・詰所(ベースキャンプ)建設工事に進出、中東をはじめ海外でも同工事を請け負うなど業容を拡大する。また、不動産賃貸業のほか、マンションや商業施設、オフィスビルなどの建築工事事業にも乗り出し、総合建設業(ゼネコン)へと発展した。

 

(左)社内に掲示している、企業理念「蛻変」の墨蹟(小林東五先生の揮毫に依る)。
創立から116年を超え、竹徳はさらなる上のステージへと「収斂進化」が続く。
(右)本社(左手前)には、同社の施工マンション2棟が隣接。うち1棟には保育園が入る。

さらなる成長のために新規事業の立ち上げを

こうしてビジネスを拡大しつつも、共通するのは、まったくの異業種に参入するのではなく、「隣接異業種」への展開である。

それは同社を大きく飛躍させることになった「不動産開発事業」でも同じだ。竹徳は100年を超える歴史の中で、多くの困難に見舞われてきた。近年では2008年のリーマンショックで大打撃を受ける。大手デベロッパーから受注予定だったマンション4物件のキャンセルが相次いだ。当時の売上高の約半分にも上る12億円が消失したという。鈴木社長は「まさに衝撃でした。受注に依存する怖さを痛感しました」と振り返る。これを契機に、新規事業の立ち上げに挑むことになる。

「当時、当社は民需に100%依存する中小ゼネコンとして、受注量確保のために、し烈な価格競争に明け暮れていました。しかし、『利益なき繁忙』を社員に強いるのは不健全で、士気の低下につながると感じていました。また、少子高齢化で建築市場が縮小していく中で、受注に依存しない新規事業の創出が課題となっていました。ベースキャンプ建設関連は収益の柱として安定していましたが、それだけではさらなる成長は望めません。今後どう生きていくべきなのかを模索しました」

たどり着いた答えが、「不動産開発事業」だった。建築請負で培ったノウハウを活用しつつ、不動産分野にも進出することで、より高い付加価値を生み出せると判断したのだ。

「隣接異業種である不動産と建築の融合でシナジー効果が期待できると考えました。不動産開発ビジネスは、土地を探して取得し、物件を企画、設計、施工して最終的に販売するというのが基本スキーム。当社は施工部分だけを請け負っていましたが、デベロッパーやマンション販売会社と接する中で、川上から川下への商流やその勘所を理解していました」

とはいえ、ビジネスのスキームを知っているのと、実際にやるのとではまったく異なり、苦戦を強いられる。まずは土地の仕込みである。不動産業界では新参者ゆえ優良物件の情報がなかなか入ってこない。見つけた土地も、同業者から横やりが入ってとん挫したこともある。

それでもどうにか土地を見つけ、企画、設計、施工、販売までの完璧な事業計画を練り上げたものの、さらなる難題が立ちはだかる。資金調達である。自前で土地を取得するとなると、金融機関からの融資が不可欠。銀行に事業計画を提出し融資を依頼したものの、断られたのだ。

「当時の支店長の言葉が脳裏にいまも残っています。『エクイティがな……』と言われたのです。自己資本が非常に薄いということです。確かに当時、当社の自己資本はわずかでしたから、そんな会社に6億とか8億とかは貸せない。新規事業で経験も実績もないわけですし。金融機関にすれば当然だと思います」

しかし、鈴木社長はあきらめなかった。別の金融機関に足を運ぶ中で、融資に応じてくれる銀行があった。

「その支店長は事業計画を見ると、出口(販売先)が決まっていて、事業成功の蓋然性があると高く評価してくれました」

一つの苦難を乗り越えると、新しい流れが生まれてくる

こうして最初の土地を取得できたのが2013年のこと。そして不動産開発事業シリーズ「VIRTUS(ヴィルトス) ※ラテン語で徳」の第1弾を翌2014年に竣工させた。これで流れが一変する。

「一つやり遂げると、業界に波及して土地情報などが入ってくるようになりました。販売会社からもお声がけいただくことが増え、最初は1社でしたが、いま10社以上と取引があります。金融機関の対応も柔軟になり、積極的に融資してくれるようになりました。最初に断られたメガバンクを含めて、現在は6行からプロジェクトファイナンスとして融資を受けています」

同社の最大の武器は、大手デベロッパーとは異なり、土地取得から商品化まで一貫対応でスピーディーに手がけられること。また、大手デベロッパーが手を出しにくい小規模物件にも積極的に取り組む。

「VIRTUS」は現在、第32弾まで増えた。うち20棟(693戸)は完成売却済みだ。会社の売上高も2012年2月期の21億5000万円から、2021年2月期は69億5000万円と3倍以上に拡大した。事業別で見ると、不動産開発事業関連が売上高全体の約2/3を占めるまでに成長した。

 

土地取得から商品化まで一貫して手がける同社の不動産開発事業シリーズ「VIRTUS(ヴィルトス)」。
2014年に第1弾を竣工、都心エリアで現在第32弾に増えている。
(左上から時計回りに)「江東東陽」「墨田江東橋」「菊川」「堀切」「白河」「駒沢」「向島」「緑」など。

 

また、「利益なき繁忙」ではなく、利益を重視する鈴木社長の経営方針は、数字にも表れている。同じ時期の経常利益は約3倍に増え、財務基盤も純資産が約9倍と強固になった。「自己資本比率はまだ不十分ですが、この2年で30%を超える目算を立てています」と鈴木社長は自信を示す。

単体で取り組むのではなく、パートナーとの協業を

さらに注目すべきは社員1人あたりの売上高であろう。会社の売上高が3倍以上に伸びた一方で、社員は10人ほど(約3割)しか増えていない。その結果、1人当たりの売上高は1億6000万円となり、並み居るスーパーゼネコンを抑え、「業界トップクラスだと自負しています」。

不動産開発事業成功の要因として、鈴木社長は「協業の精神でパートナーとして尊重し合う」ことを挙げる。

「単体で取り組むよりも、パートナー企業と協業したほうが、確実に成果が上がると考えています。協業といっても、単に仕事を発注するだけではなく、お互いに尊重し合って、一緒に同じ目的のために利益を追求することが大切です」

実際、同社は複数のプロジェクトを数年かけて配列を組んで進めており、それをパートナー企業に情報発信するので、協力企業も先を見通しながら安心して仕事ができるという。

「ぜひ一緒に仕事をさせていただきたいというアプローチも増えています。たとえば、建設業界では型枠大工さんや鉄筋工さんなど人手不足が問題ですが、当社はありがたいことにそういう困りごとはありません」

 

 

順調に業績拡大を続ける竹徳だが、鈴木社長は気を緩める気配がない。

「ゼネコンは売上高50億円が一つの壁といわれます。それをクリアしましたが、さらなる業績の拡大には、新たなビジネスの創出が不可欠です」

すでに動き出している。鈴木社長が新たなビジネス機会の創出と位置づけているのが、「不動産と金融を融合した不動産証券化」である。

「不動産開発の分野では現在、REIT(不動産投資信託)が活況を呈しています。販売会社は投資用マンションを個別で分譲するよりも、1棟丸ごとファンドに卸したほうがいいという発想に変わりつつあります。そうした中で、当社も私募REITの立ち上げから入っていこうと考えています。そこに物件を組み入れなければならないので、当社が所有する土地を物件ごとにSPC(特別目的会社)を設立し、当社がオリジネーターとして資産をSPCに譲渡する。土地を2年間所有しているよりも、SPCに譲渡することで短期間に資金的な負担がなくなります。かつ仕事は従来通りに行えます。現在そのスキームを組み立てて実現しようとしている段階で、すでに案件が一つ組成間近になっています」

さらにこのビジネスモデルによって、不動産開発事業の市場拡大が見込めるという。鈴木社長は、「投資用マンションは基本的に都内が条件になります。しかしREITの場合、都内外でも可能です。投資用マンションの市場とREITで卸せる物件の市場は異なるため、新たな市場に参入できるということです」と大きな期待を寄せる。

この新規ビジネスもまた、隣接異業種への参入にほかならない。

次のステージに向けて人材育成に注力する

現場で鉄筋の配置検査に立ち会う同社スタッフ。
文系出身の社員でも、興味があれば設計や
施工管理職を
目指せる環境を整えている。

事業拡大に向けて、竹徳は人材の採用と育成に力を入れている。リクルートを強化し、業界経験者などの中途採用のほか、新卒採用にも力を注ぐ。加えて、人材育成では講師を招いての勉強会や、1級建築施工管理技士をはじめとする各種資格の取得支援も積極的に行う。

100年を超えて「蛻変」を続けてきた竹徳。鈴木社長はさらに上のステージに挑むために、「収斂進化」という考えを掲げる。収斂進化とは、本来は違う種の生物であっても、生息する環境が同じならば、種の違いにかかわらず、同じような姿、形に進化することをいう。たとえば、サメ(魚類)とイルカ(哺乳類)のように系統の違う動物が、似たような体形を持つようになることである。

「同じように当社の社員も一人ひとり個性の違う人間の集まりですが、その個性を大切にしながらも、竹徳という会社の同じ環境の中で仕事をするうちに収斂していく、同じ形になっていく、同じ精神になっていく。上のステージに立つために、そういう組織を目指そうと思っています」

10年後、20年後……、竹徳はどんな姿になっているのであろうか。

機関誌そだとう207号記事から転載

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