投資先受賞企業レポート

"健康"と"豊かな食生活"の実現こそ使命!
ユーザーとの接点広げ「市場創出」

株式会社はくばく

「“大麦”の価値と可能性に早期から目を向け、大麦を軸に、雑穀などの独自の製品開発で健康市場を牽引してきた」との高評価を受け、グッドカンパニー大賞・優秀企業賞を受賞したのが、山梨県中央市に本社と工場を構えるはくばくだ。

長澤重俊社長

1966年生まれ。東京大学経済学部卒。
住友商事を経て92年、はくばく入社。
長く営業に携わり、取締役、常務、専務を経て
2003年4月、代表取締役社長に就任。
積極的に組織改革や社員の意識改革に取り組み、
「穀物の感動的価値創造」へ挑んでいる。

株式会社はくばく
主な事業内容:
精麦・雑穀・穀粉・乾麺類の製造・販売
所在地:
山梨県中央市
創立:
1941年
従業員数:
420名

主力商品の雑穀は、今でこそ500億円市場へと成長しているが、長澤重俊社長(54歳)が就任した2003年前後には、ほとんど認知されていなかった。だが、長澤社長は当時「雑穀マーケットが立ち上がりだす予感」がしたという。若い女性に人気のカフェで雑穀を使ったメニューが登場したり、同社に雑穀のプライベートブランド開発の話が持ち込まれたりし始めていたからだ。

知名度の低いニッチな商材ではあったが、それでも長年営業経験を積んできた長澤社長は、雑穀市場のわずかな変化から「間違いなく売れる」と感じていた。

大麦の提供が価値ではない。健康を届けることをこそ

代表的なヒット作「十六穀ごはん」「もち麦」
「丸粒麦茶」「ベビーうどん」など。
大麦・雑穀市場でシェア60%を誇る
はくばくの主力商品群。

しかし社内の意見は、そこに新規事業として取り組むべきか、自社のライバル商品として芽のうちに摘むべきか、二分されてしまう。

「はくばくは大麦の会社であり、そこに存在価値を見出している社員がかなりいたのです。50年来、独自開発した『白麦米(はくばくまい)』を原点に大麦市場をリードしてきたという誇りから、その先行市場を脅かす存在になるかもしれない雑穀は排除しよう、と。でも、私としては何としても挑戦したい。そんなとき、社員の意識改革に役立ったのがCI(コーポレート・アイデンティティ)活動でした」

企業の特徴や理念などを一から整理し、はくばくがユーザーに提供している価値とは何かを、社員たちと深く掘り下げていったのだと続ける。

「メーカーであるがゆえに、お客様に製造した商品を届けることが価値だと錯覚しがちですが、大切なのは“商品を届けることでお客様にどうなってほしいのか”ということです。私たちにとって、それは“健康と豊かな食生活の実現”のはず。そこを軸に考えれば、雑穀は体にいい食材であり、大麦と同じ穀類でもある。むしろ私たちが積極的に取り組むべき商品だと、CI活動で意識を転換することができたのです」

知るがゆえの限界を打破する

試作品を囲みディスカッションする製品開発や
マーケティングのメンバーと、麦茶・穀物茶を
検品するスタッフ。

しかし、いざ新規事業として取り組むと決まったものの、新たな壁が立ちはだかる。“雑穀はおいしくない”というイメージだ。

年配の人たちの中には雑穀を「鳥の餌」という人もおり、昔から家畜の餌に使われてきた食材だという印象が強かった。「何より、社内ですら『米よりも味は落ちる』と考える社員が多かったのです。これもメーカーの宿命でしょう。よく知っているからこそ、限界もわかった気になり、それ以上求めることを諦めてしまうのです」

ただ、先のCI活動を通じて、“お客様起点”で発想する習慣がつきつつあったため、“おいしさ”を追求する方向へ社員の意識がまとまりやすくなっていた。消費者にとっては、米であろうが雑穀であろうが、一食であることに違いはなく、当然、おいしいに越したことはない。

「メーカーとして提供価値を大切にするのであれば、おいしさは簡単に諦めていいものではないはずです」

そもそも、はくばくには積み重ねてきた成功体験がある。「おいしく食べやすい麦ご飯」を追求し、大麦粒の中央にある黒い筋(黒条線)を除去するための製造機械から自前で開発し、「白麦米」を世に送り出してきた。これが同社の事業成長の原点でもある。

こうしたモノづくりのDNAが、長澤社長のもと、雑穀の新商品開発で大いに発揮されることになった。まずは“飽きのこないおいしさ”を実現するため、香りや食感など“おいしさ”の構成要素を分解。さまざまな雑穀を単品種ごとに分析し、その配合割合を変えながら何百回と試作を繰り返して、最適解を探る。そして、ついに満足のいく試作品をつくり上げたのだ。さらに、その味を量産レベルで再現するため、ここでも製造機械には自社で知恵を出し合った。

社員に自分たちの会社について考えて
もらうためのインナーブランディング活動
「冒険会議」。
2020年は「気づきの壁」として、
「ありがとうの手紙」を社員の名前を書いた
封筒に入れ掲示した。

「店舗での販売にあたっては、雑穀の新たな売り場づくりから小売業者へ提案しました。麦はそれまで、かんぴょうなど農産乾物の棚の一番下に並べられていましたが、それではお客様の目にとまらない。そこで米関連の健康食品棚を企画し、お米の一段上に雑穀を置いてもらうように提案したのです」

広々とした空間に試作用のキッチンを備える
新東京オフィス(江東区木場)が、
2021年1月から稼働。
木場公園を見渡す眺望も社員に好評だ。

こうして06年に誕生した「おいしさ味わう十六穀ごはん」シリーズは、盛り上がりを見せた雑穀ブームをしっかりととらえることに成功。120億円前後で足踏みしていた同社売上は160億円を超えるまでに伸長したのである。

その他にも同社は、価格競争に陥っていた既存商品の市場に一石を投じる。例えば麦茶では、熱風式焙煎機でじっくり低温ローストすることで豊穣な味わいを引き出した「丸粒麦茶」や、豊かな風味を実現しつつも煮だしの煩わしさを省いた「水出しでおいしい麦茶」は、家で作る素朴な麦茶のイメージを覆すことに成功。また、高血圧に悩む中高年向けに塩分不使用の乾麺「塩分ゼロ」シリーズや、麺を2.5センチにカットした乳幼児向け離乳食「ベビーそうめん」シリーズが大ヒット。特に、ベビーそうめんは、中国でもヒットし、同社は同国内で子ども向け食品メーカーというポジションを築きつつあるという。

このように、同社では消費者ニーズを先取りした商品を矢継ぎ早に市場投入し、各市場での高いシェア獲得につなげている。

市場創造によって顧客との接点を拡大

十六穀ごはんブームから15年あまり。近年ではダイエット効果で注目を浴びた「もち麦」も急激に売上拡大するなど好調が続く同社は、今や売上は200億円を超え、大麦・雑穀市場で60%を超えるシェアを誇るリーディングカンパニーに成長した。だが、長澤社長は「乾物メーカーのままでは、この先、危うい」と危機感を抱く。どういうことだろうか?

「当社の雑穀や大麦商品は、ご飯に混ぜて炊くものです。しかし、自宅で調理をしない家庭が急増しているなど、ライフスタイルも大きく変化しています。これまでどおり“乾物を調理してください”、という方向性だけでは早晩、お客様に支持されなくなるはずです」

そこで、最近常に意識しているのが「市場創造」だという。足元で着手しているのが、“脱・乾物”だ。レトルトや冷凍食品、無菌包装米飯など、既存の大きな市場の中で麦や雑穀のサブカテゴリーをつくったり、外食や中食向けに加工原料を供給している。

「家庭で調理されるお客様以外との接点も広げ、より多くの方が麦や雑穀に触れる機会を創出して、気軽に食べられる環境をつくっていきたいと考えています。そのために、市場創造は欠かせません」

ただ、その実現には、さらにもう一段の意識改革が必要だという。

「結局のところ、当社は、現状ではまだまだ素材メーカーなのです。良い素材を開発して提供することには熱心ながら、当社の手を離れた後、お客様がどのように食べているのかという部分には無頓着でした。たとえ体に良いものでも、毎日ご飯に混ぜて食べるだけでは飽きてしまいます。だからこそ、大麦や雑穀を使ったレシピの提案などをすることによって、毎日食べてもらえるような努力をしなければなりません」

これまで同社があまり目を向けてこなかった領域にも目を向けていけば、新たな市場を生み出すヒントがつかめるはずだと長澤社長は考えているのだ。

すでにコンビニや外食チェーンへの原料供給は拡大するなど、市場創造は着実に成果を出している。しかし、それでも長澤社長は「道半ば」だと語る。

「日本人全員が、食物繊維含有量の豊富な大麦に目を向け、毎日摂取するようになれば、年間消費量は40万トンを超えます。さらに、日本食に注目する海外にも大麦を食べる文化を輸出することも可能でしょう。私たちが目指す世界は、まさにそこです。この目標をやりきるには、市場創造を一層進展させていく必要があります」

このあくなき挑戦心と、それを実現するための組織改革や意識改革が、はくばく成長の原動力なのだ。

東京中小企業投資育成へのメッセージ

東京中小企業投資育成様には株主として助けていただき、大変感謝しております。一定の距離を保って見守るスタンスをいつも頼もしく感じるとともに、投資育成を通じた企業や人のネットワークが思わぬ結びつきを生み出してくれることもあり、助かりますね。今はコロナ禍で行けませんが、また、非常に質の高いセミナーにも参加したいと思っています。楽しみです。

投資育成担当者が紹介!この会社の魅力

業務第四部
髙木菜月

長澤社長は、CI活動を通じて自社の提供価値を見つめ直すことで、役職員の意識改革に取り組んでこられました。その結果、社員が一丸となってさらなる穀物の可能性を追求し続け、市場創出を実現しています。穀物のリーディングカンパニーであるはくばくの思い入れが詰まった十六穀ごはん、皆さまもぜひお召し上がりください。また、セミナーへのご参加をお待ちしております。

機関誌そだとう206号記事から転載

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