当社投資先の受賞企業を紹介
~パッケージ池畠株式会社~
食品、医療、高級品。 高い管理レベルが求められる分野で活躍する紙器メーカー
あらゆる製品にパッケージは不可欠だが、パッケージ池畠の手がける製品は偽造防止や特殊加工など 高度な技術と設備を必要とするものが多い。食品と医療を中心に、取引先は上場企業が4割を占める。 品質管理、環境対応、安全対策には力を入れ、業界で先駆けてISO9001や労働安全衛生の規格も取得した。
パッケージづくりの駆け込み寺的な存在。少量多品種に対応
製品を包んで守り、その顔となるのがパッケージだ。売れ行きや企業のイメージにも大きく影響するパッケージづくりで、パッケージ池畠は業界の駆け込み寺的な存在である。
「当社の強みは少量で多種多様なパッケージに小回りよく対応できることです。大量生産品の取り扱いは少なく、偽造防止など技術的にも難しい多品種のパッケージづくりを行っています」
池畠美穂社長(52歳)は自信を持って語る。
同社のパッケージは業界では印刷紙器という。世の中には大小併せて数多くの印刷紙器メーカーがあるが、パッケージ池畠は高度な技術と設備に定評がある。売上げの4~5割が食品関連、2割が医療機器、残りはさまざまな工業製品のパッケージを扱っている。
食品は健康食品や贈答品などが中心で大量に出荷される食品はほとんど扱っていない。医療機器は注射針やカテーテルなどの消耗品だ。人の生命に関わるので、後述するように品質管理に対するこだわりは強い。
取引先は関東圏を中心に60~70社。売上げベースでは上場企業が4割を占める。残りも大手に準じた規模の企業が多く、取引関係も長い。
高級品を包むパッケージを依頼されることが多く、パッケージ印刷で偽造防止機能を求められることもある。取り扱い製品の3割が海外向けであり、海外のコピー商品と明確に差別化するためである。
同社工場では食品事業者と同レベルの衛生管理を行い、
現場では衛生帽子の着用を義務づけている。
写真は、型抜きしたパッケージを折って糊付けする
「グルアー加工」の作業風景。紙のサイズに合わせ、
ベルトの幅を調整・確認したのちラインに流す。
池畠社長の弟で生産部長の池畠哲郎氏(47歳)はこう語る。
「偽造防止には、例えば専用の材料と原版による箔押しなどが使われます。また、フタを開封すると元に戻らない改ざん防止などにも対応します。当社からお客様にアイデアを提案することが多いですね」
こうしたアイデア以外にも、パッケージの内部の仕切り構造や緩衝材代わりの構造、ワンステップで組立可能な形状的工夫、一度開封したら閉まらないようにしたり、分割しやすいようにしたり、さまざまな加工方法を提案し、それが同社のノウハウになっている。
特に同社の技術力を証明するのが「ハイビジョン印刷」である。20ミクロンの網点を再現し、従来の印刷に比べて2倍の解像度を持つ高精細印刷が可能だ。グラデーションの微妙な中間色を表現でき、モアレや線切れが起きない。これはデジタルデータから直接刷版を作るなど、システムと同社の技術者のノウハウで可能となった。
ある高級製品では偽造防止と美観を兼ねてハイビジョン印刷を活用し、中間色のきわめて多彩なグラデーション印刷を施した。
「そのお客様はどの紙器メーカーにも対応してもらえなくて、当社に問い合わせがありました。デザインを見たとき、私は無理だろうと思ったのですが、技術の課長ができるというので任せると、できてしまったのです。私の方が自社のレベルを過小評価していました」と、哲郎氏は笑う。
不良品を徹底排除。業界で3番目にISO9001取得
製造したパッケージは作業員の手で検品・梱包される。
同社では衛生管理と並び、品質管理でも厳格な基準を
定めており、不良率は徹底して抑えられている。
パッケージ池畠は海外向けの製品も扱う。特にヨーロッパでは環境負荷物質の規制があるので、パッケージに使用する材料の含有物質確認から行う。
近年、食品などのコンタミネーション(異物混入や汚染)を防止することが必要不可欠になっており、同社でも工場内を食品事業者向けの衛生管理手法であるHACCPに準じた防塵・防虫対策を施し、エアシャワーやエアカーテンを完備してエリア管理を行っている。室内は外部より気圧の高い陽圧状態を維持し、虫など異物の侵入を防止している。印刷会社としてみると、ここまで徹底管理している企業は珍しいだろう。
「消毒専門会社に定期的なモニタリングを依頼しており、現場の作業者は淡色の作業着と衛生帽子着用です。また、クリップやホチキスをはじめ私用のものも持ち込み不可で、筆記用具も自分の名前が入ったボールペンを1本だけ持ち込むことができるという社内規定を10年ほど前に作りました」と池畠社長は語る。
しかも、医療現場では赤系の汚れは、血液をイメージさせて嫌われるため、ボールペンもハンコも赤色は使わず、黒と緑の二色ペンで、ハンコも青インキを使うという徹底ぶりだ。
「中小企業は何に付けても取りこぼしが多いと思われますが、当社は取りこぼしのない1ランク上の企業を目指して、社員の意識や知識を向上させる努力をしてきました。当社のような受注生産の企業で収益を確保するにはとにかく不良品を作らないことに尽きます。当社起因の不良率はかなり減っていますが、まだ材料が原因の不良が起きることがあるので、手を抜かずに努力し続けたい」と池畠社長。
不良品の防止・排除を含めた品質管理の取り組みもまた徹底している。
同社は同業の中ではいち早く1997年にISO9002(品質マネジメントシステムの国際規格、2002年に9001に移行)を取得している。 「紙器メーカーの中では3番目ぐらい、審査機関の日本能率協会では業界第1号でした」(池畠社長)という。
「ちょうど現場では職人の勘と経験を数値化してマニュアル文書を作ろうとしていたときでした。父である先代社長(池畠毅充会長=2017年1月逝去)が苦労して推進しました。それまでは根っからの職人の世界でしたので、脱却したかったのだと思います」と哲郎氏は語る。
先代社長以来、 絶えず最新鋭の設備を投入し続ける
同社では営業部、制作部、総務部などをワンフロアに
集約し、情報共有しやすい社内環境を整えている。
社員の憩いの場として、一画に「中庭」も設けた。
脱職人体制を、ISOという道具を使って進めたのだろう。毅充氏は工場設備については絶えず最新鋭の機械を導入するのが常であり、印刷機もドイツのハイデルベルク製を入れている。
「息子から見ると、ちょっと背伸びをしたのではないかと思いますが、父は昔からヨーロッパやアジアを見て経営していました。いずれ海外との競合になると思っていたのでしょう。そのため、自動倉庫や自動搬送車もいち早く導入しました」と哲郎氏。
実は毅充氏は海外進出も早く、1987年頃には中国で合弁事業などを始めている。刷版や抜型の会社を数社立ち上げた。94年には上海に池畠商事を設立、現在、日本製の刃材をはじめとする印刷打抜関連資材の輸入販売を行い、右肩上がりで成長している。
現在地に同社が移転したのが2005年。この年、社長職を美穂氏が受け継いだ。3600平米という広い敷地の中には大型の立体倉庫があり、最新鋭の自動管理システムが導入されている。原材料や顧客からの預かり品を保管しており、自動的に搬出できる。
耐震設計も施され、東日本大震災では全2000パレットのうち転落はゼロ、パレット内で数個のパッケージが落ちた程度だという。
2006年には環境マネジメントシステムのISO14001も取得。ISOについて池畠社長はこう語る。
「導入、定着に時間がかかりましたが、導入したことによって何かトラブルが発生したときに短時間で原因を追及することができるようになりました。そのおかげで単純な不良が減り、助かっています。経営者ならその価値が分かるはずです。ただ、新しく入ってくる若い人はそれが当たり前になっているので、仕組みの維持がいかに大切なことか、意義を教えるようにしています。とはいえ、一段ランクアップしたところが当たり前になるのはうれしいことです」
これだけ気を遣って、仕組みを作っても不良は起こる。あるとき、複数の紙同士がくっついて箔押しの不良が発生した。これを機に、よりいっそう検査工程を充実させた。
哲郎氏も毅充氏の血を受け継いでいるだけに設備投資を惜しむことなく、全工程に検査機を導入した。画像処理による検査機を中心として全ての生産品が検査機を通るので、実質全量検品だ。「機械の投資額(機械金額)の2割が検査装置」(哲郎氏)というほどである。
「検査機がおカネを生むわけではありませんが、お客様の品質要求のスピードに合わせるよう、絶えず最新設備を入れるようにしています。検査装置については今後も充実を検討しています」と哲郎氏は語る。
工場の安全管理重視 印刷機にも最高の安全装置を導入
第35回優秀経営者顕彰で「女性経営者賞」を受賞した
池畠美穂社長。女性社長という点について、「珍しが
られますが、そのぶんお客様に一度で覚えてもらえる
点はメリットですね」と笑う。
品質だけでなく、工場内の安全管理にも同社は力を入れている。
労働安全衛生の国際規格「OHSAS(オーサス)」も取得。ISOではこれを元に2018年にISO45001として規格化した。「今や根性論で安全は維持できません。KYT(危険予知訓練)の講義を社外で受けて実践しています」と池畠社長。
3年前から毎月1回は丸1日かけて全社員の勉強と5Sの会を開催、設備・工具を点検したり、マニュアルの確認や見直しをしたりと、安全教育、5S活動に時間を使っている。
「OHSASを取得したのは、機械の安全装置などの知識を得るためでもありました。実は大手企業は印刷機に安全装置をオプションで付けて導入していますが、ほとんどの中小企業はコストがかかるので安全装置を入れていないのです。例えば、人が立ち入ったら機械を止め、作動できなくするエリアセンサーがあり、両足でペダルを踏んで、初めてロック解除して機械を動かせるほどヨーロッパの安全基準は厳しい。当社でも可能な限りヨーロッパ基準で安全装置を採用しています」と哲郎氏は語る。
これだけ設備にコストと手間をかけてきたが、まだまだその能力を使い切れていないと、池畠社長は惜しむ。
「お客様との関係をもっと緊密にして、付加価値の高いパッケージづくりをしなければなりません。そのためにはお客様の商品設計まで入り込むほどパートナーシップを深め、目的に合ったパッケージを提案できるようになることが大事です」
池畠社長は父、毅充氏の背中を見ながらも、自分らしい経営を心がけてきた。「社長職を継いでから苦しいと思ったことはない」と語る。
「父のように大きな方針を出して、グイグイ引っ張ることはできませんが、自分なりにできることを丁寧にやってきました。設備を効率よく使いこなし、ISOや安全管理、5Sを形骸化しないように心を配り、確かめもせずに承認することが決してないようにしてきました。その結果、無駄な動きはだいぶ減ってきて、生産効率は上がってきたと思います。今後はお客様とも社員ともコミュニケーションをより緊密にして、取りこぼしをしないようにしなければなりません」
今回、優秀経営者顕彰の女性経営者賞を受賞したことについて、「社長は外部から評価されることは少ないので、励みになる」と言う。女性経営者であることについて問うと、「一般に女性の方が堅実で確実。今は女性社長として苦労する面もあるが、早くそれが普通のことになってほしい」と語る。池畠社長の活躍が女性経営者を当たり前にする一助になるだろう。
機関誌そだとう196号から転載
Profile
池畠美穂社長 1965年生まれ。
成城大学法学研究科(修士)修了後、
1991年パッケージ池畠へ入社。
1993年に取締役、2005年に代表取締役就任。
主な事業内容:印刷紙器、クリアケースの企画・製造・販売など
所在地 :群馬県前橋市
資本金 :5000万円
創 立 :1913年
従業員数 :60名(うち正社員50名)
会社HP :http://www.p-ikehata.co.jp