深刻化する人手不足!
「設備投資で生産性向上」
55回目を迎える2018年版『中小企業白書』が閣議決定されました。今年は、中小企業において深刻化する人手不足や生産性の伸び悩みの現状などを分析するとともに、生産性向上に取り組む企業の事例を取り上げています。昨年版の倍以上となる68件の事例を取り上げ、経営者に具体的なヒントを提供することに注力した点は本白書の特徴といえます。今回は、中小企業の業況と課題、生産性の現状、そこから読み取れる設備投資の現状と、今後の設備投資の在り方についてお伝えします。
業況は改善、経常利益は過去最高水準で推移も……
まず、足元の景況感と経常利益の推移を見てみましょう。
図1および図2の通り、中小企業の業況判断は緩やかな改善傾向を示し、経常利益も統計開始以降、過去最高水準で推移するなど、中小企業の業況は改善傾向にあることが読み取れます。しかしながら、このように各種指標で改善・増加のトレンドが示されるなか、「中小企業における課題」はないのでしょうか?もちろん、答えは「否」です。それでは、何が課題なのかを、白書の調査データから見ていきましょう
「人手不足」は業種問わず深刻化
図3は業種別の人手不足感を見るための調査データです(従業員数過不足DIは、従業員の状況について「過剰」と答えた企業の割合から「不足」と答えた企業の割合を引いたもの)。2009年を境に総じてマイナス方向へ転じ、13年以降はすべての業種で「不足」と答えた企業が「過剰」と答えた企業を上回る状態が続いています。
また、図4からは「求人難」を経営上の問題点として挙げた企業の割合がここ数年、増加の一途を辿っていることが見て取れ、多くの中小企業において「人材不足」に対する問題意識が高まっているものと推察されます。
拡大する大企業との生産性の格差
その人手不足への対処方法の一つとして「生産性の向上」が挙げられますが、中小企業の生産性の現状はどうなっているでしょうか。
図5は企業規模別に見た労働生産性の推移です。中小企業の1人当たり労働生産性は一貫して横ばいが続いています。一方、大企業の1人当たり労働生産性を見ると、リーマン・ショック後の大きな落ち込みから総じて回復傾向にあり、中小企業との格差が09年以降は拡大傾向にあることが見受けられます。
また、の業種別での時間当たり労働生産性の水準を見ていただくと、中小企業は全業種において大企業に比べて労働生産性が低い、という現状が明らかとなっています。
さて、このような生産性の格差が生まれる要因は何でしょうか。
省力化や効率化投資で遅れる中小企業
中小企業の生産性が伸び悩み、大企業との格差が拡大する要因の一つとして、省力化や合理化を目的とした設備投資が大企業に比べて進んでいないことが挙げられます。図7は企業規模別に見た設備投資額の推移です。中小企業の設備投資は緩やかに伸びているものの、大企業との差は縮小しているとは言いにくい状況が現れています。また、図8の中小企業の設備投資スタンスに関する調査データでは、設備投資の目的は「維持更新」が最多、3カ年で見るとその回答割合が増加傾向にあり、他方で「省力化・合理化」は減少傾向にあることもうかがえます
「前向きな投資」を業況改善傾向のうちに
図9は、設備投資の有無別に労働生産性が向上した企業の割合を示したものです。当然とも言えますが、積極的な設備投資を実行した企業では労働生産性の変化を実感しており、特に省力化投資の効果が最も高くなっています。政府は、「生産性革命」を実現させるべく、昨年12月に「新しい経済政策パッケージ」(注)を取りまとめました。
その中では、生産性向上を目的とする設備投資に対して、税制・金融支援や補助金などの各種支援制度が用意される方針です。中小企業においては、人口急減や少子化、超高齢化といった社会問題に立ち向かい、海外も含めた競争に勝ち残るためにも生産性の向上は不可避。業況が改善傾向にある今こそ、厳しい未来も想定しつつ前向きな投資計画を練り、早期に実行することをご検討されてみてはいかがでしょうか。
(注):2017年12月8日に閣議決定された。少子高齢化という最大の壁に立ち向かうため、生産性革命と人づくり革命を両輪として、20年に向けてさまざまな取り組みを行っていくとされている。
機関誌そだとう196号から転載