支援事例
幹部育成にも即効! マネジメントの“処方箋”

株式会社エーエス

森 明広社長

主な事業内容:防振・防音・免震装置などの設計・製造・販売など
本社所在地:東京都墨田区
創業:1978年
従業員:60名

 

「参加した2日間、社員4人でじっくり話し合って経営への意識が変わりました。自分の部門だけではなく、会社全体を考えるようになったのです」
投資育成「経営ドック」をこう語るのは、エーエスの森明広社長(53歳)だ。参加したのは2018年、自身が営業本部長のとき。当時の社長だった早川政光会長が、森社長へのバトンタッチを考えて、次代を担う3人の課長とともに送り込んだのだ。

経営ドックは、投資育成が投資先企業の経営陣数名とともに丸2日間、その企業の問題点や今後の経営方針について検討し、アクションプランに落とし込むまでの機会を提供するサービス。
だが、参加した当時も現在も、エーエスの業績が悪化していたわけではない。むしろ好調であり、経営ドックによる経営状況の分析レポートでも4段階のうち「B」の評点を獲得している。
「企業の平均寿命は30年という説がありますが、当社でも創業から40年を迎え、製品や人材が一巡し、業務のマンネリ化、ベテランの退職などといった問題を抱えていたのです。評点Bながら、レポートでは『安定的な収益基盤への転換期』と指摘されていました」

自社の“強み”だけに頼らない経営体質を

だが“マンネリズム”と森社長が表現する面はあったにせよ、その製品力は強く、常に取引先からの信頼は厚い。
同社の主力製品は防振や防音、免震装置である。創業以来、プレス機用の防振装置から培った技術を発展させてきた。プレス機から発生する振動は、工場の敷地境界線を越えた場所で規制値を超えてはいけないという法規制がある。また、機械から発生する騒音に対しても法規制があり、それらの制約に最適化した技術を提供している。

免震システムの仕組み。
傾斜したレ ール上の車輪が、縦方向と
横方向へ振り子のように移動することで
地震の揺れを吸収・減衰する。

高い技術力から、プレスメーカーや自動車メーカーなどとの取引が増えた。特に大手自動車メーカーの海外戦略に応じて日本のみならずインド、中国、北米など、海外にも多数の実績を持つ。

さらに、長年の研究成果として生まれたのが免震装置「ASTCR」。大きな揺れを1/8程度まで抑えることができ、シンプルな構造でメンテナンスフリーという特長がある。
「通常の免震装置は、揺れを止めるブレーキとしてダンパーやバネを使います。当社製品は、傾斜の付いたレール上の車輪が重力で戻ろうとする振り子の原理と、その車輪・車軸の回転摩擦力を応用したもので、搭載物の重量依存がなく、扱いが簡単なのです」

国立西洋美術館(東京・上野)の
エントランスにあるロダン作「考える人」。
この像の台座にも、エーエスの免震システムが
施されている。

その特許技術は、阪神・淡路大震災の翌年に生まれた。当時、東京国立博物館が重要文化財への震災対策として免震装置の導入を検討し、大手ゼネコンなど20社に対して技術コンペを実施。まだ実績のなかったエーエスが大手を抑えて勝ち抜く。1996年には同館に350台の免震装置を納入。続いて国内美術館・博物館にも次々導入され、現在までに1万5000台出荷し、最盛期はシェア8割を占めた(現在6割)。

その後、ASTCRはサーバーラック、2009年からは半導体製造装置にも採用され、11年の東日本大震災でその効果を発揮。14年以降は海外にも展開され、重要な機器などを守る装置として売上を伸ばす。いまや同社売上の6割近くを占めるほどに成長した。

当事者意識が育ち、行動へと結びつくように

主力製品の一つ、工場内に設置された大型防音
システム。騒音特性に応じた防音対策のため、
調査、設計、効果確認まで一貫して対応。

しかし、森社長はこうした製品力にあぐらをかくことなく、19年の社長就任後、20年2月にも経営ドックに部下4人を送り込んでいる。当時、1人は部長、3人は課長だった。

「私が参加したときの仲間3人は、経営ドック参加後、それぞれの経営への当事者意識が高まり、数年前から導入した目標管理制度の推進役となりました。うち1人は、いま生産本部長になっています。当社は非同族承継を行っているため、カリスマ的に会社を牽引する人材よりも、経営者目線を持って、チームで経営を行っていける社員を育てる必要があります。だから小さな積み重ねを続け、社員1人ひとりが成長して、自分で課題に気づいて考え、行動を起こすようになってほしい。今回、参加した4人にも当事者意識を持ち、周囲を巻き込んで、会社をもっと強くしていってほしいと期待しています」

森社長の期待に応えて、2回目の経営ドック参加組は全員部長に昇進し、強烈なリーダーシップを発揮している。
「以前は部門方針の立案にも四苦八苦していた部長が、いまは高い熱量で動いてくれています。管理職だけではなく、社員も変わりました。昔は古い名刺交換先を当たり直す程度だったものが、自ら営業方法を決めて新規顧客を開拓するようになるなど、大きな進歩を感じています」

経営ドックは人間ドックと同じで、第三者の目で会社の病気や経営の悪いところを見つけてもらういい機会だと森社長は言う。
「参加者のモチベーションも上がりますしね。2年に1度は社員を経営ドックに参加させたいと思っているんです」
森社長の意図する自発的組織に向かい、着実に進化しているようだ。

 

機関誌そだとう207号記事から転載

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