支援事例
投資育成がご提供する支援サービス 利用者の声
投資育成経営ドック編
鈴木治作株式会社
鈴木謙三 社長
本社所在地 :東京都千代田区
主な事業内容 :ステンレス鋼などの各種バルブ・継手などの販売
創 業 :1922年
従業員 :149名
経営ドックでDランク!「ぬるま湯」からの脱却を図る
「評価は最高ランクのAとは言わないが、少なくともBくらいだろうと高をくくっていたら、なんと最低のDだったのです。正直、ショックを受けました」
こう語るのは、鈴木治作の鈴木謙三社長(49歳)だ。同社は「ステンレスバルブと言えば鈴木治作」と謳われるほど、ステンレス鋼を使ったバルブ、継手、パイプなど配管機材の専門商社として業界で知られている。
創業以来100年近い歴史を持つ老舗ながら、その間、赤字に陥ったことがほとんどないという安定経営を続けてきた。
鈴木社長が代表に就任した2015年のこと、一度、自社の経営状況を外部に評価してもらおうと、投資育成が投資先企業に提供している経営支援サービスの一つである経営ドックに申し込んだ。
いメーカーから製品を提供。
「私の父(故・鈴木榮一氏)が先代社長を務めていた当時、業容を拡大したのですが、その半面、人材の育成などが不十分になってしまっていました。そこで、父とも話し合って、経営ドックを受けてみることにしたのです。さほど料金も高くありませんでしたし、次世代幹部を育てる意味もあって、4人の部長を送り込みました」
経営ドックは、新たな企業成長の方向性を明示し体質改善の突破口をつくることを目的とし、投資育成が投資先企業の経営陣3~4名と丸2日間、今後の経営方針について話し合い、アクションプランに落とし込むまでの機会を提供するサービスだ。15年5月、鈴木社長に送り込まれた4人の部長たちは、実習を通して大いに学びを得た。その2カ月後、経営状況の分析と評価の分厚いレポートが鈴木社長のもとに送られて来たが……。
「なぜ最低ランクなんだ! と。受講した4人と一緒にレポートを見ましたが、みんなもその結果にうつむき加減で『申し訳ない』という顔をしていました。別に彼ら自身が評価されたわけではないのですが、やはりショックだったのでしょう」
レポートでは利益率の低さが最も厳しく指摘されていた。それまで鈴木社長は、専門商社の業界水準では利益率がそれほど悪いとは思っていなかったが、業界を越えて優良企業の中で比べてみると劣っていたのだ。
「食べていくだけなら不自由なくできていたのですが、将来を考えれば、理想のAランクに近づけるために会社を変えたいと思いました。『よりおいしい料理』を食べたいのなら、戦略的に行動しなければダメだと気づいたのです」
そこで鈴木社長は、「挑む」をテーマに、16年度からの3カ年計画を策定。粗利益率や自己資本などの目標値を設定し、粗利の大事さを社員に訴え始めた。
当時は100億円ほどの売上があったので、1%でも粗利が改善すれば、会社に1億円が残る。
「それを社員に賞与として分配できる。会社が豊かになれば、社員もみんな豊かになれる──と、ひたすら同じことを言い続けました」
だが、安定経営を続けてきた同社には、「決められたことをしていればいい」という風土があり、長年ぬるま湯につかってきたベテランは、仕事の仕方を簡単に変えることはできなかった。
改革に向け3カ年計画を断行 社員の意識に変化が起きた
3カ年計画の柱としたのは、得意先に対する重点配分と、ソリューション営業だ。重要な顧客にはより時間をかけて、顧客が抱える問題の解決策を提案する営業スタイルに変えたのだ。
それまでは、取引先に何か要望されると無料で解決策を提供していた。それがサービスの一環だと考えていたからだ。たとえば特殊な商品を小ロットで頼まれれば、苦労して探し出しては顧客に届けていた。
「ソリューションは当社のノウハウであり、付加価値ですから、その提供には対価をいただくべきです。手間のかかる小ロットの商品は、注文があってもそれなりの粗利が確保されていなければ断りなさいと指示しました。それでも、営業はお客様に頼まれると、なんとか応えようとしてしまう。しかし、そこに無償で応えることへの多少の後ろめたさを、営業がだんだん感じるようになってきた。その意識の変化こそが、改革のために必要なものだったのです」
このソリューション営業への転換は徐々に実を結び、得意先からの受注が増え、会社全体の売上も伸びていった。
2010年(第71期)〜2019年(第80期)※3月決算
鈴木治作提供資料より作成
鈴木社長は同時に、経営の数字を全社に公開することにした。同社では伝統的に「商売は自分でやるもの」という個人商店のような自立自営の考え方があり、自分の仕事に対するコスト意識はそれぞれの社員が持っていた。しかし、自分だけではなく、事業部門、全社レベルのコストなど経営に参画する意識を持ってもらいたいとの思いがあってのことだ。
「1年ほど経つと、社員が『私の財布』を気にするより、『会社の財布』を意識するように変わっていきました」
全社の数字とともに各営業担当の粗利率も公開し、イントラ上で共有。各営業所ではホワイトボードも使って表示した。お互いの足を引っ張り合うような競争ではなく、いい意味でライバルを見ながらモチベーションを上げるため、業績を見える化したのである。
目標を達成した社員に対しては、月曜日に実施している朝礼で努力を讃えた。本社と全国13営業所をテレビ会議でつないで、その社員に対して全員で拍手するのだ。
「この朝礼の機会を使って私は、『自分が何をするべきなのか常に考えること』『チャレンジすること』を主に言い続けてきました」
改革を始めてから1年後、少しずつではあるが成果が現れてきた。粗利が改善すれば、収入が増えることを社員が実感できるようになると、粗利の改善は右肩上がりに進んだ。
「全国の営業所を回って話をすると、中には『年収を増やすにはどうしたらいいのか』と考えている社員がいることもわかりました。そういう社員には会社の利益が増えることが年収アップにつながるのだと伝えました」
改革を始めて以降、鈴木治作は毎期増収増益を続け、3カ年計画が終了する18年度には14年度と比べて粗利率が2.19%増、売上が21%増、営業利益率にいたってはなんと約7倍という驚異的な成果をもたらした。その結果、自然に自己資本も増えた。
さらなる成長・発展のために自社の原点に立ち返る
同社は1922(大正11)年に鈴木社長の祖父である鈴木治作氏が創業し、銅材や鋼材および浴場部品の販売を始めた。その後、バルブや継手を扱うようになり、専門商社として成長する。
61年からステンレス製の配管機材を発売。いまでこそ、ステンレスは当たり前の金属素材だが、当初は馴染みが薄く、高価な新素材だった。
当時、鉄や銅の配管機材が一般的だったが、2代目社長の榮一氏が大学でステンレスについて学び、導入を決意したのだった。
「当社は石油化学プラントに多くの配管機材を納入していますが、化学薬品は鉄を腐食させやすいので、耐食性が強く錆びにくいステンレス製が求められるようになったのです。父は高度経済成長によって必ずステンレス鋼が必要になると直感したのでしょう」
70年代には、取引先の化学プラントの自動化が進み、配管中を流れる流体をコンピュータ制御するようになる。
鈴木治作はこの自動化に対応し、専門商社にもかかわらず自社で工場を持ち、自動弁の組み立てなど自動化のためのカスタマイズを施してから納めるようになった。この結果、大手ユーザーの信頼を得て確固たる地位を築く。
「お客様である大手化学プラントでは、火災や爆発などを防ぐ安全対策に力を入れており、そのために配管機材の納期は長期化しやすいのです。というのも、各社ごとに安全基準が異なるので、それぞれに合わせたカスタマイズが必要になるからです。その対応を短納期で実現できる企業は少なく、当社の強みになっています」と、鈴木社長は誇らしげに語る。
同社は取引先に合わせた材料や部品の在庫を豊富に抱えており、注文が入ると即座に加工し、納入できる。
「私もかつて営業を担当していたのでわかりますが、お客様がプラントを増設するなどの情報が入ると、どのような配管機材を必要とするかを営業が予測して準備するので、短期で納入できるのです。営業にはこうした情報収集能力が必要で、なおかつお客様の生産品を理解していなければなりません」
19年2月には千代田区が主催する「千代田ビジネス大賞」最高位の大賞を受賞した。評価のポイントは、いち早くステンレス製品に着目して顧客に価値あるサービスを提供し、評価を受けていることと「プラント等施設の安全性や生産性について提案するなど、専門商社の領域を越えた配管業のパイオニアとしての地位を確立している」ことが挙げられている。
(右)2年に1回、パートを含む全員での社員旅行。2018年11月、台湾にて。
元々持っていた情報収集力と顧客の需要を汲み取る力にプラスして、3カ年計画でソリューション営業を強化してきたことが今回の受賞に結実したのだろう。
経営ドックのポイントは、自社を客観的に見つめ、いま抱えている問題点の本質をつかみ、自社の原点に立ち返り、成長・発展への戦略づくりをおこなうことにある。鈴木治作が経営ドックを機に、原点に立ち返り自社の良さを再認識したことで、さらなる成長への方向づけがなされたことは、鈴木社長のこんな言葉に表れている。
「私の最大の経営目標は、会社の体幹を強化したい、つまり社員一人ひとりが強くなることです。『治作イズム』の悪い部分を変えて、良い部分をより良くしたい。良い部分とはノウハウや知識を持ちお客様に寄り添うことです。それが当社の強みであり、将来を担う若い人に伝えていくべきことです。千代田ビジネス大賞によって、こうした取り組みが間違っていなかったことを確信できました。一番喜んでいるのは若手社員たちですね。この賞が新卒社員の採用にもつながっていくことを期待しています」
企業と社員の「本気」を引き出す経営ドック
鈴木社長は一連の改革について、「経営ドックでDという評価をもらったことで本気になれた」と言う。
「実は以前から漠然とやりたいと思っていたし、一部すでにやっていたこともあります。しかし、本気ではなかったので、絵に描いた餅に終わっていたのだと痛感しました。そして、当社がもともと持っていた付加価値を堂々と外に出せるようになったことが最大の成果だと思っています。ソリューション営業は手間がかかりますが、そのノウハウはお客様の利益になる。そのお裾分けとして対価をいただくことは良いことだという意識を社員が共有できたことは何事にも代えがたい体験でした」
経営ドックを受けた4人の部長も、会社の改革に協力し、自らも勉強するようになった。うち2人は役員に昇格している。鈴木社長の狙い通り、幹部社員の育成にも役立ったわけだ。
鈴木社長は今回の経営ドックについて、「もしBかCの評価だったら、ここまで取り組まなかったかもしれません。つくづくDでよかったと思います。いま受けたら、AとBの間かな」と笑う。
D評価のレポートは、いつもデスクの脇に置いて自身の励みにしていると言う。「今後も会社の体幹をさらに鍛えていけば、数字は後からついてきます」
改革の手綱はまだ緩めていないようだ。
機関誌そだとう201号記事から転載
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